第8話
「正負の数のたしかめ問題が終わったら、ワークを進めてください」
漆山先生がそう言って、みんなが教科書を広げた時。
ガタガタッ
・・・・・・あれ?
「地震?」
机が揺れた?
それはみんなも同じだったみたいで、誰からともなく騒ぎ出す。
「うわっ、絶対揺れたって!」
「机の下入る?」
「私はわかんなかったけど」
先生が「静かに!」と声を張り上げる。
「地震の可能性がある。様子を見て・・・・・・」
ガタッ
カタン
また、椅子が揺れた!今度は間違いないよ!
机の上のシャーペンが地面に落ちる音も響いた。
「やべー」
「マジの地震じゃん」
「机の下に入って、動かずに指示を待て!」
先生の声に押されるように、わたしも机の下に潜り込む。机の脚をぎゅっと両手でつかんで、4月中にやった避難訓練の時のように体を丸めた。
「夏野」
すると、右の席からささやき声が聞こえた。
「西川?どうしたの?」
「これ。地震じゃないかもしれない」
ガシャンッ!
花瓶が割れた音!
「地震じゃないって・・・・・・じゃあなんなの?」
「決まってるだろ。魔法石のしわざだよ」
「魔法石っ?何色の?」
「それは・・・・・・」
西川は上を指し示した。
地震じゃないなら、机から出てもいいかな・・・・・・?
少しだけ頭を出して、教室の様子を見ると。
「何これっ・・・・・・どうなってるのっ」
教室中を筆箱やチョークが舞い踊っていた。
「机が!」
女の子の悲鳴に驚いていると、机がすごい力で動き出す。
みんな目をつぶって机の脚につかまり、振り飛ばされないように必死だ。
椅子も右往左往して・・・・・・しかも、わたしの椅子は宙に向かって浮き上がった!
「信じられない・・・・・・」
ウソ・・・・・・怖っ!
「落ち着け、夏野!これはポルターガイストだ!」
「ポルターガイストっ!?」
「心霊現象。物が動いたり、急に発光したりする」
その瞬間、ピカッと、目を開けていられないほどの強い光が教室中をおおいつくした。
「まぶしいっ・・・・・・」
「いきなり何だ!?」
クラスの子たちも驚いて口々に叫ぶ。静かに机の下にいるなんてできない!
光がおさまると、西川はまた話し始めた。
「ポルターガイストを操れるのは、霊的な意味のある色だ。わかるか?」
「ごめん、全然」
「だろうな!藍。藍色だよ」
藍色って・・・・・・深い青みたいな色だよね?
「ああ。藍色に興味を示す人間は、第六感が現れることが多いらしい。この場合、この教室に霊的な空気が集まったんだ」
じゃあ、どうしたら?
教室内に魔法石があるなら、藍色に光る何かがあるはず。でも見当たらない・・・・・・。
ガタガタガタッ!
机が激しく揺れる!
「浮いて・・・・・・る?」
しがみついていたら、体ごと持ちあがってしまいそうなほどの引かれ方。天井に吸い込まれるように、机は高く上っていく。机から手を離すしかない。
三十人くらいがいる教室は、足の踏み場もないほど散らかった。
何しろ、机の中のものも、ロッカーの中のものも、チョークだって、お知らせの紙だって、てんでばらばらに飛び遊んでいるんだもん。
「藍はここにはいない。校舎にいるのは間違いない・・・・・・魔法石も、この部屋にはないんじゃないか?」
「他のクラスもこの騒ぎになってるのかな?」
「いや。一の四だけだろ。でも、これだけガタガタ音がしているんだ。物もひどく動いてる。振動が他クラスにも伝わってるはずなのに・・・・・・」
おかしいよね。
そう話している間にも、教室は騒乱を極めた。
さっきまで悲鳴を上げていた女の子たちは、もはや声を発さなくなっている。ひょっとして、何かケガをしているんじゃ・・・・・・!
もしそうなら、天使のペンで助けなきゃ!
西川は黒板に向かっていき、チョークで何やら書き込んでいる。それを目の端で捉えて、わたしも立ち上がった。
自分の机がどこに行ったのか、あわてて探す。天使のペンはいつもポケットにあるけど、スケッチブックは引き出しの中だから。
ガタン!
あ、危ない・・・・・・っ!
椅子が高いところから急降下してきた!
わたしの右足すれすれに、勢いよく椅子が突っ込んでくる。
さーっと血の気が引いていく・・・・・・。今の、下手したら胴体に木の椅子が当たってたよね・・・・・・?
「どうした?」
壁に手をかけて揺れるドアと格闘していた西川が、振り向いてわたしに声を飛ばす。
「大丈夫!」
天使のペンで描いたら、跡は残らない。
ごめんなさい校舎さん、ちょっとだけラクガキさせて。
スケッチブックは諦めよう。
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