7. ポテポテ町(2)

 何があってもいいように、荷物を全部持ってきた。ほとんどはピーテの収納魔法の中に収めた。容量限界や魔力消費量が不明だ。プレレの店の商品をテストで色々収納してみたが、限界が分からなかった。収納魔法といえど、使える人でも普通はリュックサック二つ分程度が限界らしい。食料や低品質のポーションも数本買い足した。


 午後からさっそく平野に魔物狩りに出掛ける。草原は背の高い草がまばらに生えているようで、遠くからは魔物がいるのが見えない。とりあえず畑と草原の境目まで進む。


「見えないけど、大丈夫?」

「はい。臭いか音で、なんとなく分かります。まだ近くにはいません」


 獣人恐るべし。探索は探索魔法とかなしに感覚で分かるという。目もいいんだよな。ずるいよね。

 草原に入ってまず見つけたのは、アイアンマイマイという鉄カタツムリだ。六十センチほどの大きさで殻が黒い。


「アイアンマイマイだ。どうする」

「割と美味しいです。一人でも大丈夫だと思います」

「分かった。やってみる」


 とりあえず後ろを向いているカタツムリの貝殻部分に剣をぶつけてみたが、はじき返された。


「貝殻は鉄でできてるので硬いです。頭を狙いましょう」


 俺は回り込んで、頭のある方を狙う。

 カタツムリは触覚を触手のように伸ばしてきて、絡めとろうとしてくる。エイヤーと掛け声を掛けて、触手を横に斬りつける。あっさりと切断できた。

 「ピギャー」と口を開けてカタツムリが鳴いて、威圧してくる。口は前歯は平らだが、隅に牙が生えている。


「怒らすと怖いですよ」

「そういうのは先に言ってくれ」


 触手は二本付いているので残りの一本で、こっちを狙ってくる。鞭のように横から伸びてきたところを迎え撃って、剣を縦に振って触手を切断する。

 攻撃手段を失ったカタツムリの首を横なぎで斬りつけるが、首が半分までしか斬れない。もう一度、剣を振って同じ場所を狙い、首を切断できた。


「案外簡単だったね」

「相手は動きも鈍いですし、楽勝みたいですね」

「どの辺が怖いんだろう?」

「口を開けた顔が怖いですよ」

「見た目かよ」

「触手で掴んでむしゃむしゃします。ちなみに雑食性です。森にもたまにいました」


 カタツムリは身は食用に、殻は鉄製品の材料になるそうで全部持って帰る。魔物なので十級魔力結晶が手に入った。全部ピーテの収納に入れた。


「収納便利だな」

「収納なしだと二匹が限界ですね」


 なお収納は真空パックを魔法瓶に入れたような状態になるらしい。熱い物は熱いまま、冷たい物は冷たいままだが、時間経過はするようだ。

 俺たちは次の獲物を探す。


「右前方、ちらっと見えました。スタンダード・グラスホッパー接近です」

「了解。どうする?」

「素早いので、二人で掛かりましょう」


 まずピーテが前衛になる。バッタが跳躍して突っ込んできたのを左に避けて剣を一撃入れる。長さ一メートルほどの巨大バッタだ。色は茶色。

 剣が当たったところは背中の真ん中で固い部分らしく少し傷がついた程度だ。


「固いです。関節を狙いましょう」


 俺もピーテに遅れて剣を足の関節に叩き付ける。バッタは真ん中の足が折れたようだ。

 しかしすぐに、バッタはジャンプして後ろへ飛んでいった。そして後ろ側から俺に向かって飛んでくる。

 俺は回避が間に合わない。左手の木の盾を前面に出して踏ん張る。ドンと音がして盾にバッタが直撃する。バッタは気を失ったのか一瞬動きが止まる。そこをピーテが後ろ足に一撃入れて、根元から跳ね飛ばす。

 バッタはバランスを失い、倒れてしまう。

 ピーテと俺は柔らかいお腹側を攻撃して仕留めた。


 バッタはこの地方では食べないようだ。しかし、スタンダード(標準)でこの大きさなのか。もしかして、ジャイアント・グラスホッパーとかがいて、さらに大きいのだろうか。魔力結晶だけ回収して後は捨て置く。


