第5話 ショッピングモール

 図書館を出たぼくは、駅前の大通りを歩きはじめた。なるべくややこしい名前のお店を探して。


 この町にどんな会社があって、どんな歴史があって……なんてことをちゃんと調べれば、何回も合併した会社がどれか分かるに違いない。だけど、そんなのめんどくさいじゃないか。ぼくが見たいのは生きているIEだ。早く見たいのに、そんなことをやってられない。


 合併したなら両方の名前が入っているんじゃないか、とぼくは考えた。葦原あきつ銀行は、葦原YHファイナンシャルグループと秋津洲いなほ銀行の両方の名前が入ってるし、葦原YHファイナンシャルグループは、葦原銀行とよもつ信託銀行と比良坂バンクの名前から取ってるし、秋津洲いなほ銀行だって秋津洲銀行といなほ銀行からできている。だからいろんな名前が付いていれば、前にどこかとどこかが合併してできていそうだ。なら、社内システムも複雑なんじゃないか。そう考えたんだ。



「こんにちはいらっしゃいませ、焼きたてふんわりパンのマルイ・角島・FBベーカリーグループ、MKFBパン&カフェ黒霧店へようこそ!」

 この辺で一番大きくてお店が集まっているところ。それがダイサティ黒霧くろむだ。広い駐車場があって、その中心に四階建ての大きな建物がある。中にはスーパーやハンバーガー屋さんや、たくさんのお店が集まっている。こういった建物のことを、ショッピングモールというらしい。何かを買うお金なんかないぼくは普段そんなに来ないから、ここに何があるのかよく知らない。だけどこの町の全部が詰まったここなら、IEだってあるかもしれない。何でも揃ってて、キラキラしているんだから。


 IEはどこにいるんだろう。よく分からないから、一階から順番に見ていくことにしたのだ。

 そして、最初に通ったパン屋さんの名前がとても長かったので、ぼくは立ち止まってしまった。売場のお姉さんの声を聞いて辺りを見てみると、天井から吊ってある看板には、たしかに「焼きたてふんわりパンのマルイ・角島・FBベーカリーグループ、MKFBパン&カフェ」という長い文字が書いてあった。これ全部でようやく一つの名前らしい。

 こんなに長くてややこしい名前なら、IEがいるかもしれない。よし……


 深呼吸すると、ぼくはお姉さんに声をかけた。

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