6. ポテポテ町

 朝、起きようとしたら、暖かくて柔らかい物が体にまとわりついていた。そう、布団だ。いや、これはピーテがくっ付いてきている。どうしようもないので、俺はそのまま目をつぶってピーテが起きるまで待つ。するとピーテがなにか寝言を言った。


「ポテ、ポテ……」

「ポテポテ町?」

「ポテトチップスをもう一枚食べたいです。むにゃむにゃ」


 夢の中ではポテチにあり付けたようで、なんかモグモグしている。かわいいので、そのまま眺めることにした。ポテポテ町は次に行く町の名だ。

 するとすぐに口が止まって、パチッと目が開いた。


「お、おはようございます」


 ピーテの顔が赤くなる。抱き着いているのに気が付いたらしい。それともポテチか。俺は思わずニヤニヤ変な顔になりそうだったので、急いで反対側を向いた。


 朝起きて宿で固焼き黒パンとジャム、味の薄い野菜スープの朝食を食べると、さっそく街道を王都方面に進む。ベケベケ村は、宿屋がある以外に特産など何もない。

 プレレの住むポテポテ町まで、丁度一日分の距離だ。

 途中で休憩を挟んだもの以外、魔物も動物も出てこなかったので、順調に進んだ。休憩時間の半分は俺たちの訓練の時間でもある。少しでも剣を振っておいた方が良いと思ったのだ。


 夕刻、ポテポテ町に到着した。この町では入町税があるらしい。一人銀貨一枚も取られた。プレレは町の住民なので無料だ。昨日の宿の泊まり賃が一部屋で銀貨三枚、夕食が一人大銅貨五枚、朝ご飯は無料だったので、それくらいの価値の値段だと思ってほしい。

 銅貨十枚=大銅貨一枚。大銅貨十枚=銀貨一枚だ。銀貨百枚=金貨一枚で、おそらく銅貨一枚が十円位の価値だろう。銅貨は十円玉、銀貨は百円玉に似ていて、大銅貨は五百円玉みたいに少し大きい。貨幣は魔術的な文様が入っていて虹色に光る部分がある。偽造は困難だ。金貨は十万円の価値なので、まだ見ていない。


 プレレの店兼住居の裏に馬車を回して止める。裏にはアルパカ小屋が建っていて、店には商品搬入口がある。

 すぐに奥さんと子供が出てきてプレレを迎える。先に携帯で連絡とか無理なので、俺たちが来ることは知らされていない。

 俺たちの分のご飯がないことを謝られた。しかし俺たちは今日の晩御飯は先に決めていた。


「俺たちは酒場のカエル料理を食べようと思ってました」

「そうなんです。私の村のカエルなんです」

「それならいいわ。ちょっと変わった味だけど、とても美味しいのよ」


 俺とピーテはカエル料理の店に向かう。名前は確かエルーダ亭とかいう。町といっても村を二回り大きくしたような大きさなので、すぐ見つかった。木造の店で普通の感じだ。


「へいらっしゃい、珍しい異国のお客さん。二名様どうぞ」


 酒場というより飯屋って感じだ。中には数組の客が既にいる。メニューはテーブルの上の白木の衝立に直接書かれている。

 お水を木のコップに入れて持ってきてくれる。このあたりでは水源豊富なので、水はおまけでくれる。


「お水はサービスです。お代わりも無料です」

「このカエル赤煮込みを二つ、黒パン二つをください」

「へい。二つで銀貨三枚と大銅貨二枚だけど、払えるかい?」

「はい、なんとか」


 聞いていた通りちょっと高い。本当は節約したいところだが、ピーテへの餞別せんべつが思いのほか多かったので大丈夫だろう。料理は時間はかからずすぐ出てきた。鍋から移すだけなんだろう。赤いスープにカエルと野菜が煮込んである。


「この赤いのは唐辛子だね」

「ちょっと熱くなって不思議な味がします」

「こういうのは辛いって言うんだよ」


 唐辛子はそれほどの量ではなく子供でも食べられるぐらいだ。野菜の甘味や塩味もして美味しかった。ピーテは「辛い」を覚えた。


 お代を払って、今日の宿もといプレレ宅に戻る。


「ベッドは空いてませんが我慢してね」


「俺たちを泊めて貰えるだけで十分です」

「ありがとうございます」


 適当に空いてる場所にモーフを敷いて寝る。またしても雑魚寝だ。おやすみなさい。


 翌日。プレレは仕事は休みらしく、商人ギルドに王都方面の馬車で乗せてくれる人がいないか聞きに行ってくれる。乗合馬車もあるが、足が遅い上に料金が結構高いのでお勧めしないそうだ。


