目指せ、レッサーパンダ外交!②
「何処かと思えば此処ですか⋯⋯」
姫様に連れられてやって来たのは、庭園を抜けた先にあるあの森だった。
姫様とジョージを2人にするのは何を仕出かすか分からないため渋々着いてきたが、既に幸先が不安過ぎる。
姫様といえば、森へ入るなり落ち着きなくあちこちをうろちょろ、さらにジョージに至っては不意に現れた蛇に腰を抜かしている始末だ。
「姫様、森の入り口でこんなにも時間を潰していたら、あっという間に日が暮れてしまいますよ」
「レオの言う通りですわね。ジョージ、行きますわよ!」
「ひっ、姫様! 助けて下さい⋯⋯! 大蛇が僕の行手を阻むんです〜!」
「⋯⋯大蛇なんて何処にいるというのですか?」
姫様はキョロキョロとあたりを見渡し、不思議そうに言った。確かに、姫様の言う通り此処に大蛇はいない。
「こ、こここにいますよう〜! ほらっ僕の足元に!」
「もうっ! ジョージったら⋯⋯こんな小さな蛇、この国ならそこら中にいるではないですか!」
「僕はっ、蛇が大の苦手で⋯⋯ぎゃあっ! あっあああしに、蛇がっ」
断末魔をあげるジョージの足には、小指程の太さの蛇が巻ついていた。
「落ち着いてください、ジョージ。わたくしが取りますから」
姫様は臆する事なくジョージの足に絡みついている蛇を取り、藪の中へと逃した。
良い歳して泣きべそをかいた男が、歳下の女性——しかも、自分よりも立場が上である王女に助けられている光景は実にシュールであった。
「姫様、ありがとうございました⋯⋯。実は、僕は蛇が大の苦手ですが、昆虫もそれなりに苦手です。ですので、道中は僕の事をどうぞよろしくお願いします」
足から蛇が離れた途端、先程までの涙でクシャクシャになった顔から一転、キリリと凛々しい顔付きになりジョージは姫様に言った。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ジョージの堂々としたヘタレ発言に、流石の姫様も返す言葉が見つからず無言になっていた。
森に入ると言う事は、蛇はもちろん昆虫に遭遇する可能性が大いにあると、少し考えれば分かる筈なのに何故、ジョージはついて来たのだろうか。俺は、彼の行動が不思議で仕方なかった。
それからしばらくの間、俺たちは黙々と歩き、大分森の奥まで進んだ。
道中、肩に虫がとまったジョージがまたしても騒ぎ立てたが、騎士よろしく勇敢な姫様が救出してあげていた。
「⋯⋯そろそろかしら?」
ふいに立ち止まり、辺りを見渡しながら姫様が言った。
「姫様、着いたのですか? ⋯⋯しかし、何処にもレッサーパンダの姿が見当たりませんが⋯⋯」
「心配なさらないでください、レオ。彼らは警戒心の強い動物なのです」
「やっと姫様のお知り合いのレッサーパンダにお会いできるんですね! きっと姫様のように上品で可愛らしい方なんだろうなあ」
「とっても良い子ですわよ。今、お呼びしますね」
相当森の奥深くまで入って来たが、見渡す限りでは動物の気配は感じられ無かった。
——ここまで黙って着いてきたは良いが、本当にレッサーパンダなんているのだろうか? しかも、姫様の知り合いの、だ。
俺の不安も露知らず、姫様は大きく息を吸い込み、其のレッサーパンダの名を呼んだ。
「ツーちゃーん! わたくしです。シャーロットですー!」
レッサーパンダのツーちゃんは、姫様が呼びかけても一向に姿を現すようすは無かった。
その事に痺れを切らした姫様は、最終手段に出た。——食べ物で誘き寄せる作戦だ。
「ツーちゃん、いらっしゃるのでしょう? 貴方の大好きな林檎をたくさんお持ちしましたわよ」
レッサーパンダの大好物である林檎の存在をチラつかせ、これ見よがしにバスケットを地面へと置いた。
すると、先程までの静寂が嘘のように、目の前の茂みがガサガサと揺れたのだ。
「っ!!」
——まさか、本当にレッサーパンダがこの森に生息しているというのか。しかし、もしもレッサーパンダでは無いその他の危険な動物が現れたら、何としてでも姫様をお守りしなければ。
張り詰めた緊張感から俺は、思わず息を呑む。
すると、茂みからのそりと両手を上げた二足歩行の生き物が現れた。
『よう、嬢ちゃん。久しぶりだな』
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