第13話
マジで小人を出しました。
せっせかせっせか働く小人たちと一緒に、とりあえず音楽室を片付けながら、わたしは深々ため息。
「あと、地震があったってみんなが思ってるだろうけど、それはどうするの?」
「もうどうしようもない」
それでいいのか。
「いや、でも、魔文具なら・・・・・・」
魔文具?ああ、天使のペンとか。
難しくなってきたからスルーしたところだ。あんまりしっかり覚えていない。
「確か記憶消しゴムってのがあって、記憶を消せた気がする。うちの学校にいる魔文具職人に頼んでみるか」
「えっ、待って、魔文具職人さんって学校にいるの!?」
驚き情報が急に投入されたっ。
職人だって言うから、てっきり大人だと思ってたよ。まあ、色彩「鑑識」の西川も中学生なんだし、魔文具職人さんが同年代でも何もおかしくないよね。
「ああ。それもうちのクラスにいる」
なんてことだ!
仰天していると、後ろからかわいい声が聞こえた。
「記憶ならもう消しておいたよ」
聞いたことがある。
ゆっくり振り返ったら、相変わらずアイドルみたいにかわいいあの子・・・・・・。
「十姫さん!」
「さっき起きたから、早めに記憶を消したの。ルイくん、黒板にメモありがとう。でも、音楽室にいるならそれも書いておいてよ、探するの大変だったんだから」
普通の消しゴムと変わらないような消しゴムを右手に持って、十姫さんはにっこり。
西川、何か書いているとは思ったけど……十姫さんにメモを残していたのか。きっと、軽く状況を書いておいたんだろうな。
「悪い、廊下に出てから音楽室に行こうって決めたんだよ。それにしても、さすが仕事が早いな、十姫。助かった」
「どういたしまして!ついでに様子見てきたよー。全クラス寝てるね。時間はだいぶ進んじゃってるけど、消すのはうちのクラスの記憶だけで大丈夫かな」
「たぶん、な。あ、夏野、こちら魔文具職人の十姫」
いやいや、十姫さんなのは知ってます。
紹介がいささか遅いような気がしないでもない。
……もしかすると、あの二つの筆箱、片方は魔文具用・・・・・・?
「これは『記憶消しゴム』。その名の通り、記憶をまるっと消せちゃう便利な消しゴム。悪用厳禁っ」
十姫さんはアイドルスマイルを浮かべ、消しゴムを見せる。
「っていうか、夏野さんが天使のペンの使い手だったんだね。知らなかった」
「十姫さんもわたしのこと知らなかったんだ・・・・・・わたしも、十姫さんが魔文具職人だなんて聞いてなかったよ」
西川の方を二人で見ると、西川はわざとらしく目をそらす。
「違うって、別に伝えるまでもないかと思ったんだよ。赤との時は、十姫は何も魔文具を持ってなかったから、逆に危険だっただろ」
「それはそうかもだけど。伝える必要はあるでしょ!あーもう、ルイくんってそういうとこ適当だよね」
「そうだそうだ、十姫さんの言う通りっ。ちゃんとして、西川」
女子二人に集中砲火をくらい、口笛を吹く色彩鑑識。
お片付けに十姫さんも加わって、作業効率は格段によくなった。めちゃくちゃに手際がいい。すごいな十姫さん。
藍色の魔法石!
ないんだけど!?
クラスの誰かが持っている、そう結論づけたわたしたちだったのに、どれだけ目をこらしても藍の光は目に映らない。
後ろの席の翔が休みで、十姫さんと天堂くんは学級委員のお仕事。まあ、どっちにしろ十姫さんはいてもいいんだけど、とにかく西川とこそこそ相談するにはうってつけ(翔、ごめんね)だから、貴重な休み時間そっちのけで相談していたのに。
成果はなし、かぁ。
「ということで西川。やっぱり藍色の魔法石は、別の場所にあるんじゃないでしょうか」
「おい、立案した本人がすぐに投げ出すなよ・・・・・・」
わたしと同じく机に突っ伏す西川から手痛い指摘を受けてしまい、仕方なしにわたしはまた顔を上げる。うぅ。
「そもそも。藍色の魔法石をクラスの誰かが持っていたとしてだよ?どうやって手に入れたのか、ちっともわかんないじゃん」
思わずグチをこぼすと、西川は手をぶらぶらしたままつぶやいた。
「おい立案者……。だが、それもそうだな。魔法石は自分と似通う色の人物を惹きつけるってのは聞いたことあるけどさ」
自分と似通う色の人物、か。
・・・・・・最近のわたしはめずらしくさえている。ひらめきました!
