電マ無双
奇跡の生還に放心している場合じゃなかった。
ドラゴンが来た。伝馬の頭上はるか高空を旋回している。
ドラゴンは伝馬というちょうど良さげな獲物を見つけると一気に急降下、伝馬の背後へ降り立った。
着地の地響きで伝馬はハッとなった。
(そうだ! 呆けてる場合じゃない……!)
正気に戻った伝馬、すっと立ち上がって背後を振り返った。そこにはもうドラゴンが大口を開け、牙をむいて迫ってきている。
伝馬は慌てない。ビビらない。ドラゴンと対峙するのはこれで三度目。いい加減慣れてきていた。
それに、さっきのイジュの魔術による『連続爆発大ジャンプ』の恐怖に比べれば、この程度どーってことない。
迫りくるドラゴンを前に、伝馬はあくまでも冷静に電マを構えた。
そして、ドラゴンの顎が伝馬を捉えようとした瞬間、
「よっと」
伝馬は屈んでかわすと、その顎に向かって電マを突き立てた。
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
電マの振動がドラゴンを襲う!
「ぐぅぅうううぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉ~~~んん……」
ドラゴンは気持ちよさそうな声を上げ、くにゃくにゃと身を捩らせたかと思うと、ばったりとその場に倒れた。
「一撃必殺……!」
ふっと笑い、呟き、くるりと踵を返す。今の伝馬には、あっという間にドラゴンを倒し、さらにカッコつける余裕さえあった。
そんな伝馬の元へ、遠くから村人が駆け集まってきた。全員武装した女性だ。ここへ降り立ったドラゴンを倒すためにやってきたのだろう。
男の姿は見えない。
ぶっ倒れ、眠りこけているドラゴンを見て、村人たちは驚愕した。
「テンマ、まさか君がやったのか!?」
集まってきた村人の一人が聞いた。伝馬は頷いた。
どよめきが起こった。まさかドラゴンをたった一人で倒すなど、異世界の常識では考えられない。しかも男が。
村人たちは沸いた。
「凄い!」
「かっこいい!」
「チョーイケてる!」
「前々から只者じゃないとは思っていたけど、ここまでとは思わなかった!」
「どうやらマロニエ様を倒したというあの噂も、まんざら嘘でもないようね!」
「さすが私たちのテンマ!」
「ヨウムの村の救い神!」
「生ける伝説テンマ様!」
「イケメン!」
「ぃよっ、色男!」
褒め殺しでとても気分がいい伝馬、照れまくり、ニヤニヤしまくり。
と、そうしていると遠くからドラゴンの唸りが聞こえてきた。全員の目が一斉にそこへ向く。三体のドラゴンが村の中央で激闘を繰り広げていた。
「あ! いい気分になってる場合じゃないッ!!!」
正気に戻った伝馬、電マ片手に次の戦場へと駆ける。
「待って~テンマ~! あたしたちも一緒に行く~!」
数多の女性陣を従えて、電マ男は村を駆ける。目指すは村中央、討ち果たすべきドラゴンはそこにあり。
電マ御一行はほどなく到着。そこには元気に、たった一人で三体のドラゴンを相手にするマロニエと、その周囲に大勢の傷ついた村人たちの姿が。
マロニエも苦戦を強いられている。その顔が苦しげに歪んでいるのが見えた。
(マロニエさんが危ない!)
臆することなく、ドラゴン暴れる戦場へと飛び込む伝馬。
「マロニエさん、今助けます!」
叫んで、手近なドラゴンに突っ込んでいった。その一体は地上に立ち、マロニエの背後から火炎の息を吹きかけていた。
伝馬はそれに、大胆にまっしぐらに駆けて近づくと、
「えいっ」
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
その尻尾の先にちょんと電マを当てた。それで充分だった。ドラゴンは瞬間的に身体をぷるぷるさせ、変な声を上げてゴロンと寝転んだ。
あっという間に、まず一体。
次の一体は低空を行き交い、尻尾と火炎の息でマロニエを攻め立てていた。伝馬はタイミングを見てそっと近づき、マロニエのそばに立った。
「マロニエさん、僕にまかせてください!」
伝馬、マロニエとドラゴンの間に立ちふさがった。
ドラゴンの狙いが伝馬へと移った。その口から火の玉が噴き出し、伝馬へと放たれた。
伝馬は迫りくる火の玉に向かって電マをかざした。
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
火の玉は電マに触れると、たちどころに雲散霧消した。電マの前には火の玉などただの無駄玉だ。
それでもドラゴンは執拗に火の玉を撃つ。伝馬はそれを全て消し去った。
自慢の火の玉が破られ、怒り狂ったドラゴンの次の手は尻尾による攻撃だった。飛び上がり、空中から尻尾をムチのようにしならせ、伝馬の頭上から叩きつけた。
(尻尾を出したな!)
このときを待っていた伝馬、防から攻に転じるときも、やはり役に立つのが攻防一体の電マ。
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
激しい風切り音を轟かすドラゴンの尾を、伝馬は電マで受け止めた。
尻尾は物理法則を無視したようにピタリと静止した。伝馬の手に衝撃はない。衝撃は電マが完全に殺している。あるのは微妙な振動のみ。
尾が力なくだらんと下がったかと思うと、ドラゴンはむにゃむにゃいってゆっくり墜落、そのまま寝息を立て始めた。
「相変わらずすごいですね、テンマ……!」
伝馬の鮮やかな戦いぶりに、後ろのマロニエが感嘆して言った。
「すごいのは僕じゃなくて
伝馬ははにかんだ。戦いの最中に笑えるほど余裕がある。
この短期間の連戦連勝で、伝馬は急成長していた。既に勇者の風格を備えつつある。
これも電マのおかげだろう。優れた道具は、優れた遣い手を育てるものだ。
「残りは一体か……!」
上空を睨む伝馬。最後の一体となったドラゴンは、伝馬の戦い振りと、次々と倒される仲間を見て警戒心を強めたのか、空中から降りてくる気配がない。伝馬らの様子を窺いつつ、空を右往左往している。
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