「幼馴染を敬愛する婚約者様、そんなに幼馴染を優先したいならお好きにどうぞ。ただし私との婚約を解消してからにして下さいね」完結

まほりろ

第1話「幼馴染を優先する婚約者」

※大幅に加筆修正しました。2024年7月11日

※メアリーとベンの髪の色を変更しました。

 メアリー:茶色い目→黒い目。

 ベン:黒髪、黒目→赤髪、赤目。

 変更した理由はヴィルデに茶色い(メアリーの目の色の)服を着せたくないからです。

 ベンの髪と目の色の変更はメアリーと被らせない為です。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【本文】


「メアリー・ブラウン!

 俺は隣国に嫁ぐアリッサ様と一緒に隣国に行く!

 お前は親が決めた婚約者だから仕方がないから結婚してやる!

 結婚後は侯爵家のことはお前が一人で切り盛りしろ!

 年に一回帰国して子作りはしてやるからありがたく思え!」


婚約者にこう言われたとき、私は開いた口が塞がらなかった。


私の婚約者は侯爵家の嫡男のベン・トーマ様。


私は格下の伯爵家の長女。


侯爵令息である彼が伯爵令嬢である私に、横柄なのはいつものことですが、今日の態度は取り分け酷いものでした。


まさか、お昼休みに校舎裏でこんな話を聞かされることになるとは思っても見ませんでした。


お昼休みが始まってすぐ、ベン様が私のクラスに訪ねてきました。


彼は「大切な話がある」と言って私を教室から連れ出したのです。


今日は私の誕生日なので、もしかして何かロマンチックなサプライズがあるかもと期待した私は愚かでした。


ベン様は真紅の髪にルビーの瞳の見目麗しい少年。


彼の幼馴染のアリッサ様は、公爵家のご令嬢。


アリッサ様は腰まで届くふわふわの金色の髪に、サファイアのような青い瞳の持ち主で、メリハリがついたナイスバディで、目鼻立ちが整った美人。


対する私は伯爵家の長女で、土のような茶色の髪と、漆黒の瞳、平凡な容姿、メリハリが少ない幼児体型。


ベン様が美人の幼馴染を自慢したいのはわかります。だからって地味な私を傷つけていい理由にはなりません。


「ベン様、一つ確認したいのですがよろしいですか?」


「なんだ?」


「ベン様はアリッサ様がお好きなのですか?」


「アリッサ様への感情は好きとか嫌いとかそんな生々しいものではない!

 俺は女神のように美しいアリッサ様を敬愛しているのだ!

 美麗な女神像を信仰するのに理由がいるのか?

 いや、いらないだろう!

 秀麗なものにはそれだけの価値があるのだからな!」


キラキラと目を輝かせて熱弁するベン様。


「はあ……そうですか」


だめです。


この人には何を言ってもこの人には響きません。


私はこのときベン様に期待するのを止めました。


ベン様にはお茶会、学園主催のパーティ、王家主催のパーティ、誕生日、婚約記念日……ありとあらゆるイベントをすっぽかされてきました。


アリッサ様の家から使いが来ると、ベン様は理由も聞かずに飛び出して行ってしまうのです。


そしてそのまま帰ってこないのです。


翌日彼の口から「アリッサ様のお見舞いに行った」、「アリッサ様とカフェに行った」、「アリッサ様とお芝居を見てきた」と聞かされたとき、私はとても惨めな気持ちになりました。


ベン様は、

「アリッサ様が病気のとき一人でいるのは心細いと言うから」

「アリッサ様が知らないお店に一人で入るのが怖いと言うから」

「アリッサ様が一人で芝居を見たくないと言うから」

と言っていました。


お見舞いはともかく、婚約者との予定をドタキャンして、婚約者以外の女性とカフェやお芝居に行くのはいかがなものかと思います。


もういいです。


そんな彼と婚約していることに疲れました。


元々親の決めた婚約で、ベン様に一度も恋愛感情を抱いたことはありません。


結婚するのだから、せめて良好な関係を築こうと努力してきましたが、先ほどの彼の発言を聞いて全て無駄なことだったと悟りました。


「ベン様は、アリッサ様に抱かれている感情は敬愛だとおっしゃるのですね?」


「そうだ!

 俺はアリッサ様に対して邪な感情を抱いたことなどない!

 俺はただアリッサ様の側にいて見守りたいだけなんだ!」


「そうですか」


「だが俺は侯爵家の嫡男だ!

 家を継いで、結婚し、跡継ぎを残さなければならない!」


「はぁ」


「しかし幸いにも俺には地味だが頭の切れる婚約者がいる!

 家のことは地味な妻に任せて、俺はアリッサ様と一緒に隣国に行き、彼女を見守る!

 どうだこれなら侯爵家とアリッサ様、両方を守れるだろう!?」


ベン様はドヤ顔で語りました。


よくもそんな恥知らずな事を、自慢気に語れるものです。


私は怒りや呆れを通り越して、無の境地でした。


「そうですか。

 ベン様のお気持ちはよくわかりました。

 あなたのお好きなようになさってください!」


「ありがとう!

 メアリーなら分かってくれると思っていた!」


ベン様はそう言って私の手を掴みぶんぶんと振りました。


気持ち悪いので触らないでほしいです。


あとで手をよく洗って消毒しておきましょう。


「ベン様、今日は我が家での夕食会にトーマ侯爵家の皆様をご招待しているのですが……」


「そんなものはキャンセルだ!

 俺が行かなくても父上と母上が参加すれば問題ないだろ!

 俺はアリッサ様にこのことを伝えてくる!」


そう言ってベン様は笑顔で走っていきました。


「今日の夕食会は私の十八回目の誕生祝いも兼ねていたんですけどね……」


ベン様は私の誕生日すら覚えていなかったようです。


「幼馴染を敬愛する婚約者様、そんなに幼馴染を優先したいならお好きにどうぞ。

 ただし私との婚約を解消してからにしてくださいね」


隣国に嫁ぐ幼馴染を側で見守るために隣国について行くなどと、世迷言をぬかす婚約者様とは今日でお別れです。


ベン様が今日私に言ったことを、父とトーマ侯爵に話し、ベン様との婚約を解消して貰いましょう。


「はぁ……十八歳の誕生日を祝う夕食会が婚約解消の話し合いの場になるなんて……最低だわ」




◇◇◇◇◇



もしよければ★から評価してもらえると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る