第12話

 西川が幽霊をすべて切り倒したようだ。音楽室は静まり返り、激しく飛び交っていた物たちも、ぴくりとも動かず地面に落ちている。

「よ、良かったー。もう終わりかと思った・・・・・・」

 わたしはへなへなと座り込む。

「ありがと、西川。まさか西川の力、あんなふうに使えるなんて」

 見えない幽霊の色も視えるなんて。すごい。すごいよ。

「まあ、な。でも逃げられちまった」

 西川が難しそうな顔をした。

「ごめん。わたし、西川に頼りすぎた。西川も大変なこと分かってたのに」

 わたしは・・・・・・。

 藍さんを追いかけようとして、返り討ちにあって、天使のペンはぎりぎりまで使えずに、あの男の子からもらった傘に頼りきってしまった。

「あれは俺がやらなきゃいけなかった。危なかったし、夏野が動けなかったのはなんも悪くねーよ。気ー落とすな。それに、あの剣がなかったら勝てなかったんだから」

 目は合わせないくせに、西川は優しいのだ。

 わたしはそっと傘を閉じ、大切に両手で持つ。この傘は持って帰ろう。あの男の子が取りに来るまで。またあの男の子に会える、という確信がなぜかあった。

「ともかく。藍を探すぞ。とりあえず戻ろうぜ」


 わたしたちはすぐに教室に戻る・・・・・・つもりだった。

 廊下で西川が立ち止まり、わたしも足を止める。

「音楽室にはなかったな」

 魔法石。

「考えてもいい?」

 西川はうなずく。

 音楽室をしっかり探して、この帰りの道中だって確認してきたのに、魔法石はなかったんだ。

 教室にないなら音楽室にあるはず。だけどなかったんだから……。

 じゃあ、藍色の魔法石はどこにある?

 西川は、教室の中に霊的な空気が集まっている、って言ってた。でも教室を見渡した時、藍色に光るものなんて見当たらなかった。

 わたしも西川も、飛び交う物たちを目で追っていた。魔法石があったら、目に入ったっておかしくないよね。

 なのにどうして、見えなかったの? 

 廊下でも物は襲いかかってきた。学校中の人が寝ていた。だけど、西川が『藍色』を探していたのは、教室と音楽室だけだった。

「西川!」

「ん?」

「あのさ、藍色の魔法石の雰囲気を感じたのは、どこで?」

 西川は驚いたような顔をして、少し考えるそぶりを見せる。

「一の四の教室。それに音楽室。学校中に影響はあったけど、気配があったのは、教室と音楽室だけか・・・・・・」

 それなら、やっぱり魔法石は教室か音楽室にあるはず。西川を疑う余地なんてない。

 音楽室はくまなく探したし、教室だって見渡した。

 ・・・・・・もしかして。

「ねえ、西川。わたしたち、教室で、見落としている場所があるんじゃない?」

「はぁ?教室はちゃんと見ただろ。ロッカーも、窓の外だって。全部見たんじゃ……」

 うん、見たね。

 しっかり立ち上がって、危険を避けながら、見た。

「……ああ、違うか」

 そう、わたしたちは、上しか見ていない。

 立ち上がって見える範囲しか見ていない。

「魔法石は机の下にあったんだよ」


「なるほど・・・・・・それはあるかもしれないな」

「きっと、クラスの誰かが魔法石を持っていて、それを持ったままか身に着けたまま、机の下に入ったんだ」

 焦っていたせいもあって、みんなの様子を確認せずに教室を飛び出してしまったから。当然、机の下ものぞいてすらいない。

「だが、だとしたら誰が?」

 西川の疑問はもっとも。

 だってわたしもまるきりわかんないもんっ!

「お前な。なんでそんな自信満々なんだ」

「もうこれしか考えられないからね。ハズレだったら忘れて」

「保険もしっかりかけてるしさ。ま、いいか。急いで教室にもどって確認し直そう」

 ん、りょーかい!

「ただ・・・・・・。さっき目を使いすぎたせいで、色が全然見えねーんだよ」

「そうなの?いいよ、休めておいて」

「世界がモノクロに見える」

 うわ、思ったより重症!

 ほんとに休めて!ちゃんと休めて!

 わたわたしていると、西川は呆れたようにクスッと笑った。

「そんなに心配するなよ。明日でもいいか?」

「当たり前」

 ・・・・・・ところで一つ、気になってるところがあるんですけども・・・・・・。

 開け放たれたままのドアから教室をのぞく。

 やっぱりみんな寝ている。

 そして散らばる物たち。

 あちらこちらで倒れている机や椅子、そんでもってロッカーの中身。

 音楽室はもっとひどかったよね。

「ひょっとして、ひょっとしてさぁ、西川」

「なに」

「教室と音楽室の片付けとかって、しないといけない感じ・・・・・・?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 静寂。

「やらないとマズいよな」

「無理無理無理無理やりたくない」

「こればっかりはどうしようもないだろ」

「暴れるだけ暴れて消えちゃうってどーゆーこと、藍さんは!?」

 人としてどうかと思うよ!あ、人じゃなかった。

「天使のペンでなんとかしよう」

 どうやって?

「小人でも出して働かせりゃいい」

 ・・・・・・鬼畜?それとも策士?

 たぶん前者だと思うんだよね、わたし。

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