闇堕ちイジュ
煙が晴れると、そこには自らの電撃によってローブを失ったイジュの姿が。
あらわになったローブの下は、露出過多のブラックレザー素材ボンテージ風ファッションだった。まるでちびっこSM女王だ。とても子供の着るものではない。明らかに露出狂闇堕ちの影響が見える。
(な、なんてカッコだ……!)
伝馬はドン引きだ。自分だって全裸なのに。まだ気付いていないから仕方がないが、鏡があれば、きっと自分の姿を見てもドン引きしただろう。
元々露出が多い世界ではあるが、伝馬の倫理観だとこれはアウト。ドン引きを通り越して頭痛すら覚える伝馬だった。
「……そんなものも着ちゃダメだよ! 早くこっちにきて着替えよう! もうそんな人と一緒にいちゃダメだ!」
全裸が他人の格好を指摘している。これほど説得力のない言葉はない。
「うえぇぇ~~~~ん! テンマとネリネが酷いよ~~!!」
「イジュ……」
イジュに伝馬の言葉は届かない。イジュは未だ泣きじゃくり、黒いオーラを再びその身にまとい始めた。
「アッハハハハハッ!! 全部アンタたちのせいよ! アタシはちょっと後押ししただけ! ちょっとだけやり方を教えてあげただけ! アンタたちがいなければ、このコの才能はここまで開かなかった! お礼を言うわ! ホントありがとね~~~!!」
露出狂闇堕ちがのけぞって大笑い。サスペンダーのみで支えられた大きな胸が、はちゃめちゃに上下にバウンドする。
そんな面白い様子を眺めている余裕は、今の伝馬とネリネにはない。再びイジュから電撃が放たれたからだ。
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
電マが再び苦もなく打ち消す。伝馬が電マを使うその背後から、ネリネが杖を天へと掲げた。
「フレイムレイン!」
掲げられた杖の先から、火の玉が勢いよく空へと射出された。火の玉は高空で爆発、そこから無数に枝分かれした小さな火の玉が、イジュと露出狂闇堕ちの頭上へと降り注いだ。
「ネリネっ!?」
ネリネの突然の攻撃に驚く伝馬。
直後、いくつもの火の玉がイジュと露出狂闇堕ちへと着弾。連続する爆発音。二人のいた村長の家は一瞬にして火と煙に包まれ倒壊した。
「イジュ!」
「待ちなさい!」
火の元へと駆け出そうとする伝馬をネリネが止めた。
「落ち着いて。闇堕ちは死んでない。依然変わりなく闇の魔力を感じるわ」
その言葉通り、煙が晴れると、露出狂闇堕ちとイジュの姿があらわれた。ほとんど無傷に見える。
「ふぅ~、死ぬかとおもったわ~」
ニヤリと笑う露出狂闇堕ち。ほとんど無傷なのにこの言葉、余裕のあらわれだ。隣のイジュはオーラをまとったまままだ泣き止まない。しかし今の攻撃で、泣き顔が怒り顔へと転じ始めている。
「あらあら、このコを怒らせるなんて怖いもの知らずなのね~。どうなるか知らないわよ~? じゃ、アタシは避難させてもらうわね。じゃ、イジュ、またあとでね」
イジュの肩に触れようとした露出狂の手に電撃が走った。付けていた手袋が焦げ、煙を吐いた。一瞬露出狂闇堕ちはイジュを忌々しげに睨みつけたが、すぐ笑顔になった。
「そう、それでいいのよ。怒り、悲しみ、憎しみ、恨みのままに魔力を使うの。それこそ闇の真髄……。あなたにはその才能があるわ……!」
歪んだ邪悪な笑顔でそう言うと、露出狂闇堕ちは頭上に手を降った。すると一匹のドレイクがどこからともなくあらわれ、彼女はその背に飛び乗った。
「じゃあね~、さよなら~、永遠にね」
飛び去ってゆく露出狂闇堕ち。
ネリネはそれを許さない。
「フレイムアロー!」
ネリネの杖からオレンジの光線が放たれ、ドレイクの翼を焼いた。
「ぐぅッ……!」
