電マは『伝説の魔剣』だった……!?

 胸元モロ見せ女は勝ち誇ったように笑って言う。


 「この本は古代、かつてこの世界を救った異世界よりの勇者が記したものだよ。題は『伝説の魔剣』。内容は――」


 胸モロ女は本を開き、朗々と語った。かなり読み慣れているのだろう、語り口に淀みなく、情熱があった。

 本は、かつて世界を救ったとされる異世界からの勇者の英雄譚と、その『伝説の魔剣』についての解説とで構成されていた。

 勇者については、伝馬にはほとんど関係のない話だったが『伝説の魔剣』のくだりは、初めて聞くはずなのに、既視感があった。本で語られる『伝説の魔剣』の性能と特性は、伝馬の電マとよく似ていたのだ。


 胸元下着ごと丸出し女は途中で本をパタリと閉じた。動作のたびにあらわな胸元が揺れるのだが、伝馬もこのときばかりはそっちに気がいかなかった。それだけ『伝説の魔剣』の話は衝撃的だった。


 「どうです? 電マそれは『伝説の魔剣』に間違いないでしょう?」


 自信満々に、誇らしげに笑う胸部全開女。さすがの伝馬も頭ごなしの否定はできず、まだ半信半疑ではあるが一応、こっくりとうなずいた。


 (まさか本当に『伝説の魔剣』なのかな……?)


 伝馬は手の電マへと視線を落とした。


 (でも……なんだかなぁ……)


 ふぅっと小さくため息をついた。正直がっかりだった。だって電マだから。電マが『伝説の魔剣』だなんて、嬉しい人がいるはずがない。そんなのギャグでしかない。

 なぜなら電マは剣じゃないし、そもそも見た目が全然かっこよくない。丸みを帯びていてツルツルで柔らかくて、強さとはほど遠い印象。むしろ柔和で軟弱な感じ。

 物語やゲームなんかで登場する『伝説の魔剣』は例外なくかっこいい。それは『伝説の魔剣』に相応しくなければならないからだ。


 電マが『伝説の魔剣』じゃ、ただのダジャレだ。『伝説の魔剣』を略せば電マってだけの話だ。

 伝馬的に電マこれが『伝説の魔剣』だなんて、到底受け入れられない。


 「どうしたんですか? 元気なさそうですけど?」


 そんな伝馬の気など知らず、不思議そうに伝馬を見る胸見せ女。


 「いえ、大丈夫です……」


 伝馬は、ははっとそら笑い。さっき電マで全身をマッサージしただけに、元気満々、四肢ビンビンではあるが、男のロマンが傷ついていた。男の傷心を癒せる電マはまだない。


 「あ、牢屋に入れられたんだから、元気ないのも無理ないよね! 今出してあげるからね!」


 下着胸丸出し女は胸の谷間に手を入れると、そこから鍵を取り出した。マロニエには劣るとも、あれだけ大きい胸だと谷間になんでも入れられるらしい。まるで四次元谷間だ。


 「その代わりと言っちゃなんですけど、一つボクのお願い、聞いてくれないかなぁ?」


 女は胸の谷間から鍵をチラ見せしながら、いたずらっぽく笑った。


 (お願いと言いう名の取引だな……)


 察した伝馬、内心で苦笑した。


 「僕にできることなら……」


 「よかったぁ! ボク、ここに来る前に領主様に言っちゃったんだよね。キミのことをかつて世界を救った伝説の英雄だって」


 「……人違いだって言いましたよね?」


 「わかってるわかってる! よく考えたら、警察騎士に追われたり、簡単に捕まってボコボコにされたりするなんて、伝説の英雄らしくないよね。ボクの憧れる伝説の英雄がそんな情けなくて弱っちいわけないもんね!」


 「……」


 誤解は解けたが、なんとなく釈然としない伝馬だった。


 「じゃ、なんでそんなこと、領主様って人に言ったんですか?」


 「キミは伝説の英雄じゃないかもしれないけど、電マそれは『伝説の魔剣』に間違いないと思うんだよ! ずっと憧れて探していたものが見つかったら嬉しいじゃない? 興奮するじゃない? だから、つい嬉しさと興奮のあまり、領主様に『伝説の英雄が再臨した』なんて連絡しちゃってね」


 てへっと舌を出して可愛く笑う胸出し女。可愛さで誤魔化そうとしている。


 「じゃ、間違いだったって連絡すればいいじゃないですか」


 「そうもいかないんだよぅ~。ボクって最近流行りの今をときめく売出し中の新進気鋭で領主様お気に入り、将来有望な天才魔術考古学研究家なわけじゃない? こんなことで領主様をがっかりさせて信用を失うわけにはいかないんだよぉ~。だからね、ちょっとだけでいいからさ、キミに伝説の勇者のフリをしてもらいたいなって思って! ねっ? ねっ? おねが~い!」


 笑みを浮かべつつ、媚びるようなうるませた目で伝馬を見つめる胸元モロ出し女。自分の腕でご自慢の胸を寄せつつ媚態を晒すところ、たしかにやり手だ。


 が、


 「お断りします」


 伝馬はにべもなく断った。五人の姉に囲まれて育った伝馬に、女性の色仕掛けなど通用しない。

 それに、領主様とやらに詳しくなくとも、領主様を騙す行為が危険なことかは、伝馬にも想像はつく。そんな危険な真似はしたくない。


 しかし、


 「ふふふっ」


 意味深に、にやりと胸お姉さんは笑った。


 「な、何がおかしいんです……?」


 「キミはね、ボクのお願いを断れないんだよ。もしキミがボクのお願いを聞かなかった場合、ボクは領主様にキミを『伝説の英雄を騙る不届き者』として通報する。そうすればキミは死刑になるんだよ。キミはそういう立場なの。理解した?」


 死刑。あまりにも重い言葉に、伝馬の顔から色が失われた。


 「こ、この○○○○……!」


 伝馬の口から暴言が飛び出した。温厚で知られるさすがの伝馬も、このやり口には怒り心頭である。


 「ごめんごめん! そんな怒んないでよ。大丈夫、ちゃんとボクのお願いだけ聞いてくれれば悪いようにはしないからさぁ! ねっ?」


 可愛子ぶって伝馬をなだめようとするが、それが逆効果。伝馬はいよいよムカついた。だが悲しいことに、ムカついたところでどうしようもない。


 「わかりました……」


 状況的にも、受け入れるしかなかった。伝馬はうつむきながら小さく言葉を発した。


 「わぁ、よかったぁ! ありがとう! じゃ、さっそく領主様のところへ行こう!」


 女は牢屋の鍵を開けた。


 「あ、変な気起こして逃げたりしたらダメだよ? もし逃げたりしたら、その瞬間からキミはお尋ね者になっちゃうからね! わかった?」


 「わかりました……」


 とにかく今は従うしかない。

 伝馬は胸部限定露出女に連れられ、牢屋を後にした。

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