「ってか、西川がみんな自身の色から探していけばいいのでは?」
結果報告~!
色彩鑑識、色で魔法石を探しちゃおう大作戦、失敗~!
「藍色に近いやつは何人かいるんだよ。でも、どう考えても魔法石は持ってない。食い入るように見たのに」
「うん、西川。ごめん、不審がられちゃうからやめよっか」
めちゃくちゃいい作戦だと思ったのになぁ・・・・・・もう何度目かの頓挫だ。
本当に西川には無理ばかりさせているような。
「じゃあ夏野、着眼点を変えよう」
「着眼点?」
「藍色じゃなくて、藍の魔法石の人格自体に近い性格のやつを探すとか」
だったら。
「赤さんに聞いてみた方がいいね」
藍さんは赤さんのことをもちろん知っているみたいだったし。
だけど、赤の魔法石は家にあるから、今日の持ち主探しは中止になっちゃう。
「一日遅れるのは仕方ないだろ。頼んでもいいか?」
「んー」
赤さんにはなんだかんだで無視されるような気もするけど。
お兄ちゃんがぐでぐでとソファーで寝転んでいるのを無視して、帰って早々、自分の部屋に向かう。
絵を描いている時はかっこいいんだけどね、お兄ちゃん。普段は・・・・・・全然だ。
ぶっちゃけわたしは、お兄ちゃんの影響で絵を描くようになり、お兄ちゃんの影響でマンガにハマったみたいなものなのです。
お兄ちゃんの部屋にあるお兄ちゃん作の絵を赤さんに見せると、赤さんは興味津々といった感じで喜んでいた。そこは、うん、感謝してる。
部屋の扉を閉めて、赤色の魔法石を両手に乗せて、声をかけてみる。
「赤さーん。聞こえてたら返事して~」
『……聞こえてる』
不機嫌そうな赤さんの声が、くぐもって頭に届いた。赤さんは気分の波が激しいみたいで、嬉しそうに応じてくれることもあれば、話しかけただけでご機嫌ななめな時もある。でも、わたしも赤さんとの会話を楽しめるようになってきた。
『なんだよ、夏野未来』
「えっと、藍さんのことで、聞きたいことがあって」
『藍色について?それともあいつ自身について?』
「あとの方。藍さんの人柄を知りたい」
たぶん呆れた顔をしているんだろうなぁ、赤さん。顔が見えないから実際どうかはわからない。だけど声の調子から伝わってくる。
『人柄って。何に使うんだよ』
「ほら、前に言った件。藍さんがいなくなっちゃったから。藍さんの行動パターンを知れたらどこにいるか突き止められるかなって!」
けっこう名案だと思うんだよねっ。わたしの名案、毎度ちょっと空回り気味だけど。
『藍のこと、か』
ため息をつきながらも答えてくれた。
『ピアノが好きとか』
それは知ってる。
音楽室でピアノを弾いてたもんね。すごく上手で驚いちゃった。わたしはクラシックはいまいち……なタイプなのに、いいな、綺麗だな、と思ってしまった。
『それから、ピアノを知ってる人間も好き。音楽がわからない人間は嫌いだってよ』
音楽がわからない人間、ドンピシャわたしだ。刺さる。
対して、西川はすぐに『レクイエム』って聴き当ててたし、音楽に興味があるのかもしれない。
『幽霊、というより怪談をおもしろがる。オレはまじ無理だけど』
怪談も好きなんだ。なんとなく不思議な感じ。
「他にはある?」
『あー、んーと・・・・・・悪い、オレ、全然藍のこと知らねー』
赤さんがすまなそうにする。
いやいや、こっちが急に頼んだことだし。
「ありがとう!わざわざごめん」
『謝罪の意思があるんなら、オレをこっから出してくれねぇかな。もう飽きた』
「それはもうちょっと辛抱でお願いできますかね」
絶対いつか解放するから。
西川が約束したんだもん、絶対の絶対だよ。
『まあ、藍がいたら少しはマシになるかな。あいつも一生懸命だろうから、リーダーとして心配だ。ここ以外の場所でも、藍がいるなら許せるかもな』
赤さんはぶつぶつと、独り言のようにつぶやいた。
『そうだ。藍に会ったら伝えといてくれ』
うん、何を?
一呼吸置いたの。
「『閉じ込められても、オレが話し相手になってやるよ』って」
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