超絶熟女美人村長さんから突然の試練
一時間ほど歩くと道がなだらかになった。軽いハイキングコースくらい。それから一時間ほど歩くと、
「もうすぐ着くわ。ほら見て、あれが私の生まれ育った村、ヨウムよ」
ネリネが言った。遠く前方に集落があった。
(やっとか……)
伝馬は疲れていた。もう何時間も歩き通しで足が重い。それでもゴールが見えたおかげで、少しは気が楽になった。
それからさらに一時間ほど歩くと、ようやく村の入り口を示す小さな看板の前までたどり着いた。
そこに三人の女性の姿があった。
「あら、村長が出迎えてくれたわ」
「あの背が高い人?」
「そう。マロニエ様。御年百九十歳」
「ひゃ、百九十歳!?」
まだ距離があって遠目だが、どう見ても百九十歳には見えない。そもそも百九十歳といえば、老婆を通り越して棺桶の中にいるのが当たり前だ。
ところが、目の前まで近づいてみても老婆には到底見えない。どこからどう見ても二十代後半、もしくは三十代前半くらいとしか思えない。
しかもスタイル抜群の美人だ。老婆には絶対に似合わない露出度の高い装束を着こなし、老婆ではありえない妖しい色香まで漂わせている。腰下まで垂れた流麗な金髪が目を惹き、ネリネと似た意匠の杖を持つ手も、どこか艶めいている。
(う~ん、さすがは異世界……!)
伝馬も心の中で唸った。
「その隣は、カトレアとカミツレね」
マロニエの両サイドに侍る二人は双子で、ともにマロニエの従者である。二人もなかなかの美人、そしてやっぱり露出度高めだ。どうやらこの世界の女性は露出度高めのナリを好むらしい。しかし二人の美女も、この場ではマロニエの引き立て役にしかなっていなかった。
「おかえりなさいネリネ、無事で良かった。帰りが遅いので、ドラゴンに襲われたのかと心配しました」
声音もやっぱり老婆のそれじゃない。ハキハキと艶がある。
「はい、襲われましたが、危ういところをこの者が助けてくれました」
「……この男が?」
マロニエが伝馬を見る。
(この人、どことなく僕を馬鹿にしているような……)
そんな冷たい、嘲ったような目をしている。しかも威圧的だ。長身の美女に見下され、伝馬は不快に感じるよりもビビってしまった。
「フッ……」
マロニエが笑った。しかも鼻で。二人の従者もつられて笑い出す。
「老人をからかうものではありませんよ。どうしてこんな変な格好をした、ひ弱そうなどこにでもいるただの男が、あなたを助けられるというのです?」
さすがの伝馬も本格的にムッときた。だが、その伝馬よりさらにムッときていたのが隣にいた。
「そんな言い方はないんじゃないですか!? デ、テンマは私の命の恩人ですよ!」
隣の伝馬が驚くほど、ネリネの怒声は大きかった。引き立て役の美女二人も驚いている。
「あらあら、ネリネ、ひょっとしてこの男はあなたのいい人ですか?」
小指を立ててニヤリと口元目元を歪ませるマロニエ。下卑た笑いだが、美女ならなぜか様になる。
「べ、べべ、別にそんなんじゃないです! 怒りますよ!」
「ほほほ、もう怒ってるじゃないですか。ムキになるところが余計に怪しいですよ。しかし『鉄の花』なんて言われるほど、常日頃から『男なんかに興味がわかない』なんてうそぶきお高くとまっているあなたが、仕事にかこつけて山で男としっぽり楽しんで――」
「そんなんじゃないって言ってるじゃないですか! 本気で怒りますよ!?」
「冗談冗談、冗談ですよ。歳をとるといけませんね、つい若い子をからかいたくなる。わかりました。にわかには信じられませんが、この男があなたの命の恩人というなら、私にとっても恩人です。態度を改めましょう。デンマ、と言いましたね」
マロニエは、さっきまでの小馬鹿にしたような態度とは打って変わって柔和な笑みを浮かべ伝馬を見た。それがまた艶めかしい。
「……デンじゃないです。伝馬です」
「これは失礼、テンマ、ですね。テンマ、ネリネを助けてくれたそうですね、礼を言います、ありがとう」
頭を下げるマロニエ。
伝馬もペコリとお辞儀した。その顔はまだ不快げだったが、ちゃんと礼に礼を返すのが、伝馬のいいところ。
「しかしながら――」
突然、マロニエの目が鋭くなった。
「正直に言って、私はまだあなたを信用できません。なので、
マロニエが伝馬に手をかざした。次の瞬間、マロニエから柔和な表情が消え失せた。
「ウインドウェイブ!」
唐突な攻撃だった。マロニエのかざした手から凄まじい風が放たれ、伝馬を襲った。
「うわぁッ……!?」
不意打ちになすすべもなく、あっという間に二十メートルほどの距離をふっ飛ばされる伝馬。風が止み、立ち上がると眼前五メートル先にもうマロニエが。
「マロニエ様、一体何を……!?」
ネリネは伝馬へと駆け寄ろうとした。そこへ美女従者が立ちはだかった。
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