パーティのシメは電マ
野次馬大挙のその夜、ネリネとマロニエの好意で、ささやかながら伝馬の歓迎パーティが行われた。
パーティ会場の村の集会所に、独身かつ妙齢、そして暇な女性ばかり三十人が、伝馬のために集まってくれた。伝馬は女の子に可愛がられる性質らしい。これも五人の姉に囲まれて育ったせいかもしれない。
「異世界から来ました、新堂伝馬です。伝馬って呼んでください。これからしばらくこの村でお世話になります。よろしくおねがいします」
苦手な自己紹介が終わると、すぐに酒宴になった。女の子に囲まれての質問攻めが始まった。
質問内容は、酒の酔いもあって、センシティブかつデリカシーに欠けるものが多かった。というかそればかりだった。
「結婚してるの? 恋人は? 好きな人は?」
これなんか、まだジャブだ。
「童貞? チューは? アレしたことある? ひょっとしてそっちのケ?」
伝馬は異性愛者だ。これもまだ軽い方で、
「『検閲削除』は大きい? 『検閲削除』はどこ? 好きな『検閲削除』は? 『検閲削除』はどれくらいする? 毎日? 週に何回? アタシはほぼ毎日。言ったんだから教えてよ。教えなさいよ。いいじゃん、減るもんじゃないんだし」
という感じでどんどん酷くなる。さらにエスカレートし、
「ねぇ、テンマは……■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
あまりにも酷かったので自主規制せざるを得ない内容まで及んだ。
「意外とかわいい顔してるのね。ほっぺた触っちゃお。あら、赤くなってる。全身触っちゃお。あらあら、固くなってない? うふふ」
これくらいの過激なスキンシップは当たり前らしい。これ以上の描写は、この作品の品性を損なう恐れがあるので割愛させていただきます。
とにかくこの女性たち、シモの話題に開放的というよりは、伝馬をおもちゃにして楽しんでいるらしい。よくある新入社員の女の子に酔ってセクハラをするオヤジと同じパターンだ。
この世界では、十五歳から飲酒可能な習わしだが、伝馬は飲まなかった。今まで酒を飲んだことがなかったし、異世界に来たとはいえ、前の世界の習慣は簡単に抜けないものだ。
なので、シラフでドギツイ質問の猛攻を乗り切らなければならなかった。赤裸々で露骨なシモな質問には、伝馬も閉口し、赤面を隠せなかった。その様子がまた、
「かわいい!」
「食べちゃいたい!」
「舐めちゃいたい!」
「触っちゃいたい!」
「揉んじゃいたい!」
「『検閲削除』したい!」
と、女心と嗜虐心をくすぐるらしい。
(なんてところなんだ、ヤバい、ヤバすぎる、だけど、だけど……、そんなに悪くないかも……?)
伝馬も男だ。女性にチヤホヤされて悪い気はしない。それに、伝馬は女性に囲まれてベタベタ触られることには慣れている。元々がポジティブな性格だからか、セクハラに対する不快感もそれほど感じていなかった。
(セクハラではあるけれど、イジメられるよりはマシか……)
伝馬は内心ホッとした。右も左もわからない異世界で、上手く馴染めず、イジメられたりするんじゃないかと心配していたが、どうやら杞憂に終わりそうだ。
(差別されたり迫害されるよりは、こっちの方が断然いいね。セクハラなんて適当にあしらえばいいし。それに彼女たちのセクハラは、嫌がらせというより好意のあらわれだと思うし)
そんな伝馬を遠くから見守る二人の女性がいた。ネリネとマロニエだ。
ネリネ、時々酒を飲む手を止めては、伝馬を鋭い目で睨む。
マロニエも、表面上は穏やかだが、ときに真冬の夜の空気より冷たい目で伝馬を一瞥する。
二人とも嫉妬しているのだ。どうやら二人の目に伝馬は、女の子に囲まれ、ちやほやされていい気分になっているようにしか見えないらしい。
伝馬はそんな二人の嫉妬に満ちた視線に気付けなかった。絶え間ないセクハラを受け流すのに必死で、他のことに気を配る余裕なんてない。
宴もたけなわになった。女性陣たちはいよいよ伝馬に馴れ馴れしくなった。三十人の女性陣が伝馬を中心に密集した。
「な、なんか近くないですか……?」
近いなんてレベルじゃない。肩と肩どころか、前後左右から柔らかな胸や腰を、容赦なく押し付けられている。
酒池肉林のハーレム状態。一対三十のおしくらまんじゅう。
(あれ、なんか頭が……)
伝馬、ボーッとしてきた。三十人の圧力と熱気にヤられてしまっていた。
と、そのとき、
「ねぇ、これなぁ~にぃ?」
一人の酔っぱらいが伝馬の腰のモノに触れた。
伝馬はハッとなった。
「あっ、ダメッ! それ、触っちゃ……!」
伝馬、まるで敏感な部分に触られたような声を出したが、触られたのはあくまでも電マ。
だが、この場合は電マの方が、変な意味ではなく、真っ当な意味でよっぽど危険だった。
伝馬の静止は間に合わない。遅かった。
瞬間、
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
スイッチが入ってしまった。そして、
「あっふぅぅ~~~~~んん」×30。
一斉にぶっ倒れる女性陣。
電マに触れたのは一人だけだったが、密集していたせいで、電マの振動が人から人へと伝播してしまったらしい。恐るべき電マの威力。
おかげで酒池肉林は一瞬にして死屍累々に早変わり。
死屍累々といっても死者も負傷者もいない。皆ちゃんと生きている。
皆、肌を上気させ、うっとりとした顔で、色っぽくくったりとひっくり返っているだけだ。
これが一人二人なら可愛げあるが、三十人となると結構凄惨だ。これもある意味酒池肉林かもしれないが、同時に地獄絵図体的でもある。
伝馬は、死屍累々の真っ只中で放心していた。三十人の艶かしくあられもない死体の中央で、この惨状にビビりちらかしていた。
(大変なことになった……たいへんなことになった……タイヘンナコトニナッタ……)
思考停止状態。
そこへ、
「テンマ、ボケッとしてないで、早く
ネリネの声にハッとなって我に返ったテンマ、すぐに電マを止めた。
「大変なことをしてくれたわねぇ」
「本当ですねぇ」
いつの間にか目の前で伝馬を見下ろすように立っているネリネとマロニエ。
「いや、僕は、止めたんだけど……」
ションボリとする伝馬。
それを見て、二人は笑った。
「冗談冗談、ちゃんと見てたから!」
「テンマ、あなたが悪くないことはわかっていますよ」
二人とも嫉妬の意趣返しに、意地悪したかっただけらしい。
二人とも、そっと伝馬の両脇に寄り添い、
「大丈夫、悪いのはこの子たちだって、ちゃんとわかってるから」
「そうです。もうお疲れでしょう、あとは私にまかせて、もうお休みになってください」
というわけで、パーティは電マの起動によってお開きになってしまった。
(最後は大変なことになっちゃったけど……ま、なんとか
帰途中、持ち前のポジティブさを発揮していた伝馬だった。
しかし、それは間違っていた。
伝馬はパーティに男がいないことに気付かなかった。女性陣の積極極まりないスキンシップを受け流すのに必死で、そんなことに気付く余裕がなかったのだ。
村の男連中が、伝馬歓迎パーティに来なかった理由は、このときから約十二時間後に判明する。
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