電マを持った男が逃走中
電マ男は駆けた。ビキニ騎士から逃げるために必死で走った。
路地に切れ込み、隣の大通りに出て、人混みに紛れた。
すぐにビキニ騎士たちがやってきて、人混みを馬で文字通り蹴散らしてゆく。
ビキニ騎士の傲慢で乱暴な振る舞いに、群衆は逃げ惑う。馬にはねられ、蹴られる人もいる。阿鼻叫喚の地獄絵図。
(正気か……!?)
伝馬はゾッとして絶句。一般ピーポーを平気で巻き添えにする行動とそれを是とする思考、そうまでして捕まえようとする執念が怖かった。
(僕のせいで関係ない人たちがひどい目に遭ってる……! かといって大人しく捕まるわけにもいかない。関係ない人たちでさえあんなことになってるんだ。掴まったらどんな目に遭わされるか……!)
考えただけで恐ろしい。
伝馬は他人を巻き込まないため、人混みではなく、人の少なく、かつ馬の入りにくそうな狭い路地に限定して逃げることにした。
走って走って、人二人がすれ違うのもやっとな路地に入り込んだとき、
「ふぅ……」
一息ついた。さすがにここまでは馬で入ってこないだろう、そう考えた時期が伝馬にもありました。
「ハイハイどうどう! ハイどうどう!」
背後から聞こえてくる馬蹄とビキニ騎士の声。
そして、
「なッ……!?」
振り向くと、ビキニ騎士の一人が細い路地へと馬をねじ込んできた。無理矢理だ。ぎゅうぎゅうのぱんぱんで、馬もかなり苦しいらく、見開かれた目は充血し、口から舌がベロンと飛び出している。
「男! 大人しく捕まれ!」
ビキニ騎士はその背から杖を取ると、伝馬へとかざし、
「アイスボルト!」
魔術を使った。杖先から氷の矢を伝馬へ向けて発射した。
伝馬は慌ててかがんでかわした。背後で炸裂音が鳴り、目を向けると地面に細く深い穴が穿たれていた。
(捕まえる気ないでしょ!? 当たったら死ぬぞ!)
伝馬は半泣きになりながら、踵を返して逃走を再開。
さすがにぎゅうぎゅうだから馬の足も遅い。だから伝馬は一度振り切ったのだが、
(あれ、あっちからも……こっちからも? ひょっとして……)
四方八方から馬蹄が響いてくる。狭い路地の壁のあちこちに反響している。ビキニ騎士の追撃は、後ろからだけではないということ。
(ひょっとして、囲まれちゃった……!?)
袋の鼠ならぬ袋に電マ――もとい袋の電マ男。絶体絶命の大ピンチを悟り、顔から血の気が失せる。
(どうするどうするどうするどうするどうする………………)
伝馬は考えた。考えたつもりだった。追い詰められた精神状態で頭に思い浮かぶのは『どうする』の言葉だけ。もはや思考はない。ただの混乱だった。
後ろからゆっくりと、しかし確実に騎士が近づいてくる。伝馬はハッとなって走り出した。すると今度は前からも馬の足音が。
前門のビキニ騎士、後門のビキニ騎士。羨ましいようで実のところ全然羨ましくないサンドイッチプレイ。プレイのエンディングは本当の意味での昇天が待っている。
と、そのとき、
「こっち、こっち」
背後から女の子の声。鈴を転がすような可愛らしい声なのに、伝馬は大げさにびっくりした。追い詰められる者の悲しい性だ。
振り向いてみると伝馬のすぐ後ろ、裏路地の小さな木窓から手だけが出て、手招きしている。
「こっち、こっち」
細くしなやかな、おそらく女性と思われる手が伝馬を呼んでいる。
(あ、怪しい……!)
伝馬は躊躇した。知らない人についていってはいけないと、幼い頃から五人の姉にみっちりしっかり教育されている。
逡巡の間にも、背後から迫る馬蹄の音。
(ためらってる場合じゃない!)
伝馬、意を決して開いている木窓へと、サーカスの火の輪くぐりの要領で飛び込んだ。
ところが、
「うおゥっ……!」
木窓に挟まった。すっぽりと。ぴったりと。そして意外にがっちりと。肩がちょうどいい具合にハマってしまった。
「む!? むむむっ、むおおおおぉぉ~~~~!!!」
頭を振り振り、身体をよじよじ、なんとか左肩をねじ込む。今度は右肩をねじ込もうとするが、どうやったって入らない。入るスペースがもうない。
当然だ。換気用の小窓は、人が出入りするように作られていないのだから。
(僕のバカ! アホ! マヌケ! いくら切羽詰まったからって、こんな小さな穴に飛び込むなんて……! うぅ、穴があったら入りたい……あ、入った結果がこれだった……)
嘆く伝馬。迫る馬蹄。絶体絶命の大ピンチ。
(うぅ、固い! ばっちりハマっちゃってる! こんなに固くハマっちゃうなんて……ん、固い? 固いってことは……そうだ! 固いなら、
伝馬、閃いた。
(
秘策、それは電マ。
つい先日、高所から落下を繰り返しすという前代未聞の災難に遭ったとき、電マで地面を柔らかくし、事なきを得た。そのことを今思い出した。
早速実行。伝馬は電マのスイッチを入れた。
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
唸り震える電マを木窓に押し当てた。
次の瞬間、木窓がくにゃくにゃっと柔らかく波打った。木窓から固さが失われてゆく。触れればぶよぶよして弾力と伸縮性がある。まるでゴムのような触感。
硬くなった筋肉の凝りをほぐすように、電マは木窓の硬さをほぐしてしまった。
(思った通りだ! これで通れる!)
あとは簡単だ。伝馬は柔らかくなった木窓を押し広げ、ぬるりと中へ入っていった。
無事入室。木窓が閉じられた。その直後、外を、ドヤドヤと馬蹄が通り過ぎるのが聞こえてきた。間一髪だった。
(た、助かった……)
伝馬、ホッと胸をなでおろしつつ辺りを見回すと、
(真っ暗だ……)
木窓が閉じられたせいで何も見えない。光のない真っ暗闇。
「あの……」
と暗闇に呼びかけつつ、伝馬はおずおずと闇の中へと手を伸ばした。すると、
ポヨン。
とっても柔らかいものに触れた。
「きゃっ」
同時に触れた先から小さな悲鳴が起こった。
「ご、ごめんなさい!」
伝馬もびっくり。あわてて伸ばした手を引きつつ謝罪した。
「いえいえ、大丈夫です。今灯りをつけますね。ライト!」
『ライト』は灯りの魔術だ。やや遠く部屋の隅で灯りが点った。机の上の小さなランプが琥珀色の暖かな光を放ち、部屋を照らす。
明るくなったことで、伝馬は何に触れたのかわかった。
「あっ……」
目の前には、ご立派な胸元をこれでもかとくつろげられた女性の姿が!
(さっき触ってしまったのは……)
さっき触れた、とっても柔らかかったものの正体を見て、知って、伝馬は赤面した。
そんな伝馬を見て、女性はくすっと笑った。笑うと、下着ごとほっぽりだされた胸がポヨンポヨンと弾んだ。
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