第38話 大森林南部にて
更にあれから3日たち、最後のエリア南に来ていた。
「ふっ」
一刀で一つ首が飛ぶ。
「数が減らない·····?もしかして召喚者でもいるのかな?」
かれこれ二百以上はわたしだけで倒してるはずなんだけど、見た感じ全く減ったようには見えない。集まってきてるのか召喚されているのか·······。多分後者の可能性のほうが高そうなのよね〜。
ひとまずここで戦っててもジリ貧になるだけで好転はしないはずだし、なら
「わたしちょっと向こう見てくるね」
「え?いきなりなにかーーーーー」
「じゃあ、指揮の方は頼むね」
「ちょ、雷神姫様ぁ!!?」
「その名で呼ぶなぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!」
とりあえず一発殴ってから、<|探知(サーチ)>を使って怪しそうな反応を探す。
「あった。これかな?ちょっと多いなぁ」
洞窟と思われるところの中に他と比べて、大きな魔力反応と多数の護衛らしき反応。
気づかれずに突破はできなさそうだし、そうなると強行突破しかできない。まあ、いつも道理に殲滅するだけだし、やることは変わらないからいいけどね。
まず見張りに立っていたオーガ二匹を一瞬で距離を詰め、首を飛ばす。声も上がらない。
「意外に広そうね」
洞窟というより人工的に作った地下空間と言ったほうがいいかも知れない。少なくとも足元はしっかりと舗装されていて、比較的に清潔だったし、ここに住んでいるのが人だと言われても知らなければ信じてしまいそうになっていただろうほどだった。
「グギャーーーー」
「グルウーーーー!?」
肉塊になった魔物の落ちる音と、刀で斬るときの風切り音だけが鳴り、わたしが歩いてきた道は全て、鮮血でいっぱいになっていた。一応血が服につかないように気をつけてはいたけど、しばらくこの血の匂いは染み付いたまま消えないだろうと思う。
「反応のある部屋はここね······」
<|虚像迷彩(ミラージュ)>を使ってそっと中を覗き見る。
「ゴブリンマジシャンかな?」
「ーーーー¢£€ΠΔ¶§♦&†‡¶>¢€ーーー」
十匹のゴブリンが地面に描かれた魔法陣に向かって魔力を捧げてる。魔力を操れるのならゴブリンマジシャンのハズ。魔法陣からは次々と魔物が出てきている。脇に積み重なっているのは生贄にされたものと予想はつく。
「早めにやったほうがいいかな······」
発動中の魔法陣にはあまり触れないほうがいいんだけど、これ以上魔物が増えてしまうのは看過できない。
ヤバそうな魔物が出てきても困るしね。
しかし数が多いねぇ。これじゃあ一匹ずつ倒すのには時間が掛かりそうだし、取り逃がす隙きが出来てしまう。これは接近しないと使えない武器の宿命かな。
「範囲魔法でまとめて倒したほうが早いね。<|竜巻(トルネード)>」
凄まじい風が離れていたわたしのところまで吹き荒れ、中心はゴブリンマジシャンたちや召喚された魔物たちをすりつぶしながら回転し、渦はまたたく間に血の色に染まる。
「グロい·······」
これなら他の属性にしたほうが良かったかもと、思ったけど地属性だと洞窟が崩れちゃうかも知れないし、雷属性だと狭いから自分まで巻き込みかねないし、他の属性はからっきし。
まあ、そもそも使えたとしても水属性だと溺れそうだし、火属性だと酸欠になるから使わなかったんだろうけど。
<|探知(サーチ)>を念の為かけて生き残りがいないのを確認する。せっかく元を断ちに来たのに生き残りを見逃すとか間抜けもいいところだしね。
脳内マップに表示されているのはわたしを除いて全て死亡判定。
「よし、後はウルガたちでもできるでしょ」
増援が来なければもともと質で圧倒していた騎士団が勝つ。わたしがいなくてもウルガがいるし問題なく運用できるでしょ。今までもちょくちょく投げてたけどうまく使えてたし。前線で剣を振るっていたほうが性に合ってそうだけどね。
行きと違ってゆっくりと歩いて戻ると、もう戦いは終わっていた。
「姫王様!ご無事で何よりです」
ウルガの副官を務めているエゴールが真っ先にわたしに気付き、何人かの騎士たちとともに駆けてきた。
「お怪我はございませんか?」
「わたしはそうそう怪我はしないって」
少なくともさっきから出てくるような魔物じゃ、わたしから逃げることも出来ない。傷つけることなんて不意を打っても無理なはず。
「いくら姫王様がお強いとはいえ万が一もございます。姫王様の盾になるのが儂ら騎士の役目なのです。せめて何人かは連れて行っていただきたいものです」
「········善処はするよ」
人を盾にしたり、使い捨てみたいに使うのはわたしには出来ない。こうやって危険なところに連れてきながらできる限り死んでほしくないなんて思ってるぐらいだから。これが盗賊みたいに明確な悪人なら特に良心の呵責もなく殺せるのに········。
「死ねと命ずることはできるけど、できる限り死なせたくはないなんて········随分と身勝手になったなぁ」
矛盾しているけど仕方ない。わたしの近くが一番死ぬ確率が高い。だから死なないと思える相手としかともに戦えない。今の所一緒に戦えると思えるのはクリスティア、リリア、ウルガ、リグルス。
·······こうしてみると少なすぎないかな?
