第2話「親友と誕生日プレゼント」



「メアリー、誕生日おめでとう」


教室に戻ると、ヴィルデがお祝いの言葉と共にプレゼントを渡してくれました。


ヴィルデは銀色のさらさらヘアに、藤色の瞳の美しい令嬢です。


名門ランゲ公爵家の長女で、成績優秀、文武両道。


欠点といえば、彼女の身長が平均より高いことくらいです。


ヴィルデはアリッサ様と並んで、学園の三大美女の一人に数えられています。


「ありがとう!

 ヴィルデは私の誕生日を覚えてていてくれたのね!」


「もちろんよ!

 メアリーは私の親友だもの!」


ヴィルデから手渡されたのは、桃色のリボンのついた小さな箱でした。


「ありがとうヴィルデ!

 ねぇ、開けてもいい?」


「ええ、もちろん!」


箱の中には、アメジストのブレスレットが入っていました。


「とっても素敵!

 私はこういうのが欲しかったの!

 ありがとう!」


ヴィルデからセンスの良いプレゼントを貰ったことで、ベン様に付けられた心の傷が少しだけ癒えました。


「そう言って貰えて嬉しいわ。

 心を込めて作った甲斐があったわ」


「えっ?

 もしかしてこのブレスレット、ヴィルデの手作りなの?」


「そうなの。不格好でごめんなさい」


「そんなことないわ!

 凄く綺麗だわ!

 ありがとう!」


親友が自分の為にプレゼントを作ってくれるなんて、こんな嬉しい事ないわ!


「喜んで貰えてよかったわ」


そう言ったヴィルデの手には、黒真珠のブレスレットが光っていました。


私が受け取ったアメジストのブレスレットとデザインが酷似しています。


「もしかしてヴィルデが付けているブレスレットも、あなたの手作りなの?」


「そうよ。

 使っている石は違うけど、デザインはあなたに贈った物と同じよ。

 元々はこういう作業苦手だったんだけど、あなたにお裁縫とかミサンガの作り方とか、色々教わっている内に、物を作るのが楽しくなってきたの。

 それでブレスレット作りにも挑戦してみようと思ったのよ」


彼女はそう言ってニッコリと微笑みました。


入学したばかりのヴィルデは、貴族の令嬢にしては珍しく刺繍や裁縫が苦手でした。


苦手というより、初めて挑戦するという感じでした。


見かねて私が手を貸したのが、彼女と親しくなったきっかけでした。


「親友とお揃いのブレスレットが付けられるなんて素敵!

 ありがとうヴィルデ!」


ベン様のせいで落ち込んでいたけど、親友のお陰で救われたわ。


「私ね、黒真珠の落ち着いた色味が好きなの。

 メアリーの瞳の色と同じでとても綺麗だもの」


ヴィルデがそう言って、私の目を真っ直ぐに見つめてきました。


彼女の顔は人形のように整っていて、そんな彼女に褒められると照れくさくなってしまいます。


「私も紫水晶が好きよ。

 ヴィルデの瞳の色に似ていてとっても綺麗だもの」


私がそう言って彼女の手を握ると、彼女は頬を赤らめ恥ずかしそうに視線を逸らしました。


「そ、そう……ありがとう」


「今気づいたけど、ヴィルデの手って大きいのね」


自分の手と彼女の手を重ね、比べてみました。


彼女の手は、私の手より一回り大きかったのです。


「あまり見ないで、女の子なのに手が大きいなんて恥ずかしいわ……」


「ごめんない」


ヴィルデは手が大きい事を気にしていたのね。


デリカシーのないことを言ってしまったわ。


「大丈夫よ、気にしてないわ。

 そう言えば休み時間にベン様に呼び出されていたようだけど、何の話だったの?

 彼、教室ではプレゼントを渡しにくいから別の場所に呼び出したとか?」


「えっと、それがね……」


私はお昼休みにベン様に言われたことを包み隠さずヴィルデに話しました。


「ベン様はゴミね!

