第3話「いい手駒になりそうだわ」最終話
「クロリスは俺と同じ歳なのにこんな問題は解けないのか?
本当にクズだな!
裁縫やらせても、剣術をやらせても、算術や歴史を習わせても、ピアノをやらせてもまるで駄目!
本当にこんな成績でアーベル伯爵家の跡継ぎになれるのか?
僕がアーベル伯爵家とヴィレ子爵家の両方を注いだ方がいいんじゃないのか?」
アーベル伯爵家に一緒に住むことになったいとこのカールが、事あるごとに私に難癖をつけてくる。
やり直す前の人生では母の死後、私はろくに教育を受けさせてもらえなかった。
なので二度目の人生とはいえ、初めて習うことばかりで勉強には苦労していた。
父と継母になるはずだったゲレと異母妹のハンナを追い払うことに成功したのに、いとこのカールが私をいじめるなんて思わなかったわ。
人生って一人の敵を倒してもまた別の敵が現れるのね。
そっちがその気なら私だって容赦しないわ。
カールに対して若干の殺意が芽生えた時、叔父様とカールが話しているのを偶然立ち聞きしてしまった。
「カール、クロリスはいずれアーベル伯爵家の後を継ぐ人間だ。
いとことはいえ分家のお前とは格が違うんだ。
今すぐクロリスへの態度を改めなさい!」
カールはヤコブの叔父様に叱られていた。
いい気味だと思い聞き耳を立てていると……。
「お父様、そんなこと言われなくてもわかっているんです!
クロリスは優しくていい子だし、美人だし、努力家だし!
本当は僕だってクロリスに優しくしたいし、クロリスと仲良くなりたいんです!
なのになぜかクロリスの前に立つと、悪口を言ってしまうんです!」
カールの予想外の言葉に私は絶句した。
「もしかしてカールが勉強や剣術やピアノや裁縫を頑張っているのはクロリスに認められたいからなのか?」
「はいそうですお父様。
クロリスに認められたくて、クロリスに褒めてもらいたくて、勉強も剣術もピアノも裁縫も頑張っているんです。
……でもクロリスを前にすると変に意識してしまって上手く話せなくて……」
「クロリスは素敵な子だ。
カールがドキドキしてしまうのもわかるよ。
でもそんな意地悪な態度ばかりとっていたらクロリスに嫌われてしまうよ」
「お父様、僕は最近気づいたのです!
ただのいとことしてクロリスの記憶に残らないのなら、意地悪な男としてでもいいからクロリスの記憶に残りたいと!」
私の知らない間にカールは色んなものをこじらせていた。
「叔母様の葬儀の時、悪人と知りながら実の父親を健気に庇おうとするクロリスを見て、僕の中で何かが芽生えたのです!」
「それはきっと恋心だよ、カール」
「恋……! これが……!」
私が父への殺意が芽生えた刹那、カールの中で恋心が芽生えていたらしい。
カールが私を好き……これは上手く利用できるかもしれないわ。
このまま何もしなければ、来年私はエック子爵家のジェイと婚約させられてしまうわ。
この世界のジェイはまだ私に何もしていない。
だけど私は、ジェイ・エックが美人にそそのかされて婚約者をゴミのように捨てる浮気者のクズ男だと知っている。
そんなクズ男とやり直した後の人生でも婚約するなんてごめんだ。
カールが私に恋をしているなら都合がいい。
カールはアーベル伯爵家の血を引いているため金色の髪に青い目をしている。背が高く目鼻立ちも整っていて頭もいい。
ありふれた茶髪に茶色い瞳に平凡な容姿で怠け者のジェイの千倍はましだ。
ジェイとの婚約話が出る前に、カールを私の婚約者にしてしまおう。
いつか私の前にハンナが現れる可能性も捨てきれない。
ハンナにとって私はハンナの親を殺した憎い仇のはず。
カールはいい駒として使えそうだわ。
カールと手を取り合って、ハンナを返り討ちにしてやりましょう。
やり直す前の人生で、いじめられてもただひたすら耐えるだけだった私はもういない。
せっかく人生をやり直したのだ、これからはやられる前にやってやる……そのぐらいの根性がなくては伯爵家の跡継ぎとして生きていけない。
そのためには手札がいくらあっても多すぎるということはない。
カール・ヴィレ、いい手駒になりそうだわ。
死ぬまで利用させてもらうわよ。
カールと同じ家で過ごすうちに、私の心に変化が起こりカールへの恋心が芽生ることを……。
一度目の人生で知ることのなかった恋を知り、一度目の人生では通うことの出来なかった学園に通い友人を得て、カールと結婚し、伯爵家を継ぎ、女伯爵として良い家庭を築いていくことを………このときの私はまだ知らない。
――終わり――
「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」完結 まほりろ @tukumosawa
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