ドラゴンVS.電マ
なんと伝馬も耐えていた。
しかも、少女とは違って余裕ばっちり。むしろ涼しげですらある。
ドラゴンの火の息は伝馬を焼くことなく、伝馬の電マに弾かれるようにして、大きく迂回している。
それはまるで大勢が行き交う往来に突然現れたヤベーヤツを、街の人々が遠巻きに避けてゆくのに似ていた。
少女は瞠目した。
「す、凄い……!
少女、自分の疲労を忘れて絶賛解説。しかもまだ続く。
「あれは魔力の真髄に触れた者にしかできない超高技術……! 魔力を完全に理解し、己が身体のごとく自由に操れることが可能な超熟達者だけが辿り着ける境地! 最上級かつ至高の極技! シールド展開なんてできないなんて言ってたけど、それは不可能という意味じゃなかったのね。低級な技なんて使っていられないという、魔術の蘊奥を極めた故の、確かなる力と技に裏打ちされた誇りから出た言葉だったのね!!!」
魔法少女改め解説少女いわく、とにかく凄いらしい。
少女は伝馬を天才大魔術師かなにかだと思っているらしいが、伝馬はただの一般男子高校生だ。
だから、魔力とか魔術とか一切理解してないし、なんなら今もいっぱいいっぱいだった。
実際のところ、伝馬はただ呆然としているだけだった。
やがて火の息がやんだ。草木の焼け跡に少女と伝馬はいた。
焼けただれ、燻る大地に半裸の男が悠然と立っていた。ドラゴンに向けてかざすその手には伝説の魔剣……ではなく電マ。
ヴヴヴヴイイイイイ~~~~~~ンンンンンン…………………!!!!
電マは震え、鳴り続ける、依然変わりなく。
電マ構える伝馬の後ろで、少女は限界だった。シールドは火の息が消えると同時に消失、杖に寄りかかって膝をついていた。息が荒い。
隣で膝をつく少女に気が付き、駆け寄った。
「大丈夫!?」
少女の顔を覗き込む伝馬。
「馬鹿っ、こっちに構っている場合じゃ……!」
他人の心配をしている場合じゃなかった。巨大なドラゴンの足裏が、二人の頭上に迫りつつあった。
「ッ! シールド展開……!!」
間一髪シールドが間に合い、なんとかドラゴンの踏みつけを防ぐことができた。
だが、それも長く保たない。魔術素人の伝馬の目にも明らかだった。青く輝くシールド表面に亀裂が走り、色もだんだんと薄くなってきている。魔力枯渇の兆候だ。
「ひょっとして、ヤバい……?」
「うん、ごめん、もう、保たない――」
少女の身体が揺れ、地面に崩れた。同時にシールドが砕け散った。落ちてくるドラゴンのどでかい足裏。
踏まれれば即死。ぺっちゃんこ。確実にジ・エンド。踏まれてもど根性でどうにかなるのはアニメや漫画だけの話で、現実とは無情なものなのだ。
考えている時間はなかった。考える必要すらなかった。やれることと頼りになる物はたった一つだけ。
迫りくる足に向け、伝馬は電マを突き出した。
「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~!!!!!!」
ヴヴヴヴイイイイイ~~~~~~ンンンンンン…………………!!!!
唸りを上げる電マ。
そこへドラゴンの足裏は容赦なく落ちてきた。
電マと足裏が接触。一瞬、深くドラゴンの足裏にめり込んだ。そして次の瞬間、ドラゴンは弾かれるようにのけぞり、くにゃくにゃと身悶えさせた。
「ううううううぅぅにゃにゃにゃにゃあああぁぁぁぁ~~~んんん…………」
ドラゴンの口から、そのいかつい見た目とは真逆の可愛らしい嬌声が飛び出した。直後、ドラゴンはごろんと仰向けにひっくり返った。
巨体にふさわしい轟音を響かせ、寝っ転がるドラゴン。そのまま動かなくなった。
「「うっそ……」」
伝馬と少女の声が重なる。二人とも、目の前で起こったことが信じられなかった。
「何をしたの?」
少女が問う。
「わからない。これを突き出しただけなんだけど……」
伝馬はスイッチを切った電マを、少女に見せた。
半裸男が電マを女性に見せるなんて、かなり危ない絵面だ。しかしここは異世界だし、本人にも悪気はないからセーフ。
「ふぅん……」
少女は少しばかり訝しげな目を電マに向けた後、杖をついてゆっくりと立ち上がり、よろよろとドラゴンに向かって歩き出した。
「だ、大丈夫?」
少女の足取りがかなり危なっかしかったので、伝馬は慌てて少女に寄り添い、肩を支えた。
「ありがとう。でも、ドラゴンを確認しないと」
ドラゴンは深い眠りに落ちていた。少しすると、大きないびきをかきだした。身体がデカいだけあって、かなりうるさい。
「よく寝てるみたいね、今のうちに逃げましょう」
「逃げるって、どこへ?」
「ついてきて、案内するわ」
少女が歩きだした。伝馬はついていく。
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