第34話 亜由美とのお出かけ
「······わあ、マジモンの天使がいる」
目覚めと同時に視界に飛び込んできた亜由美の寝顔に思わず、人に聞かれれば変な目で見られそうな言葉が口をついた。
でも、実際に見てみればいかに亜由美が地上に降臨した女神のごとく美しいかがわかるはず。まあ、他人には一欠片も見せてやらないがなぁ!!
あけどないその寝顔を見ていると自然に頬がゆるむ。
しばらくじっと見ていると、亜由美が身動ぎをした。
「·····むう····お姉ちゃん?」
「うん。おはよう亜由美」
「ん···おはよう」
朝は相変わらず弱いようで、ぽやぽやしたままベットの上で目を瞬く。
思わず抱きしめたくなるのを抑えて服を持ってきた。
「ほら亜由美。もうすぐ薫さんが来るから、先に着替えちゃって」
「ん~着替えさせて〜」
――――はっ
ヤバい。一瞬意識が飛んでいたらしい。
くっ、もう中三だというのにこのあざとさは不味い。自分が使いようにならなくなる。
なんとか着替えさせ、朝から気力を振り絞ったところで外から薫さんの声がした。
「失礼します。······!?ど、どうかしましたか!?」
「な、なんでもない。気にしないで·····」
床に這いつくばるわたしに駆け寄ってきた薫さんを手で制して、問題ないことを伝える。
「よし、じゃあ朝ごはん食べに行こう」
「うん!」
手を取ってきた亜由美の手を握り返して食堂に向かった。
お祖父様はもう出たあとだったので、食べるのはわたしと亜由美の二人だけだった。
人に見られながらの食事にもようやく慣れてきていた。聖城ではそれがいつものことだったから、感覚が麻痺したとも言える。
「お姉ちゃん、ショッピングに行こう!!」
「え、いきなりなんで?」
食べ終わると突然言い出した亜由美に面食らう。
「だってお姉ちゃん、まともな私服持ってないじゃん」
「ーーーグハァ!!!」
わたしのメンタルにクリティカルヒットした。
「お姉ちゃんって基本的に機能性重視というか見た目に頓着しないじゃん?」
「う·····それはまあ」
人に見られるのとか結構どうでも良かったし、外に出かけることもあんまりなかったから別にいいかって、外出用の服は数着しか持っていない。それも大体はジャージのようなものや、運動系のものばかりでオシャレなのが一着のみ。
別にわざとそうしたんじゃなくて使いやすそうなのを選んでたらこうなってたんだよね。
「どうせまともなの持ってないでしょ?だから丁度いいかなって」
「む、むう·····」
反論できる要素がなさすぎる。
まあ、今日の予定は特に入れてないから別に構わないけどね。······五、六時間の拘束は覚悟しといたほうがいいかなぁ。
「分かった。じゃあ行こう」
「すぐ準備してくるね!!」
バビューンっとその運動能力を見事に発揮してあっという間に私の部屋にかけていった。
「ああ、別に同じ部屋なんだから急がなくてもいいのに·······」
もう見えなくなった亜由美に苦笑しながら、わたしも部屋に向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここに来るのも久しぶり。二年ぶりぐらいかな?」
三十分後。
わたしと亜由美は二人で駅前のショッピングセンターに来ていた。
亜由美がわたしの言葉を聞いて、やっぱりと言った顔をする
「普通はそんなに来ないことってないよ?普通は」
「引きこもりって言われてるみたいで地味に痛いな·····」
「事実でしょ?実際、お姉ちゃん家から学校以外ほとんど出なかったんだし」
「だっていっつも変な男の人に声かけられるし······」
ナンパと分かっていても、あのときは普通に怖かった。
まだ中学生だったし、皇流を納さめていても、肉体と精神的な強さとは別。家からでなくなった原因のナンパは、相手もそれなりの実力を持っていて、抵抗できなかった。その代わり、二度と負けないようにさらなる修行をして、免許皆伝をもらうことになったんだけど。