「まあ、おいおい考えていけばいいかな········」
この世界の命は軽い。覚悟は必要だ。いつ、誰が死ぬのか分からないんだから。
「ここのところは平穏そのものだね〜」
「え?平穏·········?」
大規模な戦いからはすでに3日たち、ここのところあのときのような大きな戦いは一度も起こっていなかった。あの時は異常だったんだろうけど、この3日間は散発的にしか戦いが起こっていない。
「最近は大した魔物もでなかったし、平穏だったじゃん」
「あれを普通扱いするのは姫王様だけでしょう·······」
地竜の群れを一蹴するような常識はずれなのは、アンタだけでお腹いっぱいなんですよ、と頭を押さえながらうめくように言う。
まったくもって失礼極まりない。誰が常識はずれだ!
ジロリッと睨むと、スイッとウルガは顔をそらした。どうやら不敬なことを言っている自覚はあるみたい。
「いやあ、それにしても魔物は多いですね。ユニーク個体も居たし、かなりの臨時収入になりますね」
慌てたように話題を変えるウルガだけどそのことに関して大切なことを忘れているね?
「わたしが倒したぶんはわたしのものだからね?」
「え?」
馬鹿な········、とでも言いたそうな顔でウルガがわたしを見る。
「え?じゃないでしょ。わたし一人で倒したんだから」
わたし、自分の取り分を理由もなしに人に渡すほどお人好しじゃないもん。
悔しかったら自分で狩ってくるんだね!
ひょい、と見せつけるようにさっき狩ってきた狼の稀少種を自分の|収納庫(ストレージ)に収納する。さっきの失礼な発言はこれでチャラにしてあげよう。
「クッ、次からは·····オレも狩る」
「うん、そうしなさい」
めっちゃ悔しげにいう彼に満足して死体の処理が終わった部隊から行軍再開の準備を進めさせる。
「しかし妙ね」
「何がです?」
いつの間にか追いついてきていたウルガが尋ねる。
「さっきから襲ってくる方向が同じなの。まるで、そっちに自分がいるのを晒すように」
「魔物なんですからそんなものでは?」
「じゃあなんでわたしたちはさっきまで統率の取れた魔物と戦っていたの?魔物主は一匹も倒してないし」
「······そう言われると」
魔物がここまでの知能を持っているなんていうのは聞いたことがないけれど、実際に異常に統率をされた魔物の襲撃を受けている。ここから推察すれば、十中八九誘われているだろうということは少し考えればわかる。普通なら誘いに乗らないのが正解なんだけれど
「じゃ、まあ取り敢えずここは敢えて、誘いに乗ってみようか」
「そういうと思ってましたよ·······」
程なくして準備が整ったのを確認して、魔物たちが現れた方向に進む。
奥に進むほど、身体になにかがまとわりつくように少しずつ重く感じる。
「これは······瘴気······!?」
黒っぽい霧のようなものを目にしてようやく認識できた。これは魔物の持つ力の源そのものだと。
「これは·····!?」
「か、身体が!?」
「おい、大丈夫か!?」
あちらこちらで調子を崩す騎士たちが続出する。濃い瘴気は人間にとって体を蝕む毒となるからだ。
「ほ、報告!!魔物の大群が迫っています!その数およそ五千ほど!!!」
「ご、五千だとおおオオオ!?!?」
「何だソレはあああぁぁ!!」
混乱し始めた隊列内でこのタイミングで魔物の大群の接近を知らせる報告が来た。またたく間に動揺が広がり、統率が乱れる。
「落ち着け。数は多いが大半はランク3以下の魔物ばかりだ。落ち着いて対処すればどうにでもなる!」
10段階中の3ということは、せいぜい村を破壊できる程度の魔物。いつも通りの戦いをすれば撃退することは容易。わたしが出るほどのものじゃない。
ソレよりーーーーと魔物の大群の向こう側を睨みつける。そこから異常に強い瘴気とプレッシャーをビシビシと感じる。
(これは魔竜王クラスに近いなあ)
魔力量なら魔竜王が多いけど、魔力の流れから見るに魔力操作の達人クラス。かなりの使い手だとすぐに分かった。
でもまあ、その相手をする前にザコたちの相手をしよう。流石に騎士たちだけじゃ討ち漏らしが出てくるだろうし|アレ(・・)を相手するのに邪魔されるのは不味い。
「ぶっつけ本番だけど仕方ない。<|雷霆の光槍雨(フォール・ケラウノス)>!!」
わたしがその魔法を唱えると、空中から現れた無数の雷の魔法の槍が魔物たちを貫いていく。
苦労して開発したわたしの魔法を受けるといい!!
あれ一発一発に大きな落雷と同じレベルの威力をもたせるのにとんでもない時間と労力をつぎ込んだんだから使えなかったら泣くしかない。
その心配は杞憂だったみたいで、しっかりと群れを半壊させていた。
「威力、魔力効率ともに問題なし、と。これからも重宝しそうだね」
うんうんと満足して、直後に膨れ上がった魔力に目を向ける。
「あ、完全に怒っちゃったかな、これ」
完全にわたしに殺意が叩きつけられている。あの魔法を使ったのが誰か判別できたみたい。普通はできないんだけどねぇ。
これはかなりまずい相手かも······。ここまで魔力に敏感ということは魔法型か魔法戦士型か······いずれにせよ面倒なことになる。
「おいおい、いきなり魔法打ってくるのは反則だろ〜〜??」
黒っぽい肌に走る黒の文様。赤い瞳に黒くなった白目。
古い文献の挿絵にしか出てこなかったおとぎ話にもなっている存在。
「邪人·······!?」
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