 今日はまずピーテと共に神殿に行こうと思っている。魔法を覚えるのだ。


「魔法、使えるようになりますかね?」

「きっとなる、頑張ってなる。気合いでなる」

「獣人は魔法の才能があまり高くないと言われています」

「プレレのおっちゃんだって火をつけてたじゃないか」

「それもそうですね」


 神殿の場所はすぐにわかった。町のはずれの小高い丘の頂上に、それっぽい形のものがあったからだ。

 俺たちは入ってすぐのおばちゃんに用件を伝えた。


「魔法使いのための祝福ですね。それは巫女様がやってくれます。しばしお待ちを」


 俺たちは、奥の部屋に通されて少し待たされた。

 巫女様は金髪の犬耳少女だった。服は白ベースのワンピース風で袖もスカートも長い。青い刺繍ししゅうが施してあった。高そうだ。


「お待たせしました。私が今回務めさせていただく、エルタです」

「俺はホクトです」

「私はピーテです」


「では、まずこの聖サルクのペンダントをご購入ください。一つ銀貨四枚です」


 散財だが仕方ない。二人分購入する。聖サルクは円を三つ正三角形の頂点に並べて弧が接している形で、さらに外側を円で囲んでいる図形だ。銀の合金製で金メッキされているらしい。首から掛けるチェーン付きだった。


「ペンダントを首から掛けて、指を組んで目をつぶってください」


 言われたとおりにする。二人同時でいいようだ。


「神の名のもとにこの者たちに祝福を、聖サルクの知恵をお与えください」


 なにやら暖かいぬくもりを感じる。これが魔力の流れらしい。


「目を開けていいですよ」

「何も変わってないような気がする」

「魔力を感じませんでしたか? あれは私エルタの魔力です」

「それなら感じました」

「魔力を掌に集め、火種が出るイメージをすれば着火魔法が使えるはずです」

「他には?」

「清潔魔法と契約魔法、あまり使える人はいませんが収納魔法が使えます。他にも多数あるらしいのですが私は知りません」


 俺は清潔魔法で体をきれいにするイメージ、水が全身をぬぐうイメージをする。

 あまり変わらないが、気持ちすっきりしたようだ。髪を触ってみたらベタつきがなくなって、サラサラヘアーになっていた。


「やった! 清潔魔法はうまくいった」


 俺は腰から下げている剣を収納するイメージをする。うーん。イメージ。


「収納魔法はうまくいかないようだ」

「レアですからね。仕方ありません。練習を続ければできるようになる可能性もあります」


 隣を見ると、ピーテの腰から剣がなくなっている。


「剣は?」

「あ、なんか収納できました」


 ピーテ才能あるな! ずるいぞ。主人公は転移してきた俺のはずなのに。

 それを見ていた巫女エルタが忠告する。


「収納魔法はレアなので治安の悪い所などでは見せない方がいいでしょう」

「ありがとうございます。気を付けます」


 お礼を言ってから俺たちは神殿を後にした。ピーテは上機嫌である。なぜか俺の手をつかんでブンブン振り回している。


「ふふ、魔法できました。ふふふ」

「あんまり浮かれていると転ぶぞ」


 ピーテがちょっと怪しい人みたいだ。まあうれしいのは分かる。


「あと、お金が王都までは持たないかもしれない」

「狩りとかして、稼ぎますか?」


 ふむ。それはいいかもしれない。魔力結晶もお金になるそうだし、危険といえば危険だが、町でアルバイトというわけにもいかなさそうだし。とりあえずプレレの家に戻ろう。


 プレレ家では、プレレが既に昼寝をしていた。子供は十歳位なので、アルバイト君と共に店にいた。アルバイト君によればプレレ曰く、丁度いい王都行き馬車がなかったそうだ。

 お金のことを話したら、冒険者ギルドでも行って来ればどうかということだ。

 俺はピーテと共に冒険者ギルドへ向かった。


 冒険者ギルドでは、狩猟依頼などがあった。主なものは革と肉だ。この周辺には川と畑が広がっていて、その外側には未開拓の平野がある。受付に行って確認する。今は誰も並んでいない。


「ギルド員以外でも採取系の報酬はでます?」

「はい、報酬はギルド登録をしていなくても満額出ます。しかしギルドランクの対象にならないので、先に登録したほうがお得です」

「なるほど、他には?」

「あと受領が必要な依頼は登録しないと受けられません」


 ギルド登録するかピーテと相談する。係員曰く、冒険者ギルドは大陸共通で、個人ごとギルドランクがあるらしい。業績によってランクが上がり、上の依頼を受領できるようになる。数日はこの町にとどまる必要があるし、中ランクにならないと、馬車の護衛任務の依頼を受けられない。

 俺たちは登録することを決めた。登録料で大銅貨四枚取られた。

 業績はギルドポイント制のようだ。最初はゼロポイント。ギルドランクDだ。四段階らしい。ポイントはカード自体に記録されていて、ギルドの魔道具で見ることができる。本人認証があり、魔道具に自分でカードをかざす必要がある。

 カードの再発行は無理なので、なくさないようにと注意された。


 とりあえず、受付の人に情報を貰い、平野にいる狩猟依頼が出ている魔物を狩ることにした。

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