第8話 仙狐の子視点

今私は大忙しだ。

先生が来てくれる日の為、必死に準備をしていた。


初めて先生と出会った時、厄介な物に纏わりつかれているのが直ぐに分かった。

その時はまだこの人間さんを助けてあげないとという気持ちで近づいた。

助けるために家庭教師になってもらったけど、先生との時間は居心地が良くてどんどん惹かれていった。

先生は会うたびに洗脳や催眠されている痕跡があるからなんども解除するのは大変だけどいつの間にか苦にならなくなっていった。

先生を喜ばせたい。

その一心で料理の練習をしたり、部屋の掃除を念入りに行った。

全ては先生の為に!

そして先生が来た! 玄関に向かいドアを開ける。

そこにはいつも通りの優しい笑みを浮かべる先生の姿があった。

うわぁ……カッコいい……

心臓の鼓動が激しくなる。

顔が熱くなるのを我慢し先生に挨拶する。


「いらっしゃいませ!先生!」


「うん、おじゃまします」


「さあ、早く入ってください。お茶を用意しますから」


自分の部屋に案内してお茶と一緒に準備していたクッキーを出す。

洗脳や催眠などを解除しつつ先生に喜んでもらえる様に味にも気をつけた自慢の一品。

色んな意味で早く食べてほしくて先生にクッキーを押し込んでしまう。

そんなはしたない真似をしても、とってもおいしいと喜んでくれる先生に思わずキュンとしてしまった。

その後、先生に迷惑を掛けないように勉強をして終わりの時間がきてしまった。


「そろそろ終わりにしよっか」


「はい……」


本当はこのまま一緒に居たい。

もっと一緒に遊びたい。

そんな感情がつい出てしまった。


「どうかした?」


「その、まだ先生と一緒に居たいなって思って……ダメ……でしょうか?」


「それは構わないけど……親御さんとか大丈夫なのかい?」


「はい……実は今日、両親は旅行に行っていて明日まで帰ってこないんです。だから寂しくて……」


先生が私の感情に気づいてくれて様子をうかがってくれる。

嘘なんてついちゃダメだけど両親が返ってこないからとデタラメを言って先生の気を引く。


「そうだったんだ。ならもう少しだけね」


「本当ですか!?やったぁ♪」



嬉しさのあまり飛び跳ねてしまう。

それから二人でソファーに座った。

先生が隣に座ってくれたけど、どうしよう? 緊張して上手く話せない。

何か話題は無いかと考えているうちに、私から話しかける事が出来なくなってしまった。

せっかく二人きりなのに会話が無いのは良くない。

何とかしないと……そうだ! 私は勇気を出して座りながら先生に近づいていく。

肩と肩がくっつくくらいの距離まで近づき、じっと目を見つめた。

すると先生は少し照れたような表情をする。

やっぱり男の人はこういうのが好きなんだな。


「せんせーあったかいですねー」


「そうだね」


やっと出た言葉が先生の体温が心地いいって事に気づいた私は恥ずかしくて、先生の体に頭をぶつけて顔を隠す。

こんな私でも先生は優しく受け止めてくれて、頭を撫でてくれる。もっと撫でて欲しいと思いながら目を閉じて甘える。

幸せだ。


「せんせー大好きですよ♡」


「僕もだよ」


感情が溢れて先生に好きだと言ってしまう。

先生はまだ私の事を子供扱いしてるから簡単に返事をしてくる。

悔しいけど、先生が私の事を見てくれないのは嫌だ。

だから、いつか振り向かせてみせる。

先生が頭を撫でるのをやめた。

残念。

もうちょっとこうしてたかったな。

子供扱いされてるから子供らしく甘えてみる。


「せんせー、ハグしたいです!」


「うん、おいで」


これで意識してくれるかな? 先生は私の体を抱きしめてくれた。嬉しい!


「ふふっ、幸せ〜♡」


「喜んでくれて嬉しいよ」


「あの、私もぎゅってしちゃいますね」


もっと先生を感じたくて自分からも抱きしめる。

先生の温もりを感じてどんどん理性が薄くなっていく。


「せんせ、もっと強く抱きしめて欲しいな……」


「わかったよ」


先生に強く抱きしめられると幸せで頭がチカチカする。


「んぅ……これ好きぃ……すごく安心します」


「そうなの?」


「はい、もっとして欲しいです。あと頭ナデナデも」


幸せで蕩けきった私は思うがままに先生に甘えてしまいます。

もっとしてほしい。

もっといっぱい触ってほしい。

そんな思いで先生の服を掴む手に力が入る。

先生の事が欲しくてたまらなくなってしまいました。

先生が欲しい……

そんな思いを込めて先生に頬を擦り付ける。

気持ちいい……ずっとこうしていたいなぁ。

こうして先生に甘えていると疲れから眠たくなってしまった。

解呪のおまじないを込めたクッキーを作るのは大変なのだ。


先生も私が眠たくなっているのに気付いて、ベットまで一緒に行く。

本当は先生と一緒に寝たいけど今日はこれで我慢するしかない。

次はどんな風に甘えよう。

いつかはキスもしてもらいたいな。

そんな期待をしながら先生のおやすみって声と共に眠りについた。

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