第3話「豹変(ひょうへん)」ざまぁ
――誕生日の二日後、学園――
お昼休み、私は学園の裏庭でヴィルデとお弁当を食べていました。
「ヴィルデ、ありがとう!
あなたが証言してくれたお陰で、ベン様と正式に婚約解消できたわ!」
昨日ベン様との婚約解消の書類をお城に提出し、ベン様と正式に婚約解消出来た事を伝えました。
「いいのよ!
だって親友じゃない!」
「父もトーマ侯爵も私の言葉は信じないのに、ヴィルデの言葉はあっさり信じるんだもの」
「ランゲ公爵家の名前が役に立ったわね。
わたしの公爵令嬢としての身分がメアリーの手助けになるなら、いくらでも利用して」
ヴィルデが私のことを、真っ直ぐに見つめて来ました。
彼女は綺麗な顔をしているので、同性だとわかっていても見つめられるとドキドキしてしまいます。
「あのね、メアリー。
私、あなたに伝えたい事があるの……」
「何……?」
相手は女の子なのに、ときめくなんて私どうかしてます!
「私ね、あなたのことが……」
ヴィルデが何か言いかけたその時でした。
「メアリー・ブラウン!
貴様、よくもやってくれたな!」
ベン様の声がして振り向くと、彼が早足でこちらに近づいてきました。
彼は鬼のような形相をしていました。
「メアリー!
お前のせいで俺は破滅だ!」
ベン様は私の目の前に立つと、キッと私を睨め付けた。
「昨日家に帰ったら、父に殴られて侯爵家の後継者から外された!
父に『お前が学園を卒業すると同時に勘当する! 次男のボイスを跡継ぎにする!』と言われた!
おととい俺がお前に言ったことを、そっくりそのまま父に伝えたな!」
彼が侯爵家の跡取りとして相応しくないのは事実です。勘当されるのは当然でしょう。
次男のボイス様はまだ十歳ですが、兄のベン様に似ず真面目な性格の常識人です。
彼が跡継ぎになれば侯爵家も安泰ですね。
「そうですが、それが何か?」
私の出した声は、自分で思っていたより温度がありませんでした。
私はかなりベン様に辟易していたようです。
「何かじゃない!
なんでそんなことをした!」
「ベン様と結婚したくなかったからです」
自分より幼馴染を優先する男と結婚したがる人はいません。
「茶髪の地味女の癖に調子に乗りやがって!!
お前は黙って俺と結婚して、一生俺に従って生きればよかったんだよ!」
私が地味な見た目なのはわかっています。
だからといってここまでコケにされていい理由にはなりません。
「なぜそんなに怒っているのですか?
私との婚約を解消すれば、ベン様は好きなだけアリッサ様の側にいられるのですよ?
私はあなたと結婚しなくて済む。
あなたは好きなだけ幼馴染の側にいられる。
お互いにとって良いことだと思いますよ?」
アリッサ様の側にいられると言っても彼女には別に婚約者がいますから、ベン様は節度ある距離を保たなければなりませんが。
「アリッサに事実を話したらこう言われたよ!
『他人の婚約者を弄ぶのが面白かったのよね。ベンったらわたくしが呼び出すとどこへでもやってくるんですもの。婚約者より優先されて気分が良かったわ。
でも婚約を解消されて、家からも勘当されるあなたに、なんの魅力も感じないわ。
婚約者のヨハン様がデブで不細工だから、見目の良いあなたを隣国に連れて行って目の保養にしようと思っていたの。でもヨハン様は私の為に三十キロもダイエットしてくれたのよ。痩せたヨハン様はベンの百倍はかっこいいのよ。
だからもうあなたは必要ないわ。平民になった幼馴染がいるなんて他人に知られたくないの。かっこ悪いから二度と会いに来ないで!』
とな!」
他人の婚約者を弄ぶのが楽しかったとか、婚約者が不細工だから見目の良いベン様を侍らせて置きたかったとか……アリッサ様ってお顔は美しいですが、酷い性格をしているのですね。
婚約者を蔑ろにしていたベン様と良い勝負です。
アリッサ様とベン様は似た者同士だから仲が良かったのかもしれません。
「アリッサ様の婚約者が、ダイエットに成功してハンサムになったのは私のせいではありません!
そもそもあなたがアリッサ様に付いて隣国に行くなんて言わなければ、こんなことにはならなかったのです!
婚約解消されたあと、後継ぎから外されたのも、ご実家から勘当されたのも、全部ベン様の日ごろの行いが悪いからです!
私のせいにしないでください!」
なんでこんな人と昨日まで婚約していたのかしら?
もっと早くに見限っていればよかったわ。
「煩い! 煩い! 煩い! 煩い! 煩ーーい!!」
ベン様がそう喚き散らし、私の肩を掴みました。
彼の目は血走っていて、私は恐怖を感じました。
「全部お前が悪いんだ!
お前のせいなんだよ!!
お前は黙って俺と結婚して、領地経営をしながら子育てでもしてればよかったんだよ!!
俺と結婚すれば俺に似たかわいい子が生まれるのに、何が不満なんだ!!
分かった!
俺が実家に帰ってくる回数が少ないのが不満なんだな?
帰宅する回数を年に二回、いや三回に増やしてやる!
年に三回も俺に抱いてもらえるなら満足だろ?
俺だって本当はお前みたいな下位貴族の茶髪の地味女を視界に入れたくないんだ!
俺が譲歩するんだからお前も譲歩しろよ!
分かったら俺との婚約解消の話をなかったことにすると父に伝えろ!
『ご迷惑をおかけしてすみませんでした!』と父に詫びろ!
床に頭をこすりつけて『ベン様の言うことは何でも聞きます! お願いですから私と結婚してください!』と言って俺に泣いて懇願しろ!!」
なんて身勝手な言い分なのでしょう。
本当にこの方は最低です。
彼を引っ叩いてやりたいですが、彼に腕を掴まれていてそれもできません。
「さあ、早く俺に謝罪しろ!
そして結婚してくださいと懇願するんだ!」
「痛いっ……!」
彼が私の腕を握る力を強めたので、私は涙が出そうになりました。
痛い、怖い、誰か助けて……!
「おい! 彼女の腕を離せ!
このゲス野郎!!」
ヴィルデがベン様の腕を掴むと、彼の頬を殴りました。
よほど強い力で殴られたのか、ベン様は芝生の上を勢いよく転がっていきました。
「……くそっ!
何すんだ……!」
殴られたベン様が起き上がろとしましたが、ヴィルデが彼に馬乗りになって阻止しました。
ヴィルデはベン様に馬乗りになったまま、彼の胸ぐらを掴みました。
「いいかよく聞け!
このカス野郎!
メアリーはめちゃくちゃ綺麗な心の持ち主なんだよ!
メアリーは優しくて、努力家で、友達思いで、すっげぇ良いやつなんだよ!
顔だってお前が女神と崇めてるアリッサの何倍も綺麗なんだよ!!
それにメアリーは凄くいい匂いがするんだよ!
彼女はオレの聖女なんだよ!
他人の婚約者に粉をかけて弄ぶのが趣味なアバズレと、メアリーを比べるのがそもそもの間違いなんだよ!
彼女はお前のようなゲスが、馬鹿にしていい相手じゃないんだよ!!」
ヴィルデが拳を振り上げました。
彼女はベン様を殴るつもりのようです。
私はとっさにヴィルデの腕を掴んでいました。
◇◇◇◇◇
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