第8話 探検

 バスには黒地に白文字で「田舎峠」と書いてあった。ドアが両側にバタンと折れて開き、ぼくたちは高いステップを踏んで車内に上がった。


 川に沿って十五分ぐらい走った頃、お姉さんは降車ボタンを押した。

「お疲れさま。次で降りるよ」

 財布を取り出しながら、ぼくは料金表を確認した。ぼくのおこづかいとしてはちょっと痛いお金が表示されていた。


 ぼくたちを降ろしてお客がいなくなったバスは、黒い煙をもくもく出しながら、次のバス停に向かって走り去った。


「あそこだよ」

 お姉さんが指差した先には、コンビニのようなお店が立っていた。新しいものと古いもの、看板が合わせて二つ並んでいた。新しい方には「ユア・ウェルカム」という誰でも知っているコンビニの名前が、古い方には「田舎峠酒店」と書いてあった。  

 こんなふうに名前が並んでいるコンビニを、ぼくは他に知らない。


「ねえお姉さん、お店に電気が点いていません。今日はお休みのようです」

「そうらしいね。今はおばあちゃんを病院に連れて行ってるんだって」

 やっぱり、お姉さんはこのお店の人をよく知っているらしい。お店の人が今どこにいるか知っているのだから。


 ぼくは、仕方ないので帰る準備を始めた。けれどお姉さんはお店の裏の方にずんずんと進んでいって「こっちこっち」とぼくを手招きした。

「ここから入れるよ。おいで」

 お姉さんに言われるがまま、ぼくは裏口の戸を開けた。中は薄暗くてよく見えなかった。ちょっとかび臭い。

「大丈夫、怖くないよ」

 お姉さんはそう言うと、中の段ボールらしき物をひょいひょいとよけて進んでいく。ぼくにはとても追い付けない。

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