第10話 @

 帰りのバスの中で、お姉さんは色々なことを話してくれた。あのまま待っていたら、どんな光景を見ることができたのか。どうしてインターネットエクスプローラは使われなくなったのか。その他、色々なことを。でも、ぼくがした質問のいくつかには、答えてくれなかった。お姉さんはなぜあのお店のことをよく知っているのか、お姉さんが見てきた世界がどんなものだったか。そういった質問には、お姉さんは「急がず、焦らず」とだけ言って教えてくれなかった。

 もうすぐ最初のバス停に着くというところで、お姉さんはぼくにメモをくれた。そこには、アットマークの後ろにアルファベットが並んでいた。

「あくまで可能性にすぎないんだけどね……明日、君はあそこに行けないかもしれない。あるいは、私は君に会えないかもしれない。あるいは……明日だけじゃなくて、永いことそうなるかもしれない。そうなった時のために、これ、渡しておくね。君と私がまた会えるための助けになるかもしれない」

バスはちょうどトンネルに入ったから、お姉さんの顔はよく見えなかった。どんな表情をしていたのだろう。

「デジタルの世界って、実はとてもはかないんだ。色んなサービスが生まれて色んな人同士がつながって交流できるようになったけど、それらはやがて廃れる。ある日を以て、なかったことになってしまうんだ」

「だけど、どのサービスでも私はこの名前で登録してるんだ。だから、明日、明後日、もっと先も私に会えないかもしれないけれど、この名前で色々なところを検索してくれれば、また会えるんだ。この県の決まりに従うと、君が私的にネットを使えるのは大人になってからだろうけどね」


 お姉さんがそこまで言ったところで、ぼくたちはバスを降りた。最初に出会ったところまで、帰ってきてしまった。


「じゃあね、少年。また会おう」

 そう言って、お姉さんは建物の陰に消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る