姫様のプレゼント大作戦!①











「⋯⋯シャーロット殿下、次は此方の書類の確認をお願いします」



「わかりました」


「⋯⋯⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯っ」




 外では雨が降り頻る午後、姫様の執務室には険悪な雰囲気が漂っていた。




「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」



「⋯⋯⋯⋯レ、レオ?」


 必要最低限の会話のみで黙り込んだ俺に、気まずそうな姫様は様子を伺うように俺の名前を呼んだ。



「⋯⋯如何されましたか?」


「え、ええっと⋯⋯レオ⋯⋯何か怒ってないですか?」


「何故そう思うのです? シャーロット殿下には何か心当たりがあると言うことでしょうか」


「ううっ⋯⋯⋯⋯」



 姫様は、俺の言葉にうろうろと視線を彷徨わせた。



「思い当たる節があるようですね。⋯⋯まあ、私は全く、これっぽっちも! 怒ってなどおりませんが」



「う、嘘ですわ⋯⋯! レオってばものすごーく怒っているではありませんか!」


 俺のあからさまな態度に、姫様はうるうると瞳を潤ませる。



「っ!」


「レオ⋯⋯貴方に嫌われたら、わたくしは⋯⋯⋯⋯」



 姫様の、俺の良心に訴えかける攻撃に耐えようとするも、呆気なく完敗し、降参だと両手を上げてみせる。


「⋯⋯⋯⋯はあ⋯⋯姫様は狡いです。俺がその目に弱いって知っているでしょう」



 俺が口調を崩すと、姫様はぱあっと満面の笑みを浮かべた。


 ——こういうところがあるから怒るに怒りきれないんだよな⋯⋯。


 


「? ⋯⋯レオ?」


「なっ、なんでもありませんっ!」



 そんな彼女に不覚ながらもキュッと胸が締め付けられ、思わず顔を背けた。






✳︎








 正直、先程までの俺は、姫様に対して怒っていた。怒っている、というと語弊があるかもしれないが、とある出来事のせいで彼女にどう接すれば良いか計りかねていたのだ。


 事の発端は4日前、盗賊の頭領ロジャーが去った後まで遡る。





 彼から貰ったイヤリングを大切そうに見つめる姫様に耐えかねた俺は彼女に言った。



「はあ⋯⋯。いつまでそうしているんです」



「⋯⋯⋯⋯レオ! ⋯⋯このイヤリングどうしましょう⋯⋯」



「⋯⋯⋯⋯」


 ——どう、とは⋯⋯⋯⋯? 俺としては今すぐにでも捨てる事をお勧めするが。



 俺に問う姫様の真意が分からず、つい無言になってしまう。そんな俺の反応を見て、話を聞いていないと勘違いした姫様は頬を膨らませた。



「もうっ! レオってばわたくしの話聞いてないでしょう!」


「⋯⋯聞いていますよ」



「もういいですっ! ⋯⋯それにしても、オルティス様⋯⋯いえ、ロジャー様はとてもお優しくて素敵な男性でしたわね」



「! あいつは盗賊ですよ!? しかも、商人を騙って我が国に不法に侵入した嘘つき男です!」



「どちらも本当の彼ではありませんか。わたくしも彼を見習って民のために尽くしたいですわ」



「へえ⋯⋯そうですか。姫様はそんなに彼奴の事がお好きなようですね⋯⋯そんなに好きなのでしたらロジャーとご結婚されては如何ですか」



 姫様が妙に彼の肩ばかり持つ事が何となく面白くなくて、つい突き放したような言い方になってしまう。



「!? そういう意味で言っている訳ではありませんっ!」


 俺の言葉に、姫様は真っ赤になって必死に否定した。その姿が、俺の目にはますます怪しく映った。



「⋯⋯そうですか⋯⋯⋯⋯ああ、そういえばこの後、ジョージに呼ばれているんでした。姫様、私はこれで失礼します」


 相槌もそこそこに俺は、これ以上ロジャーの話をする姫様を見たくなくて逃げるように部屋を後にした。




 ロジャーの一件以降、俺は、決して抱いてはならない姫様への特別な感情が芽生え始めている事に気付いていた。

 こんな不要な感情は捨て去ろうとするも、一度意識してしまったら中々忘れる事は出来ず、ロジャーからプレゼントされたイヤリングを見てはため息を吐く姫様に、もやもやとした仄暗い感情を抱いてしまっていた。



 こうして、冒頭のように素っ気ない態度になってしまい、あわや姫様を泣かせてしまうところであったのだ。





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