姫様と宰相の優雅なお茶会③
「懐かしいですわね⋯⋯。昔はわたくしもお転婆な子でしたね⋯⋯」
昔を振り返り、懐かしそうに姫様が言った。しかし、お転婆な自分を過去のものだという姫様の言葉に引っかかりを覚え、思わず指摘する。
「何を仰いますか、姫様。今も変わらず、ですよ」
「そんなことありませんわ! 今ではわたくしも立派な淑女に⋯⋯」
そう言って、姫様はケーキスタンドに残っている最後のカップケーキを平らげた。その姿を見て、姫様の淑女への道のりはまだまだ遠いと悟る。
「淑女はアフタヌーンティーの軽食やお菓子を1人で完食しないと思いますが」
「き、今日はたまたまお腹が空いていたんです⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
完食するのはいつもでしょう、と言いそうになったが、姫様の機嫌を損ねそうだと寸前のところで堪えた。
「さあ、姫様。お食事も終わったことですし、そろそろお勉強に戻りますよ」
俺の言葉にあからさまに不満そうな顔をする姫様は突然、妙案を思い付いたというように手を叩いた。
「そうだわ! ⋯⋯ねえ、レオ。昔の話をして、あの頃が懐かしくなったでしょう? だから、久しぶりに昔のように気軽にお話しましょうよ!」
相変わらず突拍子の無い姫様の提案に、頭を抱えた。
「⋯⋯あの頃とはお互い立場が違うでしょう。お断りします。⋯⋯それに、姫様はお勉強をしたくなくて時間を引き延ばすために言っているだけではございませんか?」
「違います! 久しぶりに宰相としてのレオナルドではなく、わたくしの幼馴染のレオとお話ししたくなったのです! それに、今もあの頃もわたくしにとってレオは大切な家族です。少しくらい立場が変わったからと言ってわたくし達自身は何も変わらないのだわ!」
一度言い出したら聞かない、頑固な姫様にため息を吐く。
——この状態の姫様には俺が何を言っても無駄だろう⋯⋯。
「⋯⋯はあ。少しだけですからね」
「ありがとう、レオ!」
「まったく⋯⋯。シャーロットは今も昔も相変わらず俺を振り回すんですから⋯⋯」
「ふふっ。レオといると楽しいんだもの」
「俺はいつもシャーロットの行動にはハラハラさせられっぱなしですよ⋯⋯。プレゼントを探しに行った時だって、結婚活動の事だって⋯⋯⋯⋯」
「もう! 今はお説教は無しです! 楽しいお話にしましょ」
「⋯⋯はいはい」
こうして、楽しい時間はあっという間に流れ、お茶会は終わりを迎えた。そして、駄々をこねる姫様を家庭教師の元へと送り届け、俺は自室へと戻る。
——久しぶりにあの頃を思い出したが、今となっては良い思い出だな。
姫様と一緒になって泣き喚いた事を思い出し、思わず笑みが溢れた。そして、鍵をポケットから取り出し机の引き出しを開ける。そこには、箱の中に大切に仕舞われたあの時姫様から貰った石が入っていた。
落とさないよう細心の注意を払いながら取り出し、窓から覗く夕暮れの光にかざす。光を受けてキラキラと輝く石は息を呑むほど綺麗で、どんな宝石よりも価値があるように感じた。
どこにでもあるただの石の筈なのに、こんなにも美しく見えるのは姫様にいただいたからだろうか——。
姫様からの初めてのプレゼントは俺の決意を固めるきっかけとなった思い出の品である。
大きくなっても相変わらず突拍子も無い行動ばかりで俺を困らせるお転婆なシャーロットからはまだまだ目が離せそうに無い。
どうか、あの子の未来がより良いものとなりますように——。そうやって、石に願いを込め大切に握りしめたのだった。
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