第7話

 赤さんとの戦いから二週間が過ぎた。

 この二週間、時々は赤さんとしゃべったり、西川とも打ち解けたり・・・・・・ちなみに、学級委員は十姫さんと天堂くんに決まった。赤さんの影響がなくなると、途端に立候補者が減って、先生も本人たちもみんなとまどったのだ。

 わたしは体育委員になって、なんと西川と一緒。

 十姫さんとも天堂くんとも仲良くなったし、席はまだ変わっていないから、ぶっちゃけ超楽しい。特に翔と十姫さんがすごく和気あいあいとしているんだよね。

 クラスの雰囲気もすごくよくなって、ケンカしていた子たちも仲直りしたようだ。

 赤の魔法石の影響でイライラが爆発してしまっただけで、本来は気の合う仲良しどうしだったみたいだから、前のような関係に戻れたみたいでホッとした。

 ただ、もう一つの魔法石は音沙汰なし。わたしは安心する一方、やっぱりちょっと気にしてるの。

 西川がいる限り、大丈夫だとは思うけど。


「夏野ちゃん、詩乃ちゃん、ちょっと聞いて」

 ニヤニヤしながら達哉と共にやってきたのは、おなじみの翔。

 本名、早方はやかた翔平しょうへい。基本気さくだけどちょいちょいマイペースな、同小の友達ってやつ。

「なになに?二人でどこか行ってきたの?」

「詩乃。こういう顔で翔が今までしてきた話、ロクなのなかったでしょ」

 いつも通りふわふわ笑顔の詩乃をさらりと諭す。

 そう、そうなのだ。翔はこう見えて、かなりつかめない。

 小さい頃からピアノを習っていて、優等生な感じかと思ったら。

 心霊スポットに行ったとか、近所の高校生といろいろあってイタズラ仕掛けてやったとか、まあ真面目とは言えないラインナップばかり。

 わたしはともかく、怖い話が大の苦手の詩乃はしょっちゅう耳をふさいでいた。

「あ、そうだった。翔平くん、その話禁止ね!」

「厳しいって。なー達哉、今回はより楽しかったよな」

「あはは・・・・・・楽しかった、楽しかったよ・・・・・・」

 ちょっと待って、達哉顔死んでるよ?

「何したの」

「夏野ちゃんから聞いてきたんだし、言うよ」

「み、未来ちゃんっ」

 しまった。

 気になりすぎて思わず聞いてしまった……。両手で口を閉ざした時にはもう遅い。

「皇子宮小学校に行ってきたんだ。達哉と二人で、夜七時に」

 あーほらやっぱりっ!

 やっぱり怖い系のやつだぁ!

「よく入れたね・・・・・・」

「おれの天才的話術で入れてもらった。いやー、達哉の反応がおもしろすぎてさ」

「ちょっと翔平!?詩乃には言わないでって言ったじゃん」

 焦りまくる達哉。

「なんでそんな時間に小学校なんか行ったわけ?」

「『音楽室のピアニスト』、見に行こうと思って」

 はて、なんじゃそりゃ?

 詩乃と顔を見合わせて首をかしげると、翔はわざとらしくため息をつく。

「これだから女子は」

 女子関係ないでしょ!

「今年度に入ってから噂され始めたらしい、学校の怪談だよ。ベタだけど、誰もいない音楽室からピアノ演奏が聞こえてくるんだって」

 うっ・・・・・・母校にそんな噂があるなんて・・・・・・。

 ベタはベタでも、普通に怖いし。

「それ確かめたくて行ったんだ。他にもいろいろあるんだけど」

「あーっと、もういいかな!で!?それでどうなったの!?」

 翔の怪談は、じょじょに怖さレベルを上げていくシステムなのだ。

 これ以上聞いてなるものか!大声で翔を制止した。

「はいはい、続きね。それがさ、音楽室に着く前に、達哉が誰かに肩を叩かれたって騒ぎ出して」

「わー!わー!わー!」

「やだやだやだ、怖いからやめてってばー」

 達哉と詩乃がそれぞれ別の意味で翔に向かって叫ぶ。

 翔はやめる気はないらしく、さらににやつく。

「ちょうど巡回してた池野先生に叱られて、志半ばで帰ることになったって話」

 あ、別に怖くなかった。ほっ。

「覚えてる?六年の時担任だった池野いけの先生」

「もちろん」

「実は池野先生が、おれらが学校の怪談を見たいって言ったら入れてくれたんだよ。迷惑かけないならって約束で。結局迷惑かけたから追い出されちゃった」

 あの真面目そうな池野先生にそんな一面があったとは!

「これくらい怖くもなんともないから大丈夫だって、詩乃ちゃん。肩叩かれた以外にもけっこう怖いのあったし、聞く?本気出すよ」

「それはいいっ。聞きたくない!」

「詩乃も嫌がってるしやめよう!」

「理科室に入った時に~」

 まだわーきゃー言っている三人。

 おーい、休み時間終わっちゃうよー?

「・・・・・・ん?」

 次の時間の教科書を出そうとしたら、視界のはしに何かが映った。

 青のような、紫のような、きらめき。

 翔の学ランのポケットあたり・・・・・・?

 気のせいか。

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