伝馬、入牢

 「おらっ、そこに入って大人しくしとけ」


 ビキニ女騎士の二人に、まるでゴミでも捨てるように牢屋に放り込まれる伝馬。二人は牢に三つも鍵をかけると、さっさと行ってしまった。


 「いてて……」


 放り込まれた際に打った尻と、痣だらけの顔と身体をさすりつつ、辺りを見回した。

 伝馬は半地下の牢屋の最奥に入れられた。最奥は重罪凶悪犯用の牢屋らしく、鍵のかかる扉を三つも超えた先にある。牢屋は石造りの頑強なやつで、壁や天井にも鉄芯が入っていて、出入り口の面だけが鉄格子になっている。


 ここには現在伝馬一人。採光と換気用の小さな天窓から外の光が僅かに差し込むだけでかなり暗く、じめじめとすえたようなカビ臭さが漂っている。

 僅かな光の中に立って、身体の傷をあらためた。


 (けっこう酷い痣になってるなぁ。何もここまでしなくていいだろう……)


 骨に異常はなさそうだが、打たれた箇所が赤黒く熱を持っている。痕を見ると、ボコボコにされたことを思い出し、身震いした。


 (殺されなかったのが不思議だ……)


 伝馬はあのときのことを思い出した。無抵抗の伝馬に寄ってたかるビキニ鎧姿の女たち……と、書くと、羨ましいようなけしからんような感じだが、実態はただのリンチである。それでもご褒美だ、という奇特な方もおられるだろうが、伝馬の性癖はあくまでノーマル。決してご褒美なんかじゃあない。


 (さて、やりますか……)


 伝馬はズボンに挟んでいた電マを取り出した。

 牢屋に入れられる前、武器になりそうな物や、自殺に使われそうなベルトや紐の類は没収されたのだが、電マは見逃されていた。

 電マは武器に見えないし、自殺にも使えなさそう、ということなのだろう。


 たしかに電マは武器ではないから、ビキニ騎士たちの判断に間違いはない。『伝説の魔剣』とかのたまう胸部限定露出お姉さんもいたが、実態はただのマッサージ機に過ぎないのだから。

 それでも異世界こっちにおいては、伝馬にとって一番の味方であり、身を守る強力な武器でもある。


 (これさえあれば大丈夫かな……)


 伝馬は微笑を浮かべ、電マのスイッチを入れた。



 ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!



 静寂を裂く電マの振動音が牢に響き渡る。今まで静かだっただけにかなり耳につくが、他に入牢者はいないので問題はない。

 伝馬は電マの先を赤黒く腫れ上がった患部へとそっとあてがった。



 ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!



 「お……おっおおおっ……おおおおっおおっおおっ……おおおおおっおおおっ……おっおお……おっおっおおおっおおお……おおおっおっ……!」


 電マと肌の接触点から快楽が全身へと波及し、染み渡る。ただ気持ちがいいだけではなく、当てた部分からみるみるうちに腫れと痛みが嘘のように引いてゆく。

 恍惚とした顔の伝馬、奇妙で気味の悪い喘ぎを漏らしながら、電マに夢中になった。


 しばらくそうしていると、


 「素晴らしいッ………………!!!」


 突然、声が聞こえた。

 伝馬はハッとなって、声の方へと目を向けた。鉄格子の外に女性が一人立っていた。


 「あっ……」


 それはあの胸元下着丸出しお姉さんだった。お姉さんはニコニコ笑っている。

 伝馬は顔を伏せた。腫れは引いたが顔は赤い。電マで惚けている姿を見られるのはなんとなく恥ずかしかったのだ。そして、電マは恥ずかしさまでは癒やしてくれないのだ。


 「やはりボクの目に狂いはなかった!」


 「えっ……」


 「電マそれこそ『伝説の魔剣』!」


 「えぇっ!?」


 「すっとぼけなくてもいいよ。全部わかってるからね。伝説にはこうあるよ、『伝説の魔剣』とは、一切人を傷つけることなく、敵のあらゆる力を無力化し、時には肉体と心を癒やすことができる、人智を超えた神の如き力を持つものなり、とね。キミは警察騎士とボクを一瞬にして見事に倒したけど、ボクも警察騎士も無傷どころか、むしろ体調が良くなったくらいだよ。これって伝説のそのまんまだよね? ふふっ、ネタは上がってるんだよ? さぁ、観念して認めてどうぞ!」


 「えぇ……」


 伝馬にはこの女性が何を言っているのかさっぱりわからない。


 (まだ言ってるよこの人……。どっからどう見ても電マこれは剣じゃないのに、僕もブルットなんとかって勇者でもないのに。可哀想な人なのかな……)


 普段はそういった考えを顔に出さない伝馬だが、このときばかりは大胆胸出し女性のことを、ついつい残念そうな目で見てしまった。


 「な、なんですか!? その目は! ボクを疑ってるんですか!?」


 「あ、いえ、すみません。そんなつもりはないんですけど……」


 そう言って、伝馬は露骨に目線を反らした。


 「まぁいいよ。変な目で見られるのは慣れてるからね!」


 (あ、慣れてるんだ……)


 「ボクは天才だからね! 天才とは、凡人凡俗平々凡々には理解できないものなんだから!」


 ふふんと鼻を鳴らして、なぜか自信満々な胸晒し女。


 (う~ん、かなりイっちゃってるなぁ……)


 それを微妙な微笑で見つめる、内心結構失礼な伝馬。


 「でも、キミならボクの天才性を理解できるよ。いえ、絶対に理解せざるを得ないね! なぜならキミは『伝説の魔剣』の所持者なんだから!」


 「あのぅ、何度も『伝説の魔剣』って言いますけど、電マこれのどこが『伝説の魔剣』なんですか? そもそも剣ですらないじゃないですか」


 「フッ……」


 伝馬の言葉に対して、意味深にニヤッと笑う胸部限定露出女。すると、


 「証拠、持ってるよ……!」


 胸見せ女はそのたわわな谷間に手を突っ込むと、そこから一冊の本を取り出した。


 「じゃじゃ~ん! これ、な~んだ?」


 「あっ……!」


 それはとても古めかしい本だった。分厚く荘厳な感じ。そしてその表紙に描かれているのは、


 まさかの電マ。


 緻密かつ精細なイラストとはとてもいえず、抽象的ではあるが、それはとても電マに似ている。電マ好きで寝るときも電マを手放さず、常に電マとともにある人なら、間違いなく電マにしか見えない。そんな図章だった。

 そこまでとはいかずとも、電マを一日中肌見放さぬ伝馬の目にも、それはどう見ても電マとしか見えなかった。

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