 いえゴミにすらなれないクズだわ!」


事情を知ったヴィルデが吐き捨てるように言いました。


彼女は眉間に皺を寄せ、とても怖い顔をしていました。


私の為に怒ってくれたのは嬉しいけど、怒ると美人が台無しになってしまいます。


ゴミの中にはリサイクルできるものもあるので、分ければ資源になります。


一方クズは小さくて利用価値がありません。


「待っていてメアリー、私が彼を殴って来てあげる!」


ヴィルデが拳を握りしめました。


「ありがとう、ヴィルデ。

 気持ちだけ受け取っておくね」


ベン様には殴る価値もありません。


「ベン様がアリッサ様に付いて隣国に行くと言ってくれたお陰で、ベン様と婚約解消する決心がついたの。

 だから悪いことばかりじゃないわ」


「それ、本当!?

 ベン様との婚約を解消するの?!」


ヴィルデが私の手を握りしめました。


「あっ、ごめんなさい!

 興奮してつい……」


彼女は頬を赤らめ、慌てて私から手を離しました。


女の子同士なんだから、手を握ったぐらいでそんなに気にすることないのに。


「でもメアリーの実家は伯爵家よね?

 ベン様の家は侯爵家。

 格上の侯爵家相手に婚約解消の申し出ができるのかしら?

 私、心配だわ」


「大丈夫よ。

 ベン様が言ったことをそのまま父とトーマ侯爵に話すつもりだから。

 二人とも今日起こった事を知れば、ベン様との婚約を解消することに同意してくれるはずよ」


隣国に嫁ぐ幼馴染に付いて行き、家には年に一回しか帰ってこないというベン様。


ベン様がおっしゃった言葉を、そっくりそのまま父とトーマ侯爵に伝えれば、スムーズに婚約解消できるはずだわ。


「もし、トーマ侯爵がごねるようなら私に言ってね。

 ランゲ公爵家実家の権力を使って、トーマ侯爵家ごと叩き潰してあげるから」


ヴィルデったら、にっこり笑って恐ろしい事を言うのね。


でも、彼女ならそれくらいの事やりそうだわ。


「ありがとう、頼りにしてるわ。

 そうだ、ヴィルデ今日の夜空いてるかしら?」


「特に予定はないけどどうして?」


「家で夕食会を開くの。

 あなたにも来てほしいわ」


「でも今日はメアリーの誕生日よね?

 婚約者と婚約者の両親以外は招待できないって、前に言ってなかったかしら?」


「確かにそう言ったわ。

 でもベン様には夕食会に行けないって言われてしまったの。

 だからという訳ではないけど、家に来てほしいの。

 それに本当の事を言うと、今日の夕食会にはベン様より、親友のヴィルデに来てほしいって思っていたのよ」

 

私を快く思ってない婚約者と食事をするより、親友と食事をした方がずっと楽しいわ。


「それとね、両親やトーマ侯爵にベン様との婚約解消したいと伝えるのは勇気がいるの。

 あなたがいてくれたら心強いわ。

 でも……よく考えたら失礼よね。

 公爵令嬢のヴィルデをこんな理由で誘うなんて……」


「そんなことないわ!

 招待して貰えてとても嬉しいわ!」


「本当?」


「もちろんよ!

 何があっても絶対に行くわ!

 私、メアリーの力になりたいの!」


ヴィルデが力強く言い切りました。


「ありがとう」


頼もしい親友がいてくれて、心強いです。



◇◇◇



私は夕食会で両親とトーマ侯爵に、昼間のベン様の言葉を一言一句違わずに伝えました。


両親もトーマ侯爵も最初は「そんなはずはない。ベンがそんなことするはずがない」と言っていました。


このままではベン様と婚約解消できないかもと、私が不安になったとき、ヴィルデが加勢してくれました。


両親もトーマ侯爵も、ランゲ公爵令嬢であるヴィルデの言葉を無視できなかったようです。


ヴィルデのお陰で、私はベン様との婚約を解消することができました。


ヴィルデを夕食会に誘ってよかった。


彼女には感謝してもしきれません。




◇◇◇◇◇


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