 その後も、バッタ、バッタ、カタツムリ、バッタと一匹ずつ現れてやっつけた。

 最後のバッタの結晶を回収した直後だった。


「ドラゴン・フライ接近中です」

「ドラゴン? やばい?」

「大トンボですよ。大丈夫です」


 全長八十センチほどの赤トンボだった。でかい虫ばっかだな。あれ、一匹見えたと思ったら、二匹、三匹、四、五、六。全部で六匹も飛んでいる。

 ピーテは大丈夫って言ったけど、ちょっとやばいかな。

 そのうちの一匹が急降下してこっちに飛んでくる。俺は盾を構えつつ屈んで身構える。

 しかし俺ではなく倒したバッタの残りを掴んで飛んでいった。他のトンボも、バッタのパーツを掴んでは飛んでいく。

 おれも掴まれてお空の旅、とはならなかった。


「ふう、助かった。食われるかと思った」

「大丈夫って言いました」

「うん。確かに」

「ところで、いままで一匹ずつしか相手にしてないけど、三匹以上出てきたらどう思う?」

「逃げましょう」

「囲まれたら?」

「神にお祈りします」


 あまり考えずに二人で戦闘しているが、数が違うと不利になるのは目に見えていた。やばい状況を経験してから対策するより、先に分かっているなら何とかするべきだろう。


「他の人とも組もうか?」

「それがいいと思います」


 俺たちは、いったん冒険者ギルドに戻ることにした。

 結晶を換金して、カタツムリの殻を引き取ってもらう。カタツムリの身は肉屋が直接引き取ると言われた。だから近くにある肉屋に寄った。


「アイアンマイマイの身、二匹分ね。最近、身まで持って帰ってくる人があまりいなくてね。助かるよ」


 二匹で銀貨四枚になった。長時間狩るパーティーなどは、重い身を担いで往復するより、小さい割に高価な魔力結晶のみを集めて回り、単位時間あたりの稼ぎを良くしているという。

 あと、お肉屋と言いつつ新鮮な物より、肉・魚の干物を中心に売っているようだ。ポコジャーキーが売っていた。カエルの干物も一匹だけ置いてあった。


 再び冒険者ギルドに戻る。壁のパーティーメンバー募集の貼り紙、といっても紙じゃなくパピルスだが、を順に眺める。

 どれもランクC以上募集とか、ランク指定なしでも魔法使い急募とかそういうのばかりだ。


「ちょうどいい感じのありませんね」

「あたしもなかなか募集要項に合うのがないにゃ」


 隣で俺たちと同じように、募集の貼り紙を見ていた犬耳の少女が、自分に話し掛けられたと思って返事をした。犬耳なのに語尾が「にゃ」である。どうなってるんだ、異世界。


「おっと、あたしに話し掛けたのじゃないみたいにゃ。ごめんにゃ」

「いえ、別にいいですよ」

「あら、異国のオスにゃ」


 なんかキラキラ瞳を見開いて、俺たちというか主に俺を上から下まで眺めてくる。


「ちなみに、どんな募集をお探しですか?」

「ほぼ新人でも受け入れてくれる、まずは一緒に近場で戦って経験が積めそうなパーティーだにゃ」

「ほうほう。ちなみに、経験はどれくらい?」

「おとっさんにたくさん話を聞いたにゃ。魔物の特徴や弱点に詳しいにゃ。実践はおとっさんが休みの日にたまに連れてってくれるだけにゃ」

「俺たちと一緒に戦う?」

「はいにゃ。決めたにゃ。あたしは即断即決にゃ。よろしくお願いしますにゃ」

「ずいぶん積極的だね」

「ここ一か月、要望に会うパーティーに一個も会わなかったにゃ」


 なかなか、世知辛い世の中のようだ。しかし、俺たちは何故かこれから王都に向かって、召喚のことを調べたり、帰る方法を探すことになっている。

 その辺で定住してもいいんだが、今はプレレの家に世話になってるからいいが、いつまでもそう言う訳にもいかない。冒険者続けるにしても、ピーテも飽きたら村に帰るだろうし、やっぱり異世界で定住するにはまだ不安過ぎる。


「俺たちは、暫くしたら王都へ行くつもりなんだ。その後も俺はもっと遠くへ行くかもしれない」

「王都! ちょうどいいにゃ。私も一度行ってみたかったにゃ」

「じゃあ、王都までは、とりあえず一緒に行くってことでオーケー?」

「オーケーにゃ」

「ピーテもいい?」

「私ももちろん、それで問題ないです」


 名前をまだ聞いていなかった。名前はソテレーティア。通称ソティ。十八歳。

 こうして行き当たりばったりだが、三人パーティーで旅費を貯めることになった。


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