物語のない物語
社会の歯車となり、なんと季節を6回過ごした。7回目の季節になったものの、何か女装人生が豊かになったかと振り返るとそこには草花が全くないただの土の道である。
というわけでその土の道を辿る。いざ社会人となり、イメージしていた「社会人としての忙しさ」なんてものは無く、幸いなことに毎日定時で帰宅できる職場ではあったのだ。通勤時間が長いことや仕事内容にやりがいが感じられないことに盲目になればよい職場なのだろう。
そのうえで自分の環境を考え直し、女装人生が想像していたよりも殺風景な理由はやはり「服のサイズ」と「メイクのハードル」、そして「実家暮らし」だと結論付けた。社会人となり、大学生に比べればはるかに金銭的に楽にはなった。が、それはあくまで大学生と比較すればの話である。あれやこれやと他の趣味や今まで我慢していた暮らしていく上で感じる「無くてもいいがあると便利」なものを揃えていると、サイズに満足できるかどうかわからず、商品の特性上返品もできないものに1着1万円近くかけることができないものだった。
そして「メイクのハードル」が中々であった。金額的には服を1着買うくらいあれば最低限は一通り揃えられるらしかった為、手元に揃えられないわけではなかった。では何がいけなかったかというと、気持ちの問題である。
義務教育を受けていた時から付きまとってきたアトピー性皮膚炎のせいでかきむしった傷だらけの肌がメイクでどうにかなるのか。
机上の空論の知識で、1回目はともかく、回数を重ねたとて技術を要するメイクが身についていくのだろうか。
服を着ることよりも時間がかかることは明々白々だが、そんな時間を実家暮らしの中で見つけることができるのだろうか。
そもそも「女装」が目的ではなく、「可愛いものを身に着けること」が原点ではなかったか。
しかし、それを身に着けてもある程度違和感なく、その可愛さを発揮するためのメイクでもあるのではないだろうか。
こんなことを考えているうちに手軽に同じくらい楽しめるほかの趣味に逃げてしまっていた。読者諸賢には女装人生の先駆者もいるかも知れない。そんな方たちには勝手ながら尊敬を表するとともに、この愚鈍な私を笑っていると思われる。いや、笑ってほしいだけかもしれない。
ともかくこんなことをしている(何もしていない)うちに社会人2年目になり、それももう3年目が見えてくる、霜を見つけ始めた季節になった。
これから私はどうしていくのだろうか。もはや自分のしたいことが分からなくなってきた気がする。真っ白のキャンバスから色を見つけることも難しいが、やりたいことが多すぎて重なり合った色で黒くなったキャンバスから、女装人生という一つの色を見つけることもまたこれ程難しいとは。
次回の1ページが女装人生が好転したものになることを望みつつ、こんな物語に人生の時間を使ってくださる読者諸賢に感謝を申し上げる。
セーラー服に袖を通した大学4年生 翠佳 @suikei
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