呻く露出狂闇堕ち。翼膜を失っては飛べない。露出狂闇堕ちはたった数百メートル先できりもみして墜落した。
「テンマ、私はあの闇堕ちを追うわ。イジュをよろしくね」
「一人で大丈夫?」
「一人だからいいの。あなたのそばにいると、調子が出ないからね」
そう言って、電マを指差すネリネ。電マから発せられる混沌魔力が、付近にいる人間の魔力を乱すせいだ。
「そっか。わかった。気をつけてね」
「あなたこそね。今のイジュはかなり手強いわよ」
「大丈夫、僕は伝説の英雄だからね!」
伝馬はにっこり笑って電マを突き出した。
「ま~~~たイチャイチャしてる~~~~!!!」
そんな二人の様子を見て、イジュが泣いてキレた。電撃が伝馬へ向けて放たれる。
「うおっと!」
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
間一髪、電マで打ち消す。
「テンマ、教育よろしくね」
言って、ネリネは墜落地点へ向かって駆け出す。その背へ向けて電撃を放とうとするイジュへ、
「イジュ、そんなことしちゃダメだ! いつもの優しいイジュへ戻ってくれ!」
伝馬が叫ぶ。イジュが伝馬の方を見た。
(うっ……!)
振り向いたイジュを見て、伝馬は恐怖した。見開かれた目は虚無に暗く、溢れる涙以外に感情が存在しなかった。まるで仮面が泣いているようだった。
「テンマ、あなたを私のものにしたい……良い?」
抑揚の無い問いかけ。冷たさを孕んだその声音にもはやかつてのイジュの面影も無い。高まる闇の魔力がイジュの全てを虚ろにしてしまっていた。
「テンマは私のもの……絶対にそう。誰にも渡さない……絶対に渡さない。イジュのものじゃないとダメなの……イジュはテンマを愛してるから……!!」
言葉と裏腹に、イジュは伝馬へ向けて電撃を放った。電撃は凄まじいが精度に欠く。たとえるならそれは闇雲に連射された散弾のよう。
「くっ!」
紫がかった青白い電撃へ向けて、伝馬は電マを構えた。
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
雷音のごとき電撃の鳴動の中、伝馬の電マが負けじと唸る。電マが襲い来る電撃を受け止め、無力化する。
しかし無力化できるのは電マ近くのものだけだ。大きく外れた電撃は伝馬の周囲へと落ち、地を焦がし、土をえぐった。弾け飛び散る土と石、そして微弱の電流が伝馬を襲う。
「あいてててててて……!!!」
どれもさしたるダメージはない。デコピン程度だ。だがデコピンでも痛いものは痛い。伝馬はひたすらエアガンで四方八方から撃たれてる気分だった。
イジュは手を休めない。ひたすら伝馬へ向け、電撃を放ち続ける。
「やめてくれ、イジュ……!」
「ヤメて欲しい……?」
荒れ狂う電光の中、イジュは小首をかしげて言う。やっぱり表情がない。悪夢のような不気味さ。
「うん、こんなことしちゃいけないんだ! 本来の君はこんな乱暴な女の子じゃない。やんちゃだけど、もっと優しい女の子だったはずだ! 今の君がおかしくなってるのは、全部闇の魔力のせいなんだ。闇の魔力に呑まれるな! 自分を強く持つんだ! 本当の自分を取り戻すんだ!」
イジュはハッとしたように目を見開くと、俯いた。電撃が止んだ。手で顔を覆って肩を震わせている。
「イジュ……わかってくれたんだね?」
と、伝馬が思ったのも束の間だった。
「く、ククク、クフフフ、あは、アッハハアハハハハ……!!!」
顔を上げ、笑いながら伝馬を見据えるイジュ。その顔は酷く歪んでいた。闇の魔力の狂気が、そのまま顔に現れていた。
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