姫様のプレゼント大作戦!②







「レオ、もう怒っていませんか⋯⋯?」


 姫様は図らずも上目遣いになり、俺に尋ねた。

 意識しだした途端、それまで何とも思わなかった彼女の些細な行動や仕草にいちいち過剰に反応してしまうから恋(仮)というのは恐ろしいものだ。



「⋯⋯うっ! そ、そもそも最初から私は姫様に対しては怒っておりません。ただ、己の未熟な心と葛藤していたというか、なんと言うか⋯⋯」


「?」


 目が泳ぎ徐々に尻窄みになっていく俺を、姫様は不思議そうな顔で見ていた。



「と、とにかく! 私の大人気ない態度のせいで姫様を悲しませてしまい、申し訳ございませんでした」



「いいのです。貴方が理由も無しにそんな事するはず無いとわかっておりますわ! わたくしにも原因があったのでしょう?」


 話にのめり込むあまり、姫様はずいっと俺に近づいてきた。



「ひっ、姫様! 近いです!!」



 今まで気にも留めなかった、年頃の男女にしては近い距離感に思わず声を荒げ、過剰に反応してしまう。




「なんだかレオってばおかしいですわ⋯⋯。やっぱりまだ怒っているのね⋯⋯」


「ほ、本当に怒ってませんってば!」


「⋯⋯本当に?」


 鈍感さに定評のあるさすがの姫様も、俺の挙動不審な態度を怪しく思い、アクアマリンの瞳を細め、じとりと疑うような眼差しで俺を見た。



 ——このままではまずい。姫様の目も見れない、まともに話すことも出来ないなんて業務に支障が出てしまう。⋯⋯いや、今の段階でも既に仕事になっていないだろう。



「ほ⋯⋯ほんとう、です⋯⋯」


 相変わらず俺の視線はうろうろと姫様と天井を行ったり来たりして、冷や汗をかきながら何とか声を絞り出した。

 そんな怪しすぎる俺の挙動だったが、日頃の行いが功を奏し、姫様の信頼を勝ち取ったおかげで、なんとか納得していただけたようだ。



「⋯⋯わかりましたわ。レオがそこまで言うのでしたら信じましょう。その代わり、これからわたくしと一緒にお祭りに行くこと! 今日は春告祭最終日ですもの!」



「えっ!!?」


 姫様と2人きりになるのは、今の俺の精神状態では非常にまずい。⋯⋯出来る事なら回避したい。そんな気持ちが思わず口を衝いて出た。



「なにか問題でも? ⋯⋯やはりまだ、わたくしに隠している事があるのですね⋯⋯!」


 そう言って姫様は悲しそうに顔を伏せた。

 そんな姫様を見て、後先も考えずに俺は、咄嗟に了承の返事をしてしまう。


「い、いえ! 行きます、行かせていただきます!」


「⋯⋯⋯⋯」


「ひ⋯⋯姫様?」



「ふふっ。では今から行きましょう! レオも準備が必要でしょうから30分後に集合です!」


 顔を伏せて泣いているかと思えば、そんな事は無く、俺の言葉を聞いてニヤリとしたり顔の姫様が顔を上げた。



 ——姫様め! 謀ったな!?



「ひ〜め〜さま〜!!」


「うふふっ! ほらほら早くしないとお祭りが終わってしまいますわよ!」


 姫様は悪戯が成功した子どものように無邪気に笑い、心底楽しそうに笑って、ぐいぐいと強引に俺の背中を押して部屋から追いやった。






✳︎






 気付けば、先程まで降っていた雨も上がり、城下町には再び活気が戻って来ていた。



「さあ、楽しい楽しい春告祭に出発しますわよ〜!」



 そう言って姫様は元気いっぱいに拳を上げた。そんなハイテンションの姫様に比例するように、俺のテンションは急降下していく。


 姫様との外出は嬉しいやら緊張するやら色々な感情が混ざり合って正直、不安でしかなかった。




 ——ああ、もしも、姫様が姫様じゃなかったら⋯⋯俺にも、この気持ちを伝える権利があったのだろうか。⋯⋯なんてロジャーが言っていた、くだらない “もしも ”を考えて、それに縋りつきたくなってしまう。


 このままでは、自分が自分で無くなってしまう。やはり、恋(仮)というものは恐ろしい。




 ——もはや、ここまで来たら、行かないと言う選択肢など俺には存在しない。楽しみにしている姫様には悪いがここは、心を無にして耐えて耐えて⋯⋯耐え抜くのみ。



 俺はそう決意を固め、小さく拳を握りしめた。







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