第2話「『お父様は悪くないの!』と叫んでみた」ざまぁ回




「止めてお祖父様!

 お父様は悪くないの!

 お父様を責めないで!」


「しかしな、クロリス……」


「お父様はただ愛する人と一緒になりたかっただけなの!

 だからお医者様と一緒になってお母様のご飯に毒を入れたの!

 お父様は愛する人と引き離された可哀想な人なの!

 だからお父様を捕まえないで!」


私は声の限り叫んだ。


私の言葉を聞いて辺りはしんと静まり返った。


「今の言葉は本当かクロリス?」


祖父が鬼の形相で父を睨んでいる。


父は顔面蒼白で口をパクパクさせていた。


「私お父様が書斎でコープス先生と話しているのを偶然聞いてしまったの!

 お父様はお母様と出会う前からゲレさんのことが好きだったのよ!

 お父様はお母様と結婚してからも、ゲレさんのことだけを愛していたの!

 お父様は愛する人との仲をお母様とお祖父様に引き裂かれた可哀想な人なの!

 お父様は、お祖父様や叔父様がお母様に送った誕生日プレゼントや女神の生誕祭のプレゼントを、こっそり盗み出してゲレさんに送っていたわ!

 お父様がお母様を殺害するのに使った毒は、お父様の愛人のゲレさんの家にあるって言ってたわ!

 でもお父様を責めないで!

 お父様は真実の愛で結ばれたゲレさんとの仲を、お祖父様とお母様に引き裂かれた可哀想な人なんだから!!」


私は力いっぱい叫んだ。


私の言葉を聞いた祖父は悪魔のような形相で父を睨んでいる。


祖父だけでなく叔父様もいとこのカールも恐ろしい顔で父を見据えていた。


「誤解だ……!

 クロリスは何か勘違いをしているんだ……!

 母親を亡くし正気を失っているんだ……」


父がうろたえながら弁明をした。


父の顔色は青を通り越して真っ白だった。


「葬儀は中止だ!

 ヤコブ、エリーゼの遺体について調べろ!

 主治医のコープスは信用できん!

 他の医者に調べさせろ!

 それからベンとコープスの身柄を拘束しろ!

 今すぐベンの愛人だというゲレという女の家を突き止めろ!

 その家にはエリーゼを殺害した時に使われた毒と、エリーゼの私物があるはずだ!!」


祖父の怒号が墓地に響いた。


「はい!

 父上!」


ヤコブ叔父様が返事をした。


父はその場から逃げようとしたが、ヤコブ叔父様にタックルされ捕らえられた。


どさくさに紛れて逃げようとしていたコープス先生は、カールに足払いをされ墓穴に頭から落下した。


雨で土がぬかるんでいたので、コープス先生は頭にたんこぶを作るだけですんだ。


後日叔父様の呼んだ医者により母の遺体が調べられ、母が毒殺されたことが判明した。


そしてヤコブ叔父様の雇った探偵により、父の愛人だったゲレの自宅が突き止められた。


ゲレの自宅からは母の殺害に使われた毒と、祖父と叔父が母に送った宝石やドレスなどがたくさん出てきた。


父とゲレとコープス先生は警察に捕まり、裁判にかけられた。


コープス先生は父から多額の金銭を受け取り、医者としての誇りを捨て母の毒殺に加担したことを白状した。


ゲレは

「貴族の令嬢として何不自由なく育ち美人だったエリーゼが嫌いだった!

 殺してやりたいほど憎かった!」

と裁判で述べている。


父は

「ゲレを愛していたが、ゲレと結婚して平民になるのが嫌だった。

 妻のエリーゼを殺害し、娘のクロリスを伯爵家の後継者にし、その上でゲレと再婚し、俺とゲレの間に生まれた娘のハンナをクロリスの養女にし、全財産をハンナが相続出来るように手続きしたあと、クロリスを殺す予定だった」

と自白した。


身勝手な理由で女伯爵だった母を殺害した父と共犯者のコープス先生には、死刑の判決が下された。


ゲレは直接母の殺害に関与していないが、父が母を殺害するときに使った毒を父から預かって自宅に隠していた。


平民が貴族の殺害計画に関与していただけでも重罪だ。


母の私物が大量にゲレの家から見つかったこともあり窃盗罪もプラスされ、ゲレは大衆の前で絞首刑に処されることが決まった。


一人残された異母妹のハンナは、劣悪な環境だと評判の地方の孤児院に送られた。


強かなハンナのことだ、孤児院に送られたぐらいで伯爵家の財産や貴族としての地位を諦めたりしないだろう。


成長したハンナは、美貌を武器に裕福な商人などに取り入り、いつか私の前に敵として現れるかもしれない。


その時は持てる力を全て使いハンナを踏み潰してやろうと思う。


こうして女伯爵殺害事件は幕を閉じた。


私は心の中に芽生えたほんの小さな殺意によって、母の仇を討つことに成功した。


祖父が後見人となり、私は伯爵家の跡継ぎに決まった。


祖父だけでは頼りないと思ったのか、早くに奥方を亡くしたヤコブ叔父様と、いとこのカールもアーベル伯爵家に住むことになった。


これにて一件落着、めでたしめでたしのはずなのだが…………。




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