姫様と宰相の優雅なお茶会①
今日は天気が良いので姫様の提案により庭でお茶会をする事になり、俺たちは庭園に来ていた。噴水近くのテーブルを陣取り、お茶会の準備を始める。
「ん〜! やっぱり外は気持ちいいですわね」
そう言って姫様は気持ちよさそうに伸びをした。春の麗かな日差しが俺たちを照らす。和やかな昼下がりに、先日の出来事が夢だったのでは無いかと勘違いしてしまいそうな程だ。
あの後、ヘンリー・ウォーカーは従者に引き摺られ国へと帰って行った。そして、ジョージの話によると、公爵である父親から大目玉を食らったそうだ。
大事にしたくないという姫様の意向により、クレイン王国側からは今回の件について特に申し立てをする事は無かったが、常々ヘンリー・ウォーカーの素行の悪さに参っていた従者が今回の一件を伝えたようである。
今までの問題行動や今回の事件のあらましを聞いた公爵は激怒し、次期跡取りにヘンリー・ウォーカーでは無く、彼の弟を選ぶ事にしたようだ。
ウォーカー公爵家の跡取りでは無くなった彼は、領地や財産の一部を没収され、ただいま謹慎中との事である。
そして、公爵からは迷惑をかけたお詫びと、おそらく口止め料としてたんまりと宝石や金貨が送られてきた。そのおかげで国庫は潤い、財務大臣であるジェイコブが大喜びしていた。
普段の彼はむっつりと不機嫌そうな顔がデフォルトだが、思わぬ収益にその顔は緩み、ご機嫌に小躍りする姿を思い出しながらお茶会の準備を進めていく。
真っ白なテーブルクロスの上には、陶磁器で出来たカップとソーサー、良く磨かれた一点の曇りも無いシルバーに、姫様の大好物ばかりが並んだ3段のケーキスタンドが並ぶ。
ケーキスタンドには、下から順に、我が国自慢の新鮮な野菜を挟んだサンドイッチ、次にストロベリージャムとクロテッドクリームが添えられたスコーン、上段には一口大のタルトやカップケーキが乗せられている。
ケーキスタンドを見た姫様は目の前の好物達に目を輝かせる。俺は、待ちきれない様子の姫様のカップにミルクティーを注ぎ、差し出す。
「ありがとう、レオ」
「食べ終わったらお勉強を再開しますからね」
勉強の話題を出した途端、分かりやすく狼狽える勉強嫌いの姫様。
「やめてください、レオ! お勉強の事は今は思い出したくありませんわ!」
「でしたら姫様。今回はどうか逃げないでくださいね。前回もお茶会の後、姫様は姿を眩ませたではありませんか」
「そ、それは⋯⋯⋯⋯。この間はどうしても外せない大切な予定がありましたの!」
「ほう⋯⋯。お勉強よりも大切なご予定ですか⋯⋯」
姫様の咄嗟の言い訳に俺は目を細め、じとりと彼女を見やる。嘘が見抜かれていると悟った姫様は慌てて話題を逸らそうとした。
「そ、そう言えば! もうすぐレオの誕生日ですわね! 欲しいものは決まりましたか?」
「姫様〜〜!」
あからさまな話題の逸らし方にため息をつく。嘘を付こうとしても丸分かりの、素直な姫様に免じて今日は目を瞑る事にしよう。
「⋯⋯まあ、過ぎた事は大目に見ましょう。ですが、次はありませんからね」
「わかりました⋯⋯。それにしてもレオったら宰相になってから益々わたくしに厳しくなってしまったわ⋯⋯。昔はもう少し優しかったのに⋯⋯」
「心外ですね。私は昔から姫様には最大限お優しく接しております」
「そんな事ありませんわ!」
むっと頬を膨らませた姫様は、しばらくはご機嫌斜めになるかと思いきや、直ぐに明るい表情になった。そして再び俺の誕生日についての話題に触れたのだった。
「そうだわ! 誕生日といえば、わたくしが初めてレオにあげたプレゼントを覚えていますか?」
「忘れる筈ありませんよ。色々と忘れられ無い一日でしたから」
そう言って懐かしい日々を思い返しながら答える。そうだ、姫様から頂いた初めてのプレゼントを忘れる筈がない。嬉しさと不安と、色々な感情が混ざり合って姫様と一緒にわんわん泣いてしまった俺の7歳の誕生日。
——あの日、俺はこの命に代えても姫様を守り抜くと誓ったのだ。
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