半裸電マ男とコスプレじゃない少女

 少女の歳は伝馬と同じくらい。髪は銀のショートカット。灰色の目は大きいが、鼻と口は小ぶりで可愛らしい感じで、顔だけ見ると清楚な感じだが、


 (よくみると、すごい格好してるなぁ……)


 顔つきとは裏腹に、見た目はかなり露出度高め。張りのある太ももの鮮やかなミニスカートに、上衣も胸の真ん中がぱっくりと開いてしまっていて、葵ねえには及ばないものの充分立派な胸が露骨に強調されている。頭にはつばの広い帽子、手には木製の杖。アニメに出てくる魔女か魔法使いっぽい。


 (あ、なるほど! これ、コスプレだ! 魔法少女コスだ! 多分ここらでコスプレかなんかのイベントがやってて、さっきのドラゴンもイベント用の着ぐるみだったんだろうな。そりゃそうだ、あんなでっかい怪物が、こんな小さな電マもので簡単に倒せるわけないし)


 一人で勝手に勘違いして納得した。

 聞きたいことがたくさんあるので、伝馬は少女に話を聞くため近づこうとしたとき、


 「動かないで!」


 少女が叫ぶように言った。切りつけるような厳しい声に、伝馬はビクッと足を止めた。

 声は見た目通りの可愛らしさだが、棗ねえが怒ったときの感じに似ていて、伝馬はちょっとビビった。

 一番歳の近い姉の棗ねえは、性格のキツイ姉で、小さい頃よく泣かされていた。その頃の思い出が少しよみがえってしまった。


 「怪しい……、ここで何をしているの!?」


 少女は大きな目を細く鋭くして、伝馬を睨みつける。

 一理なくもない。今の伝馬は半裸で、しかもその手には電マが握られている。かなり変態的だ。

 いかに本来が健全なアイテムであるはずの電マでも、それを公共の場で、なおかつ半裸で手に持っていたら、通報や職質は免れない。

 伝馬は伝馬で、


 (他人に怪しいって言うけど、そっちはそっちで怪しいんじゃないかなぁ……)


 と、露出多めの少女をどうかと思ったが、口にはしなかった。そこはデリカシー。

 半裸電マ男子高校生と露出多めコスプレ少女の対峙、一見奇妙だが、見ようによってはどこかお似合いな組み合わせ。


 「見れば見るほど怪しいヤツね。拘束させてもらうわ」


 少女が杖の頭を伝馬に向けた。すると、杖の先から青白く光輪が三つ飛び出し、伝馬を絡め捕った。


 「――ッ!?」


 突然、そして一瞬のことに、伝馬は声もあげられなかった。光輪は伝馬を締め上げて離れない。じたばたあがけどもがけども、逃れられない。軽くパニック。


 (な、な、な、なんだこれ!? ど、ど、ど、どういう原理なんだ!? まるで魔法だ! 最近のイベント、凄すぎない!?)


 まだコスプレイベントだと思っている能天気な伝馬。


 「無駄よ! 男であるあなたが、私の魔術から逃れる術はないわ! 諦めてお縄に付きなさい!」


 (今、魔術って……、コスプレイベントじゃないのか……!? それともそういうドッキリ!? ドッキリ番組!? テレビ!? それともこの人、ひょっとして今流行りの迷惑系配信者!?)


 まだ能天気なこと考えてる伝馬。だが、いつまでも能天気ではいられない。コスプレ少女の魔術はとっても痛い。痛みが否応なく、伝馬の思考を現実的にさせる。


 (イっテテテッッ!!  違う! これドッキリとかじゃないかも! これマジだ! あ! なんとなくわかってきたぞ……。この人の格好といい、ドラゴンといい、ここに来る直前の事故といい、これはひょっとしていわゆる流行りの、異世界転移というやつでは……!?)


 大正解。つまりここは異世界で、伝馬は転移、少女はマジの魔術師で、魔術もマジというわけだ。

 マジの魔術師に人生初のマジ緊縛魔術を食らわされた伝馬、文字通り昇天寸前の大ピンチ。異世界転移早々死にかけるとは情けない。


 (この人、マジでマジか!? マジで僕を殺す気か!? ぐげげ……! ま、マジにヤバい! マジで死ぬぅ……!!)


 締め上げられ、顔がどんどん赤黒くなってゆく。口の端からカニのように泡を吹き、目もキマったように焦点があっていない。絶命数秒前。


 (うぐぅ、死にたくない……。二連続で死ぬなんて嫌だ……。あ、そ、そうだ! 僕にはまだ、これがある! というかもう、これしかない! これでなんとかなってくれぇ~……!!)


 伝馬、その手の電マを思い出した。魔術がマジならさっきのドレイクもマジなはず。だったら、電マの実力もマジなはず。

 スイッチを入れた。



 ヴヴヴヴイイイイイ~~~~~~ンンンンンン…………………!!!!



 唸る電マ。その先端が伝馬を締め上げている光輪に触れた。

 すると光輪はまるで氷が溶けるように、水が蒸発するように溶けてキラキラと輝く水蒸気を立ち上らせながら雲散霧消した。

 一つ消えると、身体の自由がよりきくようになった。伝馬は立て続けにもう二つの光輪も消した。


 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」


 光輪から解き放たれた伝馬、久しぶりの娑婆の空気を堪能した。


 「嘘っ!? そんな馬鹿なことって……! わ、私の魔術を分解して、ただの魔力へと戻したって言うの……!? そんなことが可能なの……!? ただの男に、そんなことが……!?」


 伝馬には少女の言っている意味がよくわからない。ただ一つわかることは、


 (なんだかわからないけど、葵ねえのコレ、すごく使えるぞ! ありがとう葵ねえ! あと勝手に使ってごめん! でもしばらく貸して!)


 伝馬は電マを固く握りしめ、葵ねえへ感謝と謝罪、そしてしばらくの拝借を心の中でお願いした。

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