「まあ、お姉ちゃんって清楚系の美少女だし、目立たないほうが難しいと思うよ?」
「それを言うなら亜由美だって大人気じゃない」
小柄で、運動も良くするのにあまり日焼けしない白い肌。大和撫子といえばこれだろうみたいな容姿だし。性格はもっと活発だし表情もよく動くから、直ぐに想像と違うってわかるんだけど。
「お姉ちゃんほどじゃない。それより早く行こう!いいの売り切れちゃうかも」
「バーゲンセールでもないんだし急がなくてもいけるって」
わたしの手を取って笑顔で店に案内する亜由美を見て、わたしのいない間、何もなかったようだと安心する。
昔はこの可愛い容姿のせいで、わたしがいないとすぐにいじめられていたり、怪しい人に声をかけられていたりしてたしね。怪しい人の場合、わたしも連れて行こうとしたりしてたけど。
「これとかどうかな。シンプルだし、お姉ちゃん好みでしょ?」
「たしかに、こういうのならいいな」
渡されたのはシンプルな膝下の白い服と青の丈の短いスカート。あまり飾らないこれは普段遣いにはできるはず。白の服に青のスカート、白の髪と紅眼。我ながらめっちゃ浮きそう。
「ほらほら、試着しちゃって!」
「え?わ、分かった!」
勢いに押される形で試着室に入る。
「えっと·····どう、かな?」
こういう服はなかなかに久しぶりでちょっと新鮮に感じる。
「うん、いいね」
「じゃあ、これを買っていこーーーー」
「じゃあ次はこっちね」
「え?まだやるの?」
嘘でしょ、みたいな顔で見ると、亜由美がやれやれといった感じに言う。
「まだ一着目なんだから当たり前だよ。最低でもあと十着は見繕ってもらわないと」
「そんなに着ないから!流石にそんなにいらないよ!」
「お姉ちゃんはもっとファッションに気を配るべきだよ。せっかくの美少女っぷりなんだから!恋人できないよ」
「別に作るつもりはないからいいかなって······」
「またそんなこと言って·····」
「人生何事も楽しまなければ損ということだしね!」
過去にも未来にもいないし作る気もない。そんな荷物を背負っていられるほど暇じゃないし、フォルニアでみんなといたほうがよっぽど楽しいと思う。大体、いやらしい目で見てくる人がほとんどだし、そんな人なんてそばに置きたくない。
はあ〜っと亜由美がため息を吐いて、そのまま試着室にわたしを放り込んだ。
「??????なに!?なんで??」
いきなり試着室に放り込んだ亜由美がいつもより若干低い声で、試着品をしまったカーテンから試着室にいれてきた。
「取り敢えずこれを全部試着して見せてね」
「これ全部????」
目を向ける足元には既に十着ほどの洋服が入れられていた。
この量でまだ選んでる亜由美にどれだけ着替えさせるつもりなのか、一体どれだけの時間をここで使うかを聞きたくなる。
「ほら早く見せて。全部見れなくなっちゃう」
「なるほど、最初からそれが目的だったね?」
「お姉ちゃんの服を揃えるのも目的の一つだよ。ほら早く」
「ちょ、ちょっと!?」
女の買い物は長い。それを身をもって知ることになるのはこの数時間後のことだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
やっと服を買い終わった後は、二人でアイスを食べたり、ゲーセンで遊んだりした。
ゲーセンで亜由美がルーレットみたいなのをしてたけど、あまりにも弱すぎてメダル千枚を溶かしていたのにはツボに入った。
ムキになればなるほどドツボにはまっていっていて、ここまでうまくハマるものなのかと最後の方は感心していたぐらいだった。
「ただいま~」
「ただいま」
「おかえりなさいませ。もう旦那様と静子様、拓人様がいらっしゃいますよ」
「すぐ行くね」
