Happy Halloween

「黒田って、陰キャかと思ってたわ」


 その言葉に困った顔をする黒田。


「いや、俺は黒田を頭おかしいヤツ認定してるけど」


 そう返せば、周りはゲラゲラ笑う。


「黒魔術やって、黒田に死神が乗り移った!って騒いだお前のがやべー奴な」


「うっせぇ!黒田めちゃくちゃ足早いかんな?!一回追いかけられてみろ!」


 俺の発言を誰一人信じてくれない。


「黒田って勉強出来るだけでも、距離感あるのに、運動神経良いとか非の打ち所ねぇじゃん」


「勉強は⋯まぁ、目標があるから必死にやっただけだよ。それより、陰キャとか陽キャとか言うの辞めといた方がいいと思うよ。その括り嫌う人存外いるから」


「ただのイケメンじゃねーか」


「高校デビューのあんたらとは種族が違うんだよ、ばーか」


 クラスの女子にバカにされ、


「俺らが黒田とつるむようになったから、こいつの良さが分かったやつにバカとか言われる筋合いねぇし!」


 俺を含めた数名が騒ぐ。


「trick or treat」


 デカい鎌を背中に付けた死神っぽい衣装を纏った黒田が、チョコと飴を両手に言い放つ。


「え、なんで死神おまえが菓子くれんの⋯?」


「女子によからぬ事を考えてるのを牽制する役回り」


「さすがインチョー」


「加々美ー、あんたも着替えて」


 一人の女子に腕を引かれ、着替えを渡される。


「え、ちょ?!まて、おかしいだろ!」


「くろりんとセットだから諦めて、かがみん♡ね、お願い〜!」


 女子数人が上目遣いで頼み込んでくるが退路は皆無だ。


「いや、俺⋯なんで女装なの?つか、丈短い!お前らより長くなきゃダメだろ!男だぞ、俺!」


「他クラスの子達からのリクエスト♡」


「黒田にさせろよ!」


「バカなの?くろりんとあんたの身長だったらどっちが可愛くなると思う?」


「黒、田⋯?」


 疑問形で言ってはいるが、無理があるのは承知している。承知していても、女装を避ける為にはそう言わざるを得ない。


「後でくろりんも女装させてあんたとツーショット撮らせてあげるから諦めて!つかさ、早く着替えないとアタシらで着替えさせるけど?」


 目の笑っていない笑みでジリジリ近づいてくる女子に、拒否権など存在しないと悟る。


「わ、分かったから!」


 諦めてを身に纏う。


「黒田は死神なのに、なんで俺ゴスロリ?だよなこれ⋯分かんねぇけど」


 名称が分からず、黒いフリフリの衣装に触れながら首を傾げる。


「くろりん、あの布の下執事っぽい衣装なんだー」


「俺もそっちが良かったわ!」


「あんたの身長が足らないの!それに、あんたはお嬢様で、くろりんは執事だから♡で、これ被って」


 カツラを被らされ、あっという間に化粧を施され、


「わー加々美姉だわ、そっくり!」


 とよく分からない太鼓判を押される。


「ほら、見て?加々美のお姉さんて言われても分からないレベル」


「うお?!ねーちゃんだ!すげぇ」


 出来栄えに感嘆の声を上げれば、化粧をした奴が嬉しそうに笑う。


「加々美は、高飛車なお嬢様になりきって!声の高さは致し方ないから、頭が高い!とか下民が!とか言ってればいいから」


 女子の勢いに押され、他クラスのリクエストだと言う高飛車なお嬢様になりきり、ハロウィンを楽しむ。


「なぁ、学校で変装これしてて怒られねーの?お前、頭イイ代表なのに」


「逆だよ。僕がやりたいって言ったから、許可がおりたんだよ」


「優等生代表だもんな、お前は」


「んー⋯どちらかと言えば脅迫が正しいかな?」


「はぁ?!」


 予想の斜め上の返答に声が裏がえる。


「お菓子か悪戯かの二択を、許可か寿命かの二択にしただけだよ」


「いやいやいや!お前バカなの?!その二択がそもそもおかしいだろ!」


 立ち止まって叫べば、黒田は楽しそうに笑う。


「僕以外のが羽目外したら大変だろう?」


「待って、お前以外の種族って何⋯?」


「知らぬが仏、かな?案外ここには色んながいるから。加々美は僕を呼んだから大丈夫だけどね」


 こうして、黒田とクラスの女子が計画(?)したハロウィンは謎を残して、無事終わった。


 終わり

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