第7話 仙狐の子

今日の仕事は特に気合いを入れていかないと。

なぜなら、生徒がとても優秀なのだ。

多分、獣人の女の子で名前は水無月ちゃんという子だ。

普段は凄く可愛いだけの幼い少女って姿だけどたまにケモミミや尻尾が生えてる。

本人は隠してるつもりみたいなので触れないけど……


それに水無月ちゃんとは出会い方も特殊だ。

家庭教師の相手は専門のサイトを通じて知り合うのだが、水無月ちゃんはどこからか聞きつけてきたのか直接頼み込んで来たのだ。

最初は断ったがあまりにも熱心にお願いしてくるので仕方なく引き受けることになった。

実際会ってみると見た目も幼くて、本当に大丈夫なのかと心配になった。

でもいざ教えてみると、彼女は頭が良く飲み込みが早い。

しかも教えたことをすぐに理解するので教えるのが楽しくなる。


水無月ちゃんの事を考えていると、早速彼女の家に着いた。

インターフォンを鳴らす。

すると中からドタドタと足音が聞こえてきてドアが開いた。


「いらっしゃいませ!先生!」


満面の笑みを浮かべて出迎えてくれる。

この笑顔を見ると疲れも吹っ飛ぶ。

それに水無月ちゃんは可愛い。

思わず抱きしめたくなってしまう。


「うん、おじゃまします」


「さあ、早く入ってください。お茶を用意しますから」


「ありがとう」


部屋に入ると甘い匂いが漂ってくる。

どうやらお菓子を作っていたみたいだ。

テーブルの上にはクッキーが置いてある。


「先生の為に作ったんですよ?食べてください!」


そう言って水無月ちゃんは僕の口にクッキーを押し込んできた。

美味しい……

でも恥ずかしいな……


「どうですか?」


「えっと、とってもおいしいよ」


「良かったです!もっとありますからたくさん食べてくださいね!」


「うん、いただきます」


その後、僕たちは少し談笑してから勉強をすることにした。

勉強といっても難しいものではなく、水無月ちゃんは頭がいいので特に苦労はしない。

むしろ楽しいくらいだ。水無月ちゃんはとても明るくて元気なので一緒にいるだけでこっちまで気分が上がってくる。

そんな感じで時間が過ぎていき、あっという間に夕方になってしまった。


「そろそろ終わりにしよっか」


「はい……」


返事をしたけど、どこか様子がおかしい気がする。


「どうかした?」


「その、まだ先生と一緒に居たいなって思って……ダメ……でしょうか?」


「それは構わないけど……親御さんとか大丈夫なのかい?」


「はい……実は今日、両親は旅行に行っていて明日まで帰ってこないんです。だから寂しくて……」


「そうだったんだ。ならもう少しだけね」


「本当ですか!?やったぁ♪」


嬉しそうに跳ねる。

やっぱり水無月ちゃんは子供らしくていいな。


「それじゃあ勉強はここまでにしてお話でもしようか」


「はいっ!」


二人でソファーに座る。

寂しい思い出来る限りさせない様にしないと……

隣同士に座っていると水無月ちゃんがこちらにゆっくりと距離を詰めてくる。

そしてぴったりとくっついてきた。


「せんせーあったかいですねー」


「そうだね」


やっぱり両親がいないと寂しいんだろうな。

水無月ちゃんが甘えるように頭を擦り付けてくる。

僕はそれを優しく撫でてあげる。

すると気持ち良さそうに目を細める。

かなり気が緩んでいるのかケモミミや尻尾がいつのまにか生えていた。

気づいてないフリをしないと……


「せんせー大好きですよ♡」


「僕もだよ」


妹や子供がいたらこんな気持ちになるのだろうか。

可愛くて仕方がない。


「せんせー、ハグしたいです!」


「うん、おいで」


水無月ちゃんを抱き寄せる。

胸は無いけど体全体が柔らかくて良い匂いがして癒される。


「ふふっ、幸せ〜♡」


「喜んでくれて嬉しいよ」


「あの、私もぎゅってしちゃいますね」


水無月ちゃんが抱きかえしてくる。

胸が小さいからかお腹も胸もより密着してドキドキしてしまう。

水無月ちゃんの温かい体温を感じる。しばらくそのままでいたけど……

水無月ちゃんがモゾモゾと動き出した。


「せんせ、もっと強く抱きしめて欲しいな……」


顔を赤くしながら言う。


「わかったよ」


要望通りに腕に力を入れると水無月ちゃんはビクッと震えた。


「んぅ……これ好きぃ……すごく安心します」


「そうなの?」


「はい、もっとして欲しいです。あと頭ナデナデも」


水無月ちゃんが上目遣いで言う。

言われた通り、頭を撫でながら抱きしめてあげた。

水無月ちゃんは嬉しそうに頬をすり寄せている。

本当に可愛い子だ。

それからしばらくの間、水無月ちゃんと触れ合っていた。

やがて水無月ちゃんがウトウトし始めた。

眠くなってきたみたいだ。


「そろそろ寝ようか」


「はい……」


水無月ちゃんが立ち上がる。


「ベッドまで連れて行ってください」


「うん」


水無月ちゃんの手を引いて寝室に連れていく。

水無月ちゃんは布団に入るとすぐに夢の世界へ旅立ってしまった。


「おやすみ、また明日」


水無月ちゃんに一声かけて部屋を出た。

さて、帰るとするかな。

水無月ちゃんに癒されたお蔭か軽い足取りで帰宅するのだった。

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