出迎えてくれた薫さんに買ってきた服の入った袋を渡し、急いで部屋に戻り亜由美と一緒に着替えて食堂に向かった。
「ただいま、おじいちゃん」
「ただいま、お祖父様。待った?」
「いや、全然待っていないぞ。来たばかりだからな」
「なら良かった」
お祖父様と待ち合わせた恋人同士のようなやり取りを交わしながら席につく。
「お母さんとお父さんは?」
「もう来るはずだ。久々に詩織との対面だ。あの二人、意地でも今日会いに来るといってな。早々とノルマを達成して早めに帰って来ておったぐらいだしな」
さらっと無理するのはやめてほしいな〜。わたしに会いに来てくれるのは嬉しいけど、だからといって体を壊すと元も子もないし。
やがて少しすると急いでやってくる二人の気配が見えた。
「「詩織!!」」
ひしっと抱きしめてくる二人にそっと抱きしめ返す。
「ちょっと忙しくてあんまり会いにこれなかったの。ごめんなさい」
「別にちゃんとした理由があるなら謝る必要はないわ」
「そうだな。無事なら大丈夫」
少し名残惜しそうに離れると、そこで初めて二人が亜由美に気づいた。
「ああ、亜由美いたの?」
「ほんとに今気づいたかのように振る舞うのやめてよ〜」
「ハハハ、冗談だよ」
「ほんとに???最初から気づいてたよね」
なにげにわたしの両親がひどい。
三人でワイワイとしているうちに、暇なときに作った魔法<|収納庫(ストレージ)>からお土産を取り出す。
「これお土産です」
「これは····宝石か?」
「龍結晶っていうフォルニアでも最高峰の宝石の一つで、特に大きいものなの」
「これはどの大きさともなるとかなりの価値があるだろう。億はいくのではないか」
「向こうではもっと上だったよ。金貨七万枚(約七十億円)だったかな」
「それは凄いな·····」
「「「···············」」」
ふむ、と龍結晶を光にかざしたりして鑑賞しているお祖父様を除いて、お母さんとお父さん、亜由美は完全にフリーズしていた。
「ーーーはっ!?お姉ちゃん!いきなりこんな高価なもの渡さないで!?傷つけたらどうするの!!」
「研磨し直したらいいだけだよ?」
「庶民の発想じゃない!!」
「一応姫王だからね」
このぐらいでいちいち驚いていたら城の中で過ごせなくなっちゃう。無造作に置かれている置物とか家具とか絨毯に至るまで全て最高級品だからね。
最初こそ壊さないようにって戦々恐々してたけど、途中から慣れてきて警戒してたのがバカらしくなっちゃったんだよね〜。まあ、どこもかしこもそんなものばかりだから、感覚がバカになったとも言える。
「まあ、好きにしていいよ。加工したいんだったらわたしがするから言ってね」
「いや、大切に保管しておくよ」
「おいそれと持ち歩けないものね·····」
ついでに渡したちょっと金で装飾された宝石箱(手作り)に入れながらお父さんとお母さんがそおっとそれを置いた。
「そんなに気を使わなくてもそうそう壊れたりしないよ」
そもそもダイヤモンド並みの強度を持っているんだし、壊そうとしない限りめったなことでは壊れはしない。
「お土産ももらったところで夕食にしよう。今日は全員揃っているからな。特別に黒毛和牛のステーキだ」
「また食べすぎて倒れないでね」
「ホントだよ。いい年して食べ過ぎで病院行きとかわたしも恥ずかしいんだから」
「······気をつけよう」
少しの縮こまったお祖父様に笑うとまもなくして、料理が運ばれてくる。
「それじゃあ食べようか。詩織の話も聞かせてくれ」
「もちろん。結構色々あったから一日じゃ無理かもだけどね。まず、戻った後にねーーーーー」
久しぶりの家族との食事は聖城の食事とは違って穏やかで温かかった。
そして賑やかに談笑しながら夜が更けていった。
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