第4話「ブラウン伯爵家の夕食会」



「でもメアリーの家は伯爵家よね。

 格上の侯爵家に婚約解消の申し出ができるの?」


「大丈夫よ。

 ベン様が言ったことをそのまま父とトーマ侯爵に話せば二人とも分かってくれるわ」


隣国に嫁ぐ幼馴染を追って隣国に行き、家には年に一回しか帰ってこないというベン様。


ベン様がおっしゃった言葉を、そっくりそのまま父とトーマ侯爵に伝えれば、スムーズに婚約解消できるはず。


「もし、トーマ侯爵家がごねるようならわたしに言って。

 ランゲ公爵家実家の権力を使って、トーマ侯爵家ごと叩き潰してやるから!」


ヴィルデの藤色の瞳がキラリと光る。


「顔が怖いよ、ヴィルデ。

 美人が台無し」


「ごめんなさい。

 メアリーがコケにされたことに腹が立ってつい力が入ってしまったわ」


ヴィルデが口の前に手を当てオホホと笑う。


「そうだ、ヴィルデ。

 今日の夜空いてる?」


「とくに予定はないけどどうして?」


「家で夕食会を開くから招待したいと思って」


「でも今日はメアリーの誕生日よね?

 身内と婚約者と婚約者の両親以外は招待できないって前に言ってなかった?」


「ベン様に夕食会には行けないって言われたわ。

 だから食事が一人分余ってしまうの。

 ヴィルデは私の親友だし、本当は一番に招待状を贈りたかったのよ」

 

私を快く思ってない婚約者を呼ぶより、親友を呼んだ方がずっといい。


「だからもし良かったらと思ったんだけど……よく考えたら失礼よね。

 公爵令嬢のヴィルデをこんな理由で誘うなんて」


「そんなことないわ!

 嬉しいわ!

 何があっても絶対に行く!」


ヴィルデがそう力強く言い切った。


「ありがとう」


ヴィルデを誘ったことで己の運命が変わることを、このときの私は知る由もない。




☆☆☆☆☆





ブラウン伯爵家で開かれた夕食会には、私と両親と祖父母と弟、トーマ侯爵夫妻、ベン様とベン様の弟を招待していた。


ベン様は来れなくなったので、代わりにヴィルデを招待した。


夕食会はつつがなく進み、デザートを食べ食後の紅茶が出されるタイミングで、私はベン様との婚約解消の話を切り出した。


ベン様が昼間私に言ったことをそっくりそのまま話し、最後に「なのでベン様との婚約を解消したいのです」と伝えた。


父とトーマ侯爵は、

「ベンがそんなことを言うなんて信じられない!

 一度ベンを呼んで事実を確認してみる!」

と言った。


ベン様に言い逃れされたら面倒だと思ったそのとき……。


「その話ならわたしも聞きましたわ。

 ベン様は確かにそのような非道なことをメアリーに言っておりました」


ヴィルデの援護射撃が入った。


ヴィルデは今日、学園に午後から来た。


だから私とベン様の会話を聞いてるはずがない。


ありがとうヴィルデ、話を合わせてくれて。


私はヴィルデに目で合図を送る。


ヴィルデはニッコリとほほ笑み、頷いた。


ヴィルデと私は阿吽の呼吸で通じ合っている。


私たちは親友を通り越した大親友だ。


公爵令嬢のヴィルデの証言の効果は絶大で、父もトーマ侯爵も私の話を信じてくれた。


翌日、トーマ侯爵が当家を訪れ、私とベン様の婚約解消の場が設けられた。


ベン様はその場にいませんでしたが、婚約は家同士で取り決めるものなので、ベン様がいなくても父とトーマ侯爵が書類にサインした時点で婚約解消は成立します。


婚約解消の手続きは滞りなく完了しました。




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