第二章 村の生活
電マご披露
休んでから約一時間後、回復したマロニエから呼び出しがあった。二人でマロニエのお館に行ってみると、マロニエは歓待の用意をして二人を待っていた。
伝馬、ネリネ、マロニエの三人は茶菓のある円卓を囲み、マロニエの背後にはカトレアとカミツレの二人が座している。
「テンマ、あなたの滞在を認めます。なにか困ったことがあったら言ってください、力になります。それと、先程は失礼しました。どうか無礼をお許しください」
さっきとは打って変わって優しい態度のマロニエ。伝馬は内心驚いた。
「いえいえ、全然気にしてません。僕のほうこそすみませんでした。加減がわからなくて、やりすぎちゃったみたいで……」
「あなたが気に病むことはありません。私から仕掛けたことですから。それに、被害を受けたどころか、あの術を受けてからかえって身体の調子が良いのです」
言って、マロニエは自分の頬をなでた。たしかに、全体的に肌艶がツヤツヤテカテカしている。特に頬はバラ色で、十代のたまご肌でプニプニ感満載のモッチモチ。
「そ、それはよかったです……」
微苦笑する伝馬。内心では、
(たしかこの人、百九十歳なんだよなぁ……。百九十歳のたまご肌ってのも、どうなんだろう……?)
若干気味悪がっていた。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はこの村の村長を務めています、マロニエ・カロラといいます」
マロニエは丁寧に頭を下げた。
「新堂伝馬です」
伝馬も同じように頭を下げた。
「シンドウデンマ? 珍しい名前ですね」
「いえ、伝馬です。デンマじゃなくて、濁らず伝馬」
「テ・ン・マ、テンマ、ですね。失礼しました。こちらはカトレア・ハイエーとカミツレ・ハイエー。二人は双子で、私の従者なのです」
カトレアとカミツレの二人は全く同じ表情、全く同じタイミングで伝馬に会釈した。伝馬も会釈を返した。
「ところで、デ、テ、デ、デン、デン、テン、デンマ、テ、テン、テン、テンマ……」
ネリネと同じように、マロニエも口唇を震わせながら、やっとのことでテンマと言った。
「そ、そんなに言いづらいですか……?」
「ええ、とっても。デンマだと言いやすいんですが、テンマは難しいですね。ちょっと変ですし」
「変、ですかねぇ……」
伝馬、釈然としない。
(デンマの方が、よっぽど変な名前だと思うけど……)
もし名前がデンマなら、変の下に態が付く。そんな名前を親が付けるわけがない。
「テンマ、一つお願いがあります。もう一度、
マロニエは伝馬の腰の電マを指差した。
「はい」
伝馬は電マを抜いて見せた。断じて変な意味ではなく。
「もうちょっと近く」
マロニエの目の前に電マを持っていく。かなり怪しくいかがしく見えかねない絵面だが、もちろん変態プレイではない。
「ふぅむ、先程私と戦ったときの魔力は感じませんね」
「それは多分、スイッチを入れてないからだと思います」
「すいっち?」
きょとんとしている。スイッチという単語はこの世界にないらしい。
(異世界だから、言葉が違ってもおかしくないか。でも、言葉自体は通じてるんだよなぁ。それにマロニエさん、さっきはウインドカッターとかって英語も使ってたし。ま、あんまり気にしても仕方ないか)
と、一人納得して、
「スイッチとは、ここについているこれのことです。これを入れると、このように――」
伝馬は電マのスイッチを入れた。
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
電マが鳴り、振動する。
マロニエは顔を赤くし、身をのけぞらせた。
傍から見ると、電マ男が女性に電マを見せびらかせ、恥ずかしがらせている構図に見えなくもないが、当然そんなわけではない。
「凄まじい魔力の波、いや、渦、いいえ、波動でしょうか……!」
直接電マに触れていないにも関わらず、彼女の体表面の魔力を乱していた。魔力の乱れはなぜか筋肉の弛緩と快感を引き起こし、それが血行を促進するのか、その艷やかな肌を赤くし、潤いを与えてゆく。
すぐ近くで見ていたネリネ、マロニエの背後のカトレアとカミツレも、マロニエほどではないが、多少の影響を受けていた。三人とも、顔を上気させていた。
「凄い……。
マロニエは火照った肌を擦った。
「私の中の魔力が混沌へと転化しつつあります……。どうやら
伝馬は電マのスイッチを切った。マロニエの話を聞いていると、やはり電マがちょっぴり怖くなってくる。
(葵ねえはなんのためにこれを……)
無論、マッサージのためだ。電マとは読んで字の如くマッサージ用の機器である。
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