第四章 伝説の魔剣……?

ビキニポリス

 伝馬は何が起こったのかわからず、辺りをきょろきょろした。


 「あいつだ! あの男が、男なのにたった一人で喧嘩を止めた!」


 「しかも、ほんの一瞬で!」


 「爆発を間近でくらったはずなのに、ピンピンしてる! 一体どんなシールドを張ったのかしら?」


 「いや、彼は爆風を防いだだけじゃない、爆風を減衰させ、抑え込んだ! 私の計算だと、彼がいなければ被害は甚大なものになっていたはず……!」


 「私たちは、あの男に救われたってこと!?」


 「あの男が、彼こそが我々の救ってくれた!」


 「救い神だ!」


 「英雄だ!」


 「スゴい! 男のくせに凄すぎる!」


 「しかもちょっとイケメンじゃない? 強い上にイケメンってイケてるじゃん!」


 「ヤッバー! チョーイイ! シビれるゥ! 憧れるゥ!」


 興奮した群衆は、次第に伝馬を取り囲みだした。英雄を間近で見て、肌で感じて、あわよくば触れたい、ということらしい。


 「囲め~囲め~」

 「崇め~崇め~」

 「奉れ~奉れ~」


 「ワーワー。ヤーヤー」


 「ワッショイワッショイ!」

 「ラッショイラッショイ!」

 「ヤッショイヤッショイ!」

 「ハッケヨイハッケヨイ!」


 興奮が興奮を呼ぶ。いつの間にかお祭り騒ぎ。踊ったり歌ったり騒いだり、もう大変な喧騒。


 (え、なにこれ? 怖い。なにがおこってるの?)


 伝馬は完全にビビっていた。褒め称えられているとは思わなかった。ヤバい儀式に祭り上げられた供物の気分だった。


 そこへ、


 ピリッ、ピリッ、ピリッ、ピピピピリリーーーーッッッ!!!!


 警笛の音が激しく鳴り響いた。続いて馬蹄が響く。伝馬へと迫ってくる。


 モーセが海を割ったように、警笛と馬の音は伝馬を囲んでいた群衆の波を真っ二つにした。

 開かれた道を威風堂々とやってくる三騎の騎士。三人とも女性だ。鹿のような角の生えた馬のような生き物に乗って、かっぽかっぽと現れた。

 三騎は背にそれぞれ違った形の杖を負い、お揃いの鎧に身を包んでいる。


 その姿を見た伝馬、


 (えぇっ……!?)


 驚愕仰天。三騎士お揃いの鎧はなんとビキニアーマーだった。しかも三人ともスタイル抜群。

 ビキニアーマー、それは胸と股間という大事なところの防御に重点を置き、逆にそれ以外は肌を露出させる水着様のイカレた装備である。

 守る気があるのか無いのか、戦いたいのか誘惑したいのかわからないそのスタイルは、倒錯的かつ背徳的である。一部の男性はそのアンビバレンツな存在に魅了され、ロマンと夢を抱くのだとか。


 そんなマニア御用達しの騎士をリアルに目撃した伝馬、同世代の一般男子高校生よりは比較的女性に慣れているとはいえ、これにはさすがに驚きを禁じえない。ドラゴンを初めて見たときと同じくらい衝撃を受けていた。


 (うむむ、RPGロールプレイングゲームとかで見たことはあるけど……)


 リアルのビキニアーマーの迫力は凄い。馬上に揺れる胸、陽の光を浴びて眩しい肌、それがゲームでもアニメでもなく、リアルとしてそこに存在する。思春期男子にとっては過剰センシティブである。伝馬は顔を赤くして目を伏せた。

 ビキニアーマー三騎士の登場に、辺りは急に静まり返った。さっきまでの熱狂が嘘のように冷え冷えとしていた。


 群衆は潮が引くようにこの場からそそくさと離れ、遠巻きに伝馬たちを見守る。


 「この騒ぎの元凶は貴様だな?」


 先頭の騎士が、伝馬の目の前に鹿馬を進め、傲慢たっぷりな口ぶりで言った。


 「はい……」


 声をかけられ、顔をあげるとそこには間近のビキニアーマー。いよいよ顔が真っ赤になる伝馬。


 (とても見れないよ……)


