第37話 調査開始と二つ名
「魔物の数が増えている?」
執務室で作業していたわたしに報告が入った。
「はい。急激に討伐数が増えてきていて、オレの部隊まで駆り出されています。このままだとそれでも追いつかなくなりそうで」
「そんなに増えているの?」
「はい。おおよそ十倍は下らないでしょうね」
「そんなに······」
魔物が増えるのには、強力な個体の出現、又は魔素の異常集中などが挙げられる。でも、いくらなんでもこれは異常すぎる。連日狩り続けているのに一体何処から湧いてきているのか。
一瞬あの謎の空間転移の痕跡の件を思い出す。あれも捜査をさせているけど、未だに手がかり一つ見つからない。
原因不明という件では両方ともに共通点があるけど、こんなのは言いがかりレベルでしか無い。
「一旦本格的に調べてみる。わたしも行くよ」
「わかった。早急に騎士団を編成する」
「うん、お願いねウルガ」
わたしの前を辞すウルガを見送ってから、ハア〜〜〜〜〜!!と大きくため息をつく。
順調に発展を続けていってると思いきや、とんでもない問題が転がり込んできた。放置を続けてしまえば、下手したら冗談抜きでこの国が消えかねない事になる。
「にしても、な〜〜んか西の森が怪しいんだよね〜〜」
目撃及び討伐箇所はその殆どが西の森から近いところばかり。それ以外の離れた場所には、騎士団でも手こずるレベルの魔物が出たらしいし、怪しい匂いがプンプンする
「まあ、行ってみたらわかるかな」
なんにも分からないままじゃ対策の立てようもない。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか······」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「今日はここで野営しよう。そろそろ日が暮れる」
徐々に暗くなってきた空を見ながらウルガに伝える。
「そうしましょう。森はすぐに日がかける」
森に入って2日。わたしは騎士団800を連れて魔物の討伐を続けていた。
騎士たちが準備を進める中、代わりにわたしが|<探知>(サーチ)を使って索敵をする。
「大丈夫ですか?ずっと連戦でかなり消耗してると思いますが」
「ん、大丈夫。これぐらいなら全然問題ないよ。魔力も半分以上残ってる。でも、多いね。多すぎる」
「はい。ゴブリンから|下級竜(レッサードラゴン)までが組織的に襲撃に来るとは·····」
「統率者の存在は確定ってところかな。厄介だね、早急に潰さないとこれは、雪だるま式に増えていくよ」
「問題はどこにいるかです」
「ソレなんだよねぇ〜」
西の森はあまりにも広大で、小国数個分にも匹敵するほどの面積がある。これを虱潰しなんて不可能だし、できたとしても時間がかかり過ぎる。
探すならまず捜索範囲を区切らないと。
「ひとまず東部のこの山から順に調べてみましょう」
「それしかないですか·····」
翌日からグルッと反時計回りに廻る。
より魔物の領域に深く入り込んだためか、現れる魔物の種類や強さも格段に上がってきている。何よりも
「前方からフォレストウルフが接近!数は32!後続にオーガが40以上!」
「後方からキラーアント!数およそ50以上!」
「10時方向からワイバーンを確認!数は17です!!」
「姫王陛下お下がりーーーーて、ああ〜〜〜〜〜!?!?!?」
報告を聞くと同時に、最も崩れそうな相手を崩しに行く。まあ、そういう奴は強いやつや、楽しめるのが多いからわたしの暇つぶしにでもあるから苦にならないし。それに騎士だけに任せておくとかなりの被害をこおむってしまうしね。
「ワイバーンはわたしがやるわ」
「お、お待ちを陛下あ〜〜〜〜!!」
雷を纏わした刀を手に<風盾>を足場に空へ|登る(・・)。
「グ、グルウウウウウウ!?」
「ガルゥ、ガアッ!?」
羽を持たないはずのわたしが空にいるのに驚いたのか、一瞬の沈黙と空白が生じた。
無論、先に動いたのはわたし。
<身体強化>の出力を上げて先頭にいた一頭の首を落とす。
「それじゃあ、死にたいやつから来なさい。一撃で落としてあげる」
抵抗の余地のない蹂躙劇が始まった。
「いやあ〜、凄まじいですな。我らが姫王陛下は」
「そうだな·····」
空高くで舞うように次々とワイバーンを落としていく姿を見ながら、老齢に差し掛かりつつある副官が感嘆の声を出す。
「姫王陛下が·····」
「すげえ·····どんな目をしてたらあんな立ち回りができるんだ」
「一体でも手こずる相手だというのに······」
すでに魔物たちを倒し終えた騎士たちがシオリの亜竜たちとの戦いに見入っている。
あまりにも圧倒的な追従を許さない強さ。その力強さと美しさにここに選ばれた強者たちだからこそ魅了される。
「ふふ、枯れかけの老いぼれが感じ入るほど。若者が何も感じない訳はない」
「だろう?あの方はそれでいて未だに完成しきっていないんだよ」
「ふむ、あれで未完。·····一体何処まで登られるのやら。恐ろしいような見てみたいような」
「少なくともオレは、見届けたいと思うぜ」
あれを見て振るわねえはずがねえだろ、ととても楽しそうな顔でウルガはシオリを見つめる。まるで幼き頃の少年の目のようだと彼は思った。
