第4話 見込みちがい
松田が撮った
沙都子は週一日だけの出勤にもかかわらず、初日も翌週も満員御礼。
暖かくなるにつれ客足も順調だ。月末にやってくる
沙都子の初出勤の日。
あんな素人臭い沙都子にこんな仕事が勤まるのか、芳恵は気が気でなかった。
何かトラブルが起きるのではと、じっと電話の前で待機していた。
沙都子から「ホテルから出ました」と連絡が入ったとき、芳恵は「お疲れ様」ではなく「よかったね! 無事に済んだんだね!」と、我が事のように喜んだ。
この店で働き始めたばかりの頃の芳恵は、仕事から戻ってくる女たちの顔をまともに見ることすらできなかった。
(……この人は、男の人とイヤらしいことしてきたんだ……)
そんなことを思うと、なんとも恥ずかしくて「お疲れ様でした」と頭を下げるのが精一杯だった。
だが十年が経った今、ホテルに入ってからの客とのやり取りを女たちから聞くことなど、なんてことない。ただの仕事の一環だった。
初仕事から戻ってきた沙都子にも同様だった。
沙都子は事務所に入ると「ただいま戻りました」と丁寧に頭を下げ、客から受け取った紙幣を両手で芳恵に渡した。
芳恵は紙幣を受け取ったまま、問いかけた。
「どうだった?」
沙都子はキョトンと芳恵を見る。
芳恵は重ねて聞いた。
「どんな人だった?」
沙都子の初仕事の相手は常連客だった。
店の女たちからも「遊び方がきれい」と評判の男だ。
いい子が入った、と芳恵が持ちかけて付けた客だった。
「普通の——いい方でした」
沙都子は静かにそう答えると、また頭を下げて部屋を出て行った。
芳恵が拍子抜けするほど、淡々としていた。
(……まあ、経験者だもんね……)
意外とかなり場数を踏んでいるのかもしれない——芳恵はそう判断した。
ところが——。
沙都子が入店して二ヶ月が過ぎ、都電沿線にバラの花が咲く頃、芳恵は青ざめた。
沙都子には三十人以上の客を付けたが、なぜか指名で戻ってくる客が一人もいなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます