電マ少年、幼女領主との謁見

 ところ変わって領主の館。謁見の間。伝馬はそこにいた。隣には胸元全開お姉さん。二人は領主の前で跪いている。


 「面をあげよ」


 声がかけられ、言われるままに顔を上げた。そこには、


 (えっ、子供……?)


 約十メートルほど離れた荘重華美な玉座には、不似合いなほど小さな女の子がそこにいた。豪華絢爛かつシックでフォーマルな衣装を着た、というより着せられたお人形さんのような女の子。丸いショートカットの栗毛の下には無表情かつ整った顔がまっすぐ伝馬を見つめ、ちんまりと座っている。


 その横に長身ダイナマイトボディのお姉さんが立っている。

 さっきの声はダイナマイトの方だった。毛量の多いふわっとした髪はぱっくり開かれた大きな胸の下まで垂れている。細くくびれた腰の直下はまた大きく膨らみ、そこから伸びた足が、チャイナドレス風の鋭いスリットのあるスカートからはみ出している。いわゆるボン・キュッ・ボン。隣の女の子とは対照的な、悩殺ダイナマイトな素晴らしい肉体を余すことなく大胆に強調した超過激で攻撃的なスタイルである。


 (親娘……かな?)


 伝馬の目にはそう映った。それくらいの年の差に見えた。女の子は七、八歳、ダイナマイトお姉さんは三十そこそこか。


 (あっ……)


 女の子の方と目が合った。女の子は恥ずかしそうに顔を伏せ、目をそらした。人見知りなのかひどく不快げな様子。

 隣のダイナマイトお姉さんが女の子の口元に、ほんの一瞬耳を寄せたかと思うと、伝馬の方へ向き、


 「よくぞ参った、伝説の勇者ブルット・フルエール。余はこの血の領主にして伯爵、トルムニア・クラウムナスリトである。と、トルムニア様は申しておられる」


 と、声高に言った。権威と権力を笠に着た高圧的な言い方だったが、そんなことよりも伝馬は、


 (いや、絶対にそんなこと言ってないでしょ。ってか一言も喋ってなかったし……)


 内心でツッコミ入れた。

 その証拠に、女の子はぶすっと不機嫌そうな顔をして、口を真一文字に結んだまま、さっきから一度も口を開いていない。

 また、ダイナマイトボディが、ほんのわずかに女の子の口元に耳を寄せ、そして顔を上げ、


 「トルムニア様はこう申しておられる。しかしながら余はお前が伝説の勇者であることを未だ信じておらぬ。そこにいる考古学者のシオンから聞いていた話では、伝説の勇者ブルット・フルエールは銀のような艶のある白髪の、長身痩躯、容姿端麗、才色兼備の貴公子然とした、柔和であり男らしく、勇気と優しさを併せ持った、超絶イケメン男子と聞いていたのだが、本物は少々違うようだな」


 少々なんてもんじゃない。ダイナマイトお姉さんが語るブルット・フルエールの特徴と伝馬には、一つも類似点がない。


 (おい! ブルット・フルエールの特徴、僕とは全然違うじゃないか! 一体どうするんだ!?)


 伝馬は苦虫を噛み潰したような顔で隣の胸元おっぴろげ――もといシオンをにらんだ。

 この場で伝馬が発言することは許されていない。とびっきりの貴人である領主トルムニアの前で、伝馬のようなどこの馬の骨ともしれない伝説の勇者 (偽)が口を開くことなど許されないのだ。

 伝馬の怒りの目線に気付いたシオン、にこやかに伝馬に微笑んだ。


 (な~んだ、ちゃんとそこは計算済みってことか……)


 と、伝馬、胸をなでおろしたのも束の間、次の瞬間、シオンの額から汗が滝のように流れ出した。よく見れば、その微笑みは張りつき固まり引きつっている。


 (えぇっ!? まさかのノープラン!?)


 自称天才のシオンのことだから、なにか手があるのかと思っていたが、その顔を見るに、どうやらヤバいらしい。これだから自称天才は怖いのだ。


 「シオン、これはどういうことなのか、説明を求める」


 ダイナマイトボディが詰める。今度はトルムニアに耳を寄せなかった。領主の言葉の代弁という体裁は捨てたらしい。面倒くさくなったのかもしれない。

 シオンは冷や汗をかいていた。伝馬の目から見ても気の毒なほどに大量の汗。だが、ここで何も言わないわけにはいかない。肩をフルフル、足をガクガク、ゆっくりと立ち上がり、青ざめた顔の焦点の合わない目でなんとかダイナマイトボディを見据えると、


 「し、し、し、証拠、証拠が、あり、あります……!」


 シオンは声をめちゃめちゃ震わせて言った。伝馬の目にも耳にも、シオンの緊張は明らかだ。


 (大丈夫かな? いや、大丈夫じゃなさそうだなぁ。あぁ、お腹が痛くなってきた……)


 緊張が伝馬にも伝染する。


 「証拠? 見せてみろ」


 ダイナマイトの言葉に、青い顔でうなずくシオン。緊張の面持ちを伝馬へと向け、手で伝馬に立つよう促した。


 (どうするんだろ……?)


 とりあえず言われたとおり立ち上がる。

 伝馬に背を向け、歩き出すシオン。十メートルあるかないかの距離で、振り返った。伝馬へ向けて手をかざす。


 (それって、まさか……!)


 嫌な予感がし、本能的に腰の電マへと手をやる伝馬。直後、


 「アイスボルト!」


 シオン、突然魔術を使った。てのひらから高速で放たれるこぶし大の尖った氷弾。まともに当たれば大怪我は免れない。下手すりゃ死ぬ。


 (だぁっ!? やっぱり……!)


 急いで電マを抜く伝馬。同時にスイッチをいれる。

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