電マ少年VS.超絶妖艶熟女美人

 ネリネの前に、カトレアとカミツレが立ちふさがる。


 「カトレア、カミツレ、そこをどきなさい!」


 「マロニエ様のご命令です」


 「手出しは無用で願います」


 二人の従者、カトレアとカミツレに退く気はない。強引に押し通ろうとすれば戦いになる。それがわかっているからネリネは躊躇した。同じ村の者同士では争いたくない。


 「マロニエ様、どうして――」


 「ネリネ、私だってあなたの言うことを信じたい。ですが、どこの世界に『朝焼けの騎士』を救い、たった一人でドラゴンを撃退する男がいます? これが女ならともかく、男ですよ? 常識で考えてありえない。そんな荒唐無稽な話を誰が信じられますか? しかしあなたは嘘をつく人間ではない。となれば万に一つ、これが常識破りの男か、もしくは……」


 マロニエの目が一層鋭くなった。


 「『朝焼けの騎士』すら騙し、たぶらかすほどの魔力を持つ『闇堕ち』の仕業か……!」


 「違う! テンマはそんな人じゃない!」


 「わかってくださいネリネ。私も心苦しいのです。しかし私は村長として、この村を守る責務と義務と使命があります。断じて『闇堕ち』をこの村に入れるわけにはいかないのです。ではテンマ、一つ試させていただきますね」


 伝馬は二人のやり取りを聞きながら、電マを抜いている。もちろん変な意味じゃない。電マで、だと危ないが、電マを、だから全健全。より正確に誤解のないように書くと、腰のベルトに差してあった電マを手で腰のベルトから引き抜いた、となる。

 とにかく伝馬はマロニエに向け電マを構えた。


 「試すって、どうやって?」


 伝馬、もうここからの展開が読めていたが、一応聞いてみた。


 「力づくで、です」


 マロニエが杖の先を伝馬へと向けた。杖の先から光がほとばしると同時に風が渦巻く。


 「うわッッ……!!??」


 さっきの突風とは比較にもならない暴風が吹き荒れた。

 とっさに地面に這いつくばる伝馬。周囲の木々が激しくざわめき葉が散り、枝が折れ、砂と土と石が吹き上り、伝馬を襲う。


 (まるで台風だ……!)


 台風と違ってこれは超局所的な現象だ。嵐は伝馬とマロニエを取り囲むわずか十平方メートルに満たない距離の中でしか起こっていない。外界は平穏そのものだ。


 (魔術ってスゴい……!)


 ちょっと前には火の玉、今度は嵐。伝馬は魔術の恐ろしさをつくづく思い知った。


 (くっ! やられてたまるか! 電マこいつを使って――)


 伝馬は電マを風上に向けた。ちょうど暴風に逆らって傘をさすような格好だ。

 暴風に対して電マで防ぐなんて、常識的に考えるとかなりイカれている、が、ここは異世界だ。

 だからこそ伝馬は、大真面目に電マを堂々と使った。


 (――――電マスイッチ起動オン



 ヴヴヴヴイイイィィィィ~~~~~~ンンンンン~…………!!!!



 風切り音に負けじと、電マがうなる。風をもろに受ける電マの先から青白い光が粒子状に放たれる。電マを中心として、風が弱まってゆく。

 伝馬は立ち上がった。もうそれだけの余裕がある。地に足をつけ、わずか数メートル先で嵐を放出するマロニエの姿を両目でしっかりと捉える。

 マロニエは瞠目し、唇を震わせて呟いた。


 「わ、私の魔術が中和されている!? 電マあれが発しているのは魔力の干渉波!? 干渉波が私の魔力を打ち消している!! そ、そんなことが現実に可能なの!? 男の分際で、現実に、私の魔力を……!!」


 ということらしい。


 呟きは伝馬の耳にも届いていた。それだけ風は弱まっていて、もはや暴風ではない。


 (なんだかわからないけど、やっぱり電マこれはスゴい! これなら、あのイヤなマロニエに勝てる!)


 伝馬にしては珍しく怒っていた。五人の姉に囲まれ、大事に育てられた彼でも、怒る時は怒る。それだけ、マロニエには腹が立っていた。


 (どんな都合があるのか知らないけど、人を見下した挙げ句、ろくに僕の話も聞かず、いきなり魔術で攻撃してくるなんて酷すぎる! 少しは懲らしめてやらないと!)


 至極真っ当な怒りと正義感が、伝馬に逆襲を決意させた。

 荒れ狂う暴風の中、伝馬はマロニエに電マを向けて突き進む。

 その姿はお世辞にもかっこよくはない。見方によっては嵐を顧みないほどイカレた異常性欲者に見えかねない。


 もちろん、決して変態な目的があってやっているわけじゃない。あくまでもこれは自己防衛という崇高な目的があってのことで、いろんな意味で危ない変態では決してない。むしろ生きるための必須行動なのだからどうしたって絶対的に健全であり、むしろ少年が生きるために必死に戦う姿は間違いなくかっこいいはずなのだ。


 マロニエは恐怖した、魔術をものともせずに突き進んでくる電マ男に。決してそれが変態的だからではない。常識を超え、理解の範疇を外れた不可思議な存在に対する本能的な恐怖だった。

 恐怖に駆られ、マロニエは新たな魔術を繰り出す。



 「ウインドカッター!!」


 それは不可視の刃。研ぎ澄まされた魔術の風。それは電マに触れたかと思うと、鋭い音を発して大きく弾かれ、伝馬の背後の木を両断した。


 (えぇッ……!?)


 魔術それ自体は見えなかった。だが、感知することはできた。背後で木が音と立てて倒れるのもわかった。

 なによりも、木を両断するほどの何かがマロニエから自分に放たれたことは、はっきりと理解した。


 (こ、殺す気なのか!? 試すとか言っておきながら、な、なんてヤツだ……!!!)


 これには流石の伝馬もキレる。ブチギレだ。

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