モテモテ電マ番長! 異世界生活順調編
異世界に来てから一ヶ月が経った。伝馬はもうすっかり村に馴染んでいた。言葉が通じる分、海外よりも馴染みやすいのかもしれない。
アラカシのおかげもあった。あの日、伝馬の電マにヤられ(変な意味はない)、くったりととろかされ(これも変な意味はない)、しばらく経ってから回復すると、すぐに取り巻きを連れて伝馬の元へやってきて、
「ダンシコウコウセイイ殿、俺を、舎弟にしてくださいっ!」
深々とひざまずき、伝馬の下につくことを願いでた。
(ダンシコウコウセイイって……?)
伝馬、前に名乗った男子高校生が変な風に伝わってしまっていることがわからなかった。アラカシは男子高校生を征夷大将軍的なものと勘違いしているらしい。
「舎弟なんていいよ」
遠慮する伝馬。しかし食い下がるアラカシ。
「そんなっ! 先程の失礼、まだお怒りですか!? あっ、みそぎですか!? けじめですか!? わかりました! なら、一指をもって貴方様に誠心誠意の謝罪と覚悟をお見せしましょう……!」
アラカシ、いきなり懐から肉厚の短刀を取り出し、指にあてがおうとした。893流だ。周りの取り巻きも慌ててアラカシを羽交い締めにする。
だが、大男だけあってアラカシを止めるのは至難の技。
「わっ、バカっ、よせっ!」
伝馬も慌てて電マを起動、アラカシにアタック。
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
「あばばばばばばああばばばばばあばばばばばばばばばばあばばあばあばあばレンジャィッ!!」
奇声を上げ、アラカシ撃沈。雨上がりの道路に落ちている、水を吸ってぶくぶくになった湿布みたいにぐでんとなった。とりあえず事なきを得た。
しかしその数時間後、再びアラカシがやってきて、同じように舎弟となることを願い出た。
「お願いします。誠意が見たいとあらば……」
アラカシは懐の短刀をチラつかせた。断られたら誠意と称して、いつでも指を切るつもりらしい。
(これじゃ脅迫だよ……)
893な手口、もしくはメンヘラ。さすがの伝馬もドン引き閉口した。
どうしてそんなに舎弟になりたいのか全然わからないが、その一途な思いだけは嫌というほど伝わった。これ以上断ってしつこくされるのも、メンヘラ893度がエスカレートしても困るので、渋々、アラカシを舎弟とすることにした。
それから伝馬がどこに行くにも、アラカシが付いてくるようになった。伝馬はアラカシを舎弟とはみなさず、ただの友達として接したが、アラカシ本人はそんなことには気付かず、舎弟として常に振る舞っている。
村の番長であるアラカシが舎弟となったことで、村の男連中の伝馬を見る目が変わった。みんな伝馬に丁寧に接するようになった。もし伝馬をぞんざいに扱おうなら、後ろのアラカシが黙っていないからだ。
怪我の功名というべきか、これもあって伝馬は村に馴染むことができた。ただ、それは新たな番長としてだ。
電マで勝ち取った番長だから、電マ番長だ。色んな意味で危なく、恐ろしそうな番長だ。カツアゲのときには、ナイフの代わりに電マが出てきそうで、本当に怖い。
そんなアラカシでも女の子には弱かった。というよりも、この世界は女性が強い。女性は男よりも魔術が巧みだからだ。だから基本的に男は女性に弱いのだ。
村長は女性、家長も女性、女性が外へ出て仕事をし、男は家を守る、徹底的な女性社会なのだ。強いものが上に立つのが自然の摂理が色濃い社会でもある。
だからネリネや女性陣がやってきて、
「テンマと話があるから、失せなさい」
と言われると、
「は~いはい! ごゆっくり~!」
アラカシは取り巻きとともにさっさと消える。男は女性に口答えはしない、男は女性に素直に従う、男は女性を常に立てる、それがこの世界のルールだ。
テンマは女性から人気があった。マロニエ村長いわく、
「テンマが女性の気を引くのは、やはりその強さと弱さでしょう」
不思議な言葉だが、つまりはギャップのことだった。
伝馬には女性を引きつけるギャップがある。穏やかで柔和で優しげな性格と一見女性にも見える顔立ちは弱さを連想させるが、なのにマロニエに勝利するほど強い。と思ったら、マロニエに勝利するほど強いくせに、魔術は全然ダメ。魔術に関しては赤ん坊以下。クソの役にも立たないカスである。
魔術どころか、伝馬には魔力そのものが男連中と比べても極端に少ないらしい。これは異世界では大変不便だ。ランプやら日常生活に必要な道具は全て魔力を源としている。魔力の少ない伝馬は、ランプすら扱えなかった。
つまり伝馬は、日常生活において、要介護者レベル。異世界における社会的弱者だ。誰かの助けがなければ間違いなく野垂れ死ぬタイプ。一人じゃなんにもできないダメ人間のダメ男。しかも常に電マ持ってる。
それがかえって、女性の母性をくすぐるらしい。あの人、私がいないとなんにもできないんだから、強いくせにどうしてなのかしらね、でもそこが可愛い、好き好き、しょうがないから私が一緒にいてあげる、ってな具合で。
具体例では、
「ねぇテンマ、ランプつけてあげよっか?」
「おはようテンマ、ごはん温めてあげるね」
「こんばんはテンマ! 寒くない? 暖房つける?」
「テンマ! 何か困ったことない? 何でも言ってね! 私にできることならなんでもしてあげるから!」
とまぁ、こんな感じで、みんなが世話を焼いてくれる。多くの女性に取り囲まれかしずかれいたれりつくせり。まるで学園ラブコメ主人公か王侯貴族のハーレム生活。
が、当の伝馬、女性陣の献身を単純に純粋な親切心だと思っている。五人の姉に囲まれて育った伝馬は、チヤホヤされることに慣れすぎてしまっているのだ。
(
なーんてのんきに思っていた。まったく罪な男である。陰では女性陣たちがテンマを巡って火花をちらしたり、ギスギスしたりしなかったりしているのに……。
そんな状況だが、一応馴染んでいることには違いはない。とにかく、今のところ伝馬の異世界生活は順調そのものだった。
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