 直視できない。ビキニーアーマーは青少年には刺激が強すぎる。しかし話すときには相手を見て話せと姉から育てられている。仕方ないから上目遣いでチラッと見た。


 そのとき、


「逮捕する」


 ビキニ騎士、目にもとまらぬ早業で、馬上から伝馬へと縄をかけようとした。


 「うわっ!?」


 反射的にそれをかわす伝馬。


 「き、貴様! 手向かいするつもりか!?」


 「そ、そんなつもりはないですけど! いきなり縄が飛んできたから避けただけで――」


 言ってる途中でまた縄が飛んできた。伝馬はそれもかわす。ドラゴンや『闇堕ち』と戦った経験のおかげか、意外と冷静に動けてしまった。


 それが騎士たちの逆鱗に触れてしまった。


 「こいつ! 神妙にしろ! 大人しくお縄につけ!」


 「な、なんで!?」


 「なんでもだ! それが我らハクトウ警察騎士団の責務であり義務であり、存在理由なのだ!」


 「えぇっ!? そんなめちゃくちゃなことってあり!?」


 本当にめちゃくちゃだ。ハクトウ警察騎士団、それは横暴で傲慢で、会話が通じないタイプの国家権力だ。


 「逮捕する!」


 「僕、何もしてないんですけど!?」


 「言い訳は牢に繋いだ後でたっぷり聞かせてもらう!」


 三騎のうち、二人が鹿馬から降り、


 「「ファスト!」」


 同時に魔術を使った。青い光に包まれた二人は凄まじい速さで伝馬の両脇へと接近した。


 (は、速い……!)


 『ファスト』それはわずかな瞬間のみ、肉体を超加速させる魔術。

 神速の魔術は伝馬の目に『ブレ』としか写らなかった。


 「捉えた!」


 「覚悟しろ!」


 伝馬、二人の女騎士に、両脇からがっちりと掴まれてしまった。


 ところが、その手にはまだスイッチの入った電マが!


 右手側の女騎士はそれに触れてしまった。



 ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!



 「きゃゃゃうううううういいいぃぃぃぃんんんんんん…………………!!!」


 いつも通り、嬌声を上げてひっくり返ってしまった。


 「き、貴様、一体……!?」


 同僚が倒れたのを見て、左手側の女騎士は目を丸くした。


 「いや、これは、不可抗力です! というか、悪いのはそっちじゃないですか! いきなりこんな乱暴なことするから!」


 「なにっ! こちらが悪いだと!? 男ごときがなんという暴言だ! 聞き捨てならん! この場で成敗してくれる!」


 伝馬からさっと離れ、背の杖を取り出した。

 今までの経験からも、これが攻撃魔術の準備であることは、伝馬にもわかりきっている。

 なので先手を打った。


 「えいっ」


 電マと杖なら電マの方が速い。



 ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!



 「きゅううぅぅぅぅわわわぁぁぁぁぁぁ~~~~んんんん………………!!!」


 一丁上がり。電マは杖より強し。


 アヘ顔晒してほんのり桜色に染まった肉体をピクつかせて横たわるビキニアーマー騎士二人。


 「わーわー」


 「すごーい」


 「つよーい」


 「あの警察騎士を一瞬で!」


 「ヤバイぞ!」


 「ハンパないぞ!」


 「きゃーきゃー」


 「よいやさよいやさ」


 伝馬の圧倒的な強さに再び沸き立つ群衆。横暴で傲慢な権力が倒される様は極上のカタルシス。

 オーディエンスが盛り上がると、伝馬も気持ちがいい。観客たちの歓声を一身に受け、伝馬もついノってきた。


 「僕を捕らえるなんて言ってたけど? 大丈夫? できそう?」


 残り一人の女騎士に向け、電マの先を突きつける伝馬。カッコつけすぎ、調子に乗りすぎだ。


 「き、貴様……!」


 ぐぬぬ、と口唇を噛む女騎士。しかしさっきまでの威勢はない。その証拠に、背の杖を取ろうとしない。


 「尻尾巻いて逃げるなら、そのまま見逃してあげるけど? 無駄な争いはしたくないんでね」


 伝馬らしくない口ぶり。気分はヒーローなんだろうか。熱狂は人を変えるということか。


 「き、き、貴様……!!」


 ぐぬぬぬぬ、と顔を真赤にする女騎士。

 と、その後ろからまたしても馬蹄が響いてきた。今度は数が多い。馬の足音が無数に重なっている。


 (あ、ら……)


 伝馬は見た。砂塵をあげてやってくる、やはりお揃いの鎧を着たビキニアーマー女騎士たち。その数、


 (一……五……九……)


 そこから先を数えるのは止めた。数える意味がないことを察した。


 (さすがにこの数は無理じゃない……?)


 調子にノリまくっていた伝馬はもはや存在いない。

 そして、さっきまでぐぬぬしていた女騎士ももういなかった。

 女騎士は余裕を取り戻し、伝馬は逆に青い顔。


 形勢は完全に逆転した。


 熱狂が覚め、冷静を取り戻した伝馬の行動は早かった。伝馬は、


 (うん、逃げよッ!)


 電マのスイッチを切り、踵を返し、脱兎のごとく駆け出した。


 「待てコラァー!」


 「調子乗んなガキィー!」


 「舐めんなカスゥー!」


 「逃げんなボケェー!」


 「殺すぞアホォー!」


 「覚悟しろクソがぁー!」


 怒りに目をつり上がらせ、ビキニ女騎士たちが後を追ってきた。罵詈雑言から、伝馬への怒りのほどがよくわかる。


 (逃げても逃げなくても、どっちにしろ殺すつもりのくせに……!)


 半泣きになりながら、伝馬は街を疾走する。もう二度と調子に乗らないことを、その心に固く誓いながら。

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