【速報】逃亡中の電マ男、逮捕される

 女性は伝馬より少し年上に見える。身長は伝馬と同じくらい。大きく開かれ、下着ごと晒されて弾む胸元以外に露出はなく、ロングコートと短パン、光沢の黒タイツがよく似合っている。ちょっぴり大人なお姉さんなスタイル。

 胸元露出お姉さんは、伝馬を見て、それから視線を電マへと移すと、


 「やっぱり……」


 小声で神妙に呟くと伝馬をまっすぐに見据え、


 「あなたは『伝説の魔剣』に選ばれし『伝説の勇者』ブルット・フルエール様ですね!?」


 確信に満ちた力強い声で、ほとんど断定的に言った。


 「いえ、違います……」


 即否定する伝馬。もちろん、伝馬は伝説の勇者でもなければブルット・フルエールなんて名前でもない。


 「ふふふ、ご謙遜を! 勇者様、余人はともかく、このボクの目は誤魔化せませんよ!」


 えっへんと、その開かれた胸をドンと張るお姉さん。胸がぷるんと震える。自信と胸の揺れが凄い。


 「いえ、誤魔化したりなんかしてません。本当に僕はブルットなんとかさんじゃないですし、勇者でもないんです。僕は新堂伝馬といいまして、ただの人です」


 「いいえ! ボクはちゃ~んと知ってます! あなたが異世界からやってきたことも、この世界を救う『伝説の魔剣』に選ばれし『伝説の勇者』だってこともね! ぜ~んぶわかってるんですよ!」


 「異世界から来たってところはあってますけど、でもそれ以外は全然あってませんよ。。本当に『伝説の勇者』でもなんでもないんです。『伝説の魔剣』なんてものも持ってないですし」


 すると、胸元涼しげお姉さんはふふんと笑って、


 「じゃあ、これはなんですか?」


 自信満々に伝馬の手を指差す。動かざる証拠とでもいうように。

 その手に握られているのは電マ。


 「これは……何なんでしょうか……?」


 くちごもる。所持しておきながら電マのことは何も知らない伝馬なのだ。


 「強情ですね。いいでしょう、ではボクが申し上げましょう! これこそが『伝説の魔剣』! かつてこの世界を救った『伝説の勇者』の証明! さぁ、証明は終わりました! 観念してください!」


 興奮した面持ちと口ぶりで言う、胸元おっぴろげお姉さん。鼻息荒く、顔を赤らめて伝馬を見つめる。

 逆に、伝馬は冷めている。彼女の言う証明がなんの証明にもなっていなかったし、


 (え、電マこれが『伝説の魔剣』? どこが魔剣? そもそも剣じゃないし……)


 電マと『伝説の魔剣』、似ても似つかぬ物を結びつけるお義姉さんに、伝馬は思わず、


 「うっ、くくっ、うふふ……」


 声を出して笑ってしまった。電マが『伝説の魔剣』だなんて、誰だって笑ってしまう。お姉さんが真剣なだけに余計面白いし、真剣そうに見えるだけに笑っちゃいけない、そう思えば思うほど面白かった。


 「な、なにがおかしいんです!?」


 お姉さん、広げられた胸を震わせて怒った。さきほどの興奮がそのまま怒りに転化してしまったらしい。いきなり伝馬の手を取り、その手の上から電マを握ると、


 「ボクはちゃんと『伝説の魔剣』の使い方だって知ってるんですから! 証明してみせます!」


 そう叫ぶとお姉さん、突然電マのスイッチを入れた。


 「あっ!」


 と、伝馬が思ったときにはもう遅い。



 ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!



 電マは唸りを上げ、振動を開始。当然触れているお姉さんは、


 「あびゃぁびゃびゃぁびゃびゃぁびゃびゃぁ~~~~~~~んんんん………………」


 撃沈。


 「ああっ! 言わんこっちゃない!」


 倒れるのを、慌てて抱きとめる伝馬。


 「だ、大丈夫ですか……?」


 「うみゅみゅ……」


 大丈夫じゃなさそうだ。よだれをたらし、身体をピクピクさせ、しかし恍惚に幸せそうにぶっ倒れている。


 「こりゃダメだ……」


 伝馬はため息を漏らした。勝手知らない他人の家で、どうしようかと思案していると外から、


 「なんださっきの悲鳴は!?」


 「女性の声……あっちから聞こえたぞ!」


 「まさか、あのクソ野郎、女性を手籠にしているんじゃ……!」


 「あの家だ! 早く! 急げッ!!」


 ビキニ騎士たちの叫び声と馬蹄の響きが聞こえてきた。どんどん近づいてくる。


 (や、ヤバいっ!)


 逃げなければ。だが、恍惚にぶっ倒れている女性を置いて行くのは人道にもとる。


 (連れて行くしかないか!? でも……)


 伝馬は抱えてみる。重い。意識のない人ほど運びにくいものはない。なんとかドアのところまで来たところで、突然ドアが開いた。


 そこには先程お世話になったビキニ騎士のお姉さん方。皆様厳しい顔で勢ぞろい。


 「き、貴様……!」


 お姉様方の目が伝馬の抱える女性へと向いた次の瞬間、その目が怒りにつり上がった。


 「その手の女性は何だ!? そこの女性に何をした!? 言えないか!? 言えないような変態的行為をしたのか!?」


 「この変態婦女暴行クソ野郎ッ!」


 「捕えろ! 逮捕だ! 確保しろ!」


 怒りの叫びとともに、伝馬へと飛びかかるビキニ騎士たち。


 「うぎゃー」


 両手がふさがっていた伝馬は電マを取ることもできず、ボッコボコにされ、為す術もなくお縄になってしまった。


「公務執行妨害罪、傷害罪、騒乱罪、略取誘拐罪、浮浪罪、逃亡罪、婦女暴行等々、その他諸々の平和に対する罪科によりお前を逮捕する」


 ビキニ騎士のリーダーは昂然と伝馬に言い渡した。


 (それって、ボコボコにして逮捕する前に言う事ですよね……)


 と、伝馬は思ったが、口には出さなかった。反駁はんぱくする気力も体力もないし、口ごたえすると後が怖いのもわかっていた。

 哀れ伝馬、顔や身体に痣をたんまりと頂戴し、縄をかけられ、牢屋へと連行されてしまった。

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