姫様のプレゼント大作戦!④
「えっ⋯⋯! このお店ですか?」
俺が姫様を連れてやって来たのは、ロジャーが姫様にイヤリングをプレゼントした店だった。
店主も、その時の事を覚えていたようで、陽気な声で姫様に声をかける。
「おう、お嬢ちゃん! また来てくれたんだな。おっ? 今度は前とは違った男前を連れてるじゃねえか!」
——この間の男は当て馬で、彼女の本命は俺です。
そんな言葉が、つい口を衝いて出そうになった。当然、俺の立場でそんな事を言える筈も無く、何とか踏み止まる。
ちらりと横に居る姫様を見やるが、彼女は店主の言葉を特段気にしている様子も無く、彼と楽しそうに話しをしていた。
「⋯⋯この間の男も俺も彼女の恋人ではない。そんな事よりも店主、イヤリングを見せてくれないか」
ロジャーの話が出た途端不機嫌になり、それを隠そうともしない俺の態度に何かを察した店主は、急いでバックヤードに行き、店頭に並べられている物よりも数段煌びやかなイヤリングを手にして戻ってきた。
「ここのやつは本来なら売るつもりは無かった貴重な商品だ。だが、あんた達になら特別に売ってもいいぜ」
店主は細かい細工の施された、高級そうな宝石のついたイヤリング達を指差してそう言った。
そして、あろう事か、ぱちりと俺に向かってウインクをして来た。まるで、俺は分かってるぜ、頑張れよ兄ちゃん! とでも言うように。
そんな店主の生暖かい視線に照れながらも、冷静を装い、姫様に選ぶように促す。
「⋯⋯ごほん。⋯⋯さあ、姫様。この中から好きなものを選んでください」
「⋯⋯⋯⋯え?」
姫様は俺の言葉を聞いて、意味がわからないと言う顔になった。それもそうだ、俺が今日、姫様に個人的にアクセサリーをプレゼントする理由など無いのだから。
しかし、ぽかんとする姫様に構わず、話を続ける。
「この中からお好きな物を私がプレゼントします。どれでも姫様のお好きな物を選んでください。⋯⋯それとも、この中には気にいる物がありませんか?」
「い、いいえ! でも、なんでいきなりそんな事を⋯⋯」
——姫様に彼奴から貰ったものを身につけてほしく無いからです!
などと言う本音は飲み込み、つらつらと建前を並べる。
「姫様はあまり自分の物を購入されないではありませんか。節制も大切ですが、一国の王女として最低限、恥ずかしくない物を身に付けなければなりません。ですので、僭越ながら私からプレゼントを、と思いまして」
素直に、ロジャーがプレゼントしたものでは無く、俺がプレゼントしたものを身につけて欲しいと言えたらどんなに良かった事か。
しかし今の俺には、こんな言い訳を並べなければ、彼女にプレゼントを贈ることは叶わなかった。そんな無力な自分に遣る瀬無い気持ちでいっぱいになる。
しかし、姫様は俺の言葉を聞いて、ぶんぶんと首を振った。
「レオからはいただけませんわ! 寧ろ、今日はわたくしが⋯⋯」
「⋯⋯寧ろ、なんです?」
「あっ! な、なんでもありませんわ!」
俺が聞き返すと姫様はわたわたと焦り出した。
「まあいいです。姫様の好きそうなデザインの物がたくさんありますが、いかがですか?」
「ど、どれもとても可愛らしいですが、レオ⋯⋯貴方に買っていただくわけには⋯⋯」
「遠慮なんてらしくないですね。私が買うと言っているんですから、お好きな物を選んでください」
そこまで言ってもまだ迷っている姫様に、丁度目に留まったイヤリングを見せる。
それは、姫様の好きなバラの形にカットされたガーネットのイヤリングで、さり気なくダイヤモンドがあしらわれた逸品であった。
それを見せた途端、姫様の目がきらきらと輝く。
「っ!!」
「これ、姫様が好きそうなデザインですね。このイヤリングなんていかがですか?」
「すごく⋯⋯すごく、可愛らしいです!」
「気に入ったようですね。では、これにしましょうか」
「っあ!」
俺の言葉に姫様はしまった、と言う顔になり、さっと口元を手で覆った。そして、一呼吸置いてから再び口を開いた。
「やはりレオに買っていただくわけにはいきませんわ。⋯⋯だって」
「⋯⋯男性から女性にアクセサリーを贈るのは特別な意味になるから、ですか?」
俺は、姫様の言葉を遮り、言った。それに姫様は少し気まずそうに返事をする。
「え、ええ⋯⋯」
「しかし、残念ながらもう買ってしまいました。返品は受け付けられないそうです」
「!?」
俺の言葉に姫様は、動揺を隠せない様子であった。しかし、姫様は押しに弱いため、あともうひと押しすれば丸め込めるだろう。
「俺から貴女にアクセサリーを贈るのは、家族として⋯⋯親愛の意味を込めてです。⋯⋯⋯⋯安心しましたか?」
そう言って自嘲気味に微笑んだ。
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
暫しの間、2人の間に無言が続き、観念したのかようやっと姫様が口を開いた。
「⋯⋯わかりましたわ。貴方からのプレゼントを受け取ります。ありがとう、レオ」
姫様は渋々と言った様子で受け取るも、何処となく嬉しそうな様子であった。
ありがとう、と俺に向かって少し恥ずかしそうに微笑む彼女の両耳には、ロジャーでは無く、俺がプレゼントしたイヤリングが光っている。
その事に、どうしようも無い優越感を覚えた。
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