第9話
廊下に飛び出すと、悲しげなメロディーが聞こえた。
「何、この音・・・・・・?」
「モーツァルトの『レクイエム』じゃないか?ピアノの」
どうして、ピアノの音がここまで・・・・・・?ピアノがあるのは音楽室と体育館だけ。音楽室は特別棟の二階、突き当りにある。本校舎からは遠いのに。体育館だってそうだ。聴こえるはずがない。
あと、どうでもいいけど西川、なんで曲名わかったんだろ。芸術系?
「空耳じゃないよね?」
「なんとなくだが……音楽室に、藍色があるのかもしれない」
まさか。なんで音楽室に?
「おびき寄せられてるような気がするんだよ」
それなら行かないほうがいいのでは。
「だとしても行かなきゃダメに決まってるだろ?」
「デスヨネ」
これ以上、ぽるたーがいすと・・・・・・だっけ?そんなのが起こったら困るもん。
しかし、しかしながら。
音楽室の方に、特別棟につながる廊下へと行こうとして・・・・・・はたと気が付く。
「・・・・・・どの教室も・・・・・・授業をしてない?」
先生の声。
生徒の声。
どよめきも、納得も、笑い声も、何もかもが聞こえない。
誰かが動いている音ひとつしないんだ。
不安が立ち込めるあまり、もしこの考えが間違っていたら大目玉間違いナシなのに、近くの教室・・・・・・三年五組に押し入る。
そこに広がる光景に、わたしは息をのんだ。
西川が後ろから走り寄ってくるのがわかった。
「やっぱり!」
思わず声がもれ出る。
そこでは。
みんな・・・・・・寝ていた。
「えっ・・・・・・?どういうこと?」
先生までもが静かに寝息をたてている。
「西川!これも藍色の影響?」
「確かかはわかんねぇけど、眠りやすい色はブルー系ってのは色彩鑑識の先輩に聞いたことがある」
じゃあ!
これも、魔法石のしわざ。
「ヤバいぞ。早く音楽室に!」
わたしはすぐにきびすを返し、たっと大きく一歩を踏み出した。
西川も小走りでわたしの横につき、首をひねる。
「俺が言い始めたことだが……藍の魔法石は本当に音楽室にあるのか・・・・・・?」
「教室にないのなら音楽室なんじゃないの?」
「ほら、言っただろ。魔法石の人格は幻として姿を現したり移動したりできるが、魔法石自体は運ばれないと動けない。音楽室にあったら、どうやって運ばれたのかわからないんだ」
そう言い始めたら、学校にあることも変な話のような。
そういえば赤の魔法石については、あの後話を聞いた。三年生の男子生徒が技術の先生へのイタズラのつもりであの道具箱に入れたらしい。魔法石に惹かれて拾ったその子は、旅行先で赤さんを拾ったんだとか。というわけで、赤さんはけっこう長旅をしてきたようだ。
それと同じで、誰かこの学校の生徒か先生が拾って置き忘れたんじゃないかな?
教室と音楽室に藍の気配?みたいなものがあって、教室には魔法石がない以上、やっぱり音楽室にある可能性が高いと思うけど……。
「そう、だよな」
西川はどこか釈然としない表情。
そして相変わらず足が速い。
すると、急に廊下の掃除道具入れがガタガタしだした!
「また!?」
「幽霊が動かしてるんだ!」
掃除道具入れから飛び出すほうきやちりとり。
西川はさすがの運動神経でさらりと避けるけど、わたしにはけっこう難問だ!
大急ぎで走って、特別棟への通路へたどり着く。
物が何もない、本校舎と特別棟をつなぐ通路では何も襲ってこない。でも、気を緩めちゃダメだ。音楽室の前まで猛ダッシュ!
ピアノの音はまだ鳴り響いている。だんだん音が大きくなっていって、近づけているのを感じる。丁寧で丁寧で、綺麗なピアノ。
指揮台や楽譜が飛んできて、一生懸命避ける。窓を背に立った。
「夏野。ドア、開けるぞ!」
西川がドアに手をかける。
わたしも物をかいくぐり、音楽室に入ろうとする。
その時、急に耳元にささやき。
『デテイケ』
えっ・・・・・・?
後ろの窓は全開で、わたしは足を止めようとしたのに、何かに押された。
体がふわっと宙に浮き、そして・・・・・・。
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