朝樹小唄

 あるところに、何でも好きな夢を見られる機械があった。人々はこぞってこの機械のもとを訪れ、各々自分の望む夢を見て行った。意中の人と結ばれる夢を見るもの、巨万の富を手に入れるもの。機械の中の眠りにおいて望むものを手にした人々は、晴れ晴れとした顔でそこを後にする。

 ここでは以前見た夢と同じものは二度と見ることができない。人々の依存防止と混雑緩和のため、開発者がそう設計したのだ。だがまあ、困ることでもないだろう。腹がはちきれるまでアイスクリームを食べたいなんて、しょっちゅう願うやつもそうそういないだろうから。


 ある時、ここに一人の中年男性が訪れた。彼は何かを背負っているかのように背中を丸め、抑えられないため息とともに機械の中へ入って行った。

夢を見終えて出てきた彼の表情は、他の人たちと同じように、晴れ晴れとしていた。奇妙なことに、彼が望んだ夢は、愛する妻の最期を看取るものだったという。


「悲しむことは、夢の中でじゅうぶんしてきました。妻を、最後まで笑顔で送り出してやりたいと思ったんです」


そう、楽しい夢ならば、現実で何度でも叶えればよいのだ。

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朝樹小唄 @kotonoha-kohta

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