第3話「ゾンビ」



「そうだ、母さん!」


なぜ異世界でもないのに魔力があるのかはわからない。

でもそんなことよりハヤトは母のことがなによりも心配だった。


急いで立ち上がり玄関の扉を開ける。


「なんだよ、これ」


玄関を開けた先。

そこには、ピラミッド型の透明なガラスが家を囲こうように張られていた。

ハヤトはそのガラスに触ろうと手を伸ばす。


「えっ」


しかし、伸ばした手はまるで水の壁に触るかの如く通り抜けた。

これも魔力が現れたせいかもしれない。

でも今は、気にしている暇がない。


「急がないと」


ハヤトは不思議な壁をくぐり抜け、母の元へ走り出す。

母の職場までは電車を使って早くとも40分はかかる。


「頼むから無事でいてくれよ。ん?」


少し走ったところでスーツを着た男性が蹲っているのを発見した。


「大丈夫ですかー?」


ハヤトの声に蹲っていた男が顔を上げる。

そこでハヤトは固まった。

顔を上げた男の口にべっとりと赤い液体が付着していたから。

そして、死角で見えなかった男性の体の下には女子高生が首元から血を流しているのが見えた。

ハヤトは、全身に鳥肌が立つのを感じた。


男は新たな獲物を見つけたかのように立ち上がりハヤトに向かって走り出した。

よく見ると男性の首元にも何かに噛みつかれたような跡がある。

男の走り方は手をぶらぶらと左右に揺らし体を前に傾けるような独特な姿勢だった。

目は真っ赤に充血し肌は青白い。


その姿はまさに、


「”ゾンビ”」


ハヤトは急いで来た道を引き返す。

しかし、男の走るスピードは映画で見るようなゾンビよりも格段に速かった。


”追いつかれる”


ハヤトの頭にさっきの女子高生の姿が思い出される。

その一瞬の恐怖のせいか足がもつれハヤトは地面に転倒した。


振り向くと男はすぐそこまで来ていた。


「くるなあああああああ!」


心を恐怖に埋め尽くされたハヤトは悲鳴を上げた。

しかし、男は止まらない。

その男、いやスーツを着たゾンビはハヤトの首元に噛みつこうと口を開けた。


その時、

ハヤトの心臓あたりから体温が抜けていくような感覚がした。

そして、どこからともなく吹き荒れた風が、迫っていたゾンビを空中へと吹き飛ばした。

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