「まあ、一部信者ができているけどな」
「止めないのですか?」
「後で姫王様を揶揄るのに丁度いいからな。アイツらにも教えてやんねえと」
クククッと楽しげに笑う。こういうところがなければもっと姫王様に気に入られるだろうにと思うが、やはりこれこそがウルガ様だと改めて納得する。正面から姫王様のことを笑えるものなどこの国で彼以外は居はしまい。
「雷を纏って戦う·····美しい·····」
「雷神姫·····雷神姫様だ」
「雷神姫·····いいな」
「これからそう呼ぼう!」
変な感じになっている騎士たちを見て苦笑いしながら、ウルガ様は後で死ななければいいが、と考えながら、改めて騎士たちの帰還後の訓練メニューを考え始める。
「主に守られる騎士など路傍の石頃程度の価値もありませんからね」
「そうだな······」
すでに半分以上が落とされたワイバーンたちを見て副官は思う。
(我らの王はきっと時代と運命に愛された寵児なのでしょうな。そんなお方がこの国の王となったのもなにかの縁。この行く末、是が非でも見守らねばーーーー)
騎士たちが静かに熱狂を滲み出しながら、己たちの王を見る中、彼はそう決心した。
「これで最後!」
群れの最後の一匹を一文字に真っ二つにして落として地上に戻った。思ったのと違い、最後まで逃げずに向かってきた為、思いのほか早く倒し終わった。
「お見事でしたね」
「これぐらいの奴だったら普通だよ。魔竜王クラスだとちょっと苦しいけど」
魔竜王のときは魔法軽剣士型のわたしと、重魔法型の魔竜王とでは、元々わたしに分がある。魔竜王は速度はあまり無かったからね。相性自体良かった。最初はただ、種族的な力の差で押されていたから苦戦していたっていうのが真相。
ただし、戦士型だと一瞬で距離を詰められてしまうからかなり危なかったはず。魔法型だったのは幸運だったなぁと思う。
すこしあのときの、綱渡りじみた戦いを思いだし、よくやったなぁと遠い目になった。
と、そこでウルガのニヤニヤとした顔が目に入った。
「·································なに?」
思わず半眼になって問う。
もう既に宜しくない雰囲気を感じて、しかし聞かないというのも気になってしまうから悩み抜いてから聞く。全然いい感じがしないけど!しないけど!!!
「いや、ね。姫王様が随分とかっこいい名前で呼ばれていたから臣下のみとしてはとても嬉しく思いまして」
「·······?」
かっこいい名前ーーーわたしの名前はずっと詩織のままだけど、今さらわたしの知らないなにかに気づいたのかな??
「雷神姫·····ク、クフッ。す素晴らしいお似合いのふ、二つ名ですねッ」
「な、ななな·······!?」
なんですかソレは!?そんなことでわたしを呼んでいるなんて今まで聞いたことがーーーーーハッ!?
周囲を慌てて見渡すと、あちらこちらから「雷神姫様だ」「あの美しさは弁舌に尽くしがたい·····!」「おい!こちらを見られたぞ!!」などなどが聞こえてくる。
ギギギッとウルガを振り返って見ると、腹を抱えながら肩をプルプルと震わせている。
「く、ハハハッ、まずいツボった·····ハハハハハッt!!」
·······こいつ、今すぐにでもしばき倒して埋めてやろうかな?
一瞬、刀に伸びかけた手を理性を総動員して押さえつける。
だめだ。こんなんでもうちの国の元帥。叩きのめすのは外聞が悪い。それにこの調査には戦力はできるだけ多いほうがいいし、けが人を増やすのは良くない。
「ハハハハハハハハハーーーぐえっ!?」
「···············」
あまりに笑いまくるから我慢できず、思わず刀の柄で殴り飛ばしてしまった。
「········ちょ、いくらなんでもひどすぎませんか?ただちょっと笑ってただけーーーーー」
「その舌要らないの?」
「あ、スイマセン」
思いっきり冷ややかな眼差しで睨みつけると、さっきまでの勢いをなくし大人しく沈んだ。
大きな体を小さく丸めるのを視ると毒気が抜かれる。
「おい、今の見えたか?」
「いや全然、お前は?」
「いや······すごすぎるな。流石は雷神姫様」
もうすでに定着済みだと!?
「さすがでした。ありがとうございましたーーー」
騎士の一人がワイバーン討伐の例を言いに来てくれたので、返そうとしてーーーー
「ーーー|雷神姫(・・・)様」
ピキリ、と固まる。
「いや、その名前はーーーー」
「ありがとうございました雷神姫様!」
「おかげで大きな怪我もありませんでした」
「先程はーーー」
「えっと!ちょっと!?」
「雷神姫様ーーー」
「雷神姫様ーーーー」
「雷神姫様ーーーーーー」
「あ、う·······」
次々に間断なく話しかけられるから、二つ名を解消させる隙きもない。
「·····················もう好きに呼んで」
結局、あまりの押しに抗うことができずに押し負け、半強制的に二つ名が決定した。
·········取り敢えずまた爆笑しているウルガは後で締める。
······いつもの真面目さはどこへ行った???
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