第24話 王国到着

出港してから一日もかからず、船は王国の港町、ヴィルフリート曰くハゼルに接近していた。

当初の予定では最短距離にあるミズルにしようと考えていたけれど、ヴィルフリートの進言の元急遽、この街に変更していた。

この少し遠回りになる港町にしたかというと、ここの領主が王太子派だからだった。

ちなみにミズルは中立派で敵というわけではないけれど、念には念を入れてらしい。


「まずは刺激しないように先触れを出しましょう。ただでさえこの船は大きいので、威圧感がありますし」


「分かってるならもう少し小さくはできなかったのか····?」


「小さくしたら使いづらいじゃないですか」


ヴィルフリートがなんか頭を抱え始めた。

ひとまずちょっとした騒ぎになっているハゼルにわたしの近衛騎士とヴィルフリートたちの騎士を小型艇で先触れを出す。

二十分ほど時間がかかったけれど、なんとか許可が取れた。

どうやらヴィルフリートが持たせていた王家の紋章入りの懐中時計が効果を発揮したらしい。さすがの権力、いや、権威かな?

わたしも皇国でやれば······やめておこう。むしろとんでもない騒ぎが起きるのが目に見えている。迂闊に使えるものじゃない。


「両殿下。よくぞご無事で!」


「ああ、運も良かったのだ。心労をかけてすまぬなハインメル伯爵」


「いえこの程度、殿下のためを思えばなんでもございません。······それでそちらの方々は一体?」


ハインメル伯爵がこちらを見ながらヴィルフリートに問いかけた。

まあ、見知らぬ人間が騎士をぞろぞろと引き連れていたらそりゃあ気になるでしょうね。わたしだって気にするというか警戒するし。

動きにくい皇服だけど、なんとか優雅に見えるように意識しながら前に出る。


「シルトフォード神聖帝国国主、シオリ・スメラギ・フィン・シルトフォードと申します。以後お見知りおきを」


「シオリ殿は私を救助してくれた国の王でな。今まで保護してくださっていたのだ。」


「くれぐれも失礼のないようにお願いね」


「か、畏まりました!」


王と聞き、慌てて周りにいた伯爵の騎士たちに指示を出し始めた。

いきなり現れた王はたしかに怪しいけど、王太子が言ったなら間違いはないと取ったってところかな。まあ、いきなり王を名乗るやつなんて怪しく思えて当然だしね。


「ひとまず応接間へどうぞ。何があったのかを国王陛下にも報告しなければいけませんので」


「もちろんだ。シオリ殿はどうする?先に部屋に行かれても構わないが」


ん〜、たしかに早く休みたいけど報告は正確な方がいいだろうし


「わたしも同席しましょう。あの船など、聞きたいことは多そうですしそういうのは早めに終わらせるに限ります。エフィーもそれで構いませんか?」


「ええ。シオリと一緒のほうがいいわ!」


というわけで同席したのだけど、ここからが少し長かった。

わたしの身元は既にヴィルフリートが保証しているから問題ないけど、どこの国なのか、あの船は何なのか、なんの目的でこの国に来たのかなどを根掘り葉掘り聞かれた。

だんだんめんどくさくなってきたところでエフィーがそれを察し、早めにわたしだけ切り上げて退室させてくれたことで、適当な答えにならずに済んだ。


「うーん疲れたわ·····」


はー、と長めのため息をつくと二人が苦笑する。


「こんなことならリグルスに相手にさせていたほうが良かったわね·····」


さっきの頭の痛い言葉の攻防はあまりやりたくない。あんまり無理したらポロッと手札を晒してしまいそうになる。


「かなりうまくやれていたと思うけどね」


「そうよ。あのハインメル伯爵相手にまともな交渉を行えるだけでも十分凄いわ」


「そうかな?」


「そうよ」


たしかにあんなのが平均の世界とか考えたくもない。あれが平均なら凄いやつはどんなんなんだっていう話になってしまう。


「ハインメル伯爵は元外務大臣だ。我が国でも交渉術で彼に敵うものはほとんどいない」


「以前交渉しているところを見せてもらいましたが、相手は泣いて帰っていきましたし」


交渉相手が泣いて変えるって·····。恐らくギリギリまで絞り上げたんだろうな·····。


「まあそれは置いておきましょう。二人は明日王都に向かうんですよね」


「ええ、その予定ですわ」


「護衛として騎士団を出してもらうことになったしな」


「騎士団か·····」


わたしも近衛騎士たちを連れてきているけど


「わたしの近衛騎士と比べてどっちが強いと思う?」


「それはもちろんシオリの近衛騎士だろう」


「間違いなくそうですわね。まず、負けることはありませんわ」


「·····そこまで?」


「当たり前ですわ!」


エフィーによるとこの世界の騎士は一般騎士で戦闘力を100とすると、精鋭騎士で300から400。対してわたしの近衛騎士は700から800で、この国の近衛騎士すら100から200程も上回るらしい。


「それじゃあわたしは·····?」


「魔王竜は脅威度大災厄級だから10万は下らない。かつて討伐しようと挑んだ英雄の中に9万の人間がいたからな」


「まあ、とどのつまり、シオリは魔王竜と同じで10万は下らないというわけですわ」


「怪物認定ですか·····!!」


「ある意味間違ってはいないな」


わ、わたしはまだ人間。まだ人間よ!!

そう簡単にやめてたまりますか。ただでさえ、ココ最近は信仰対象化しているような気配が皇国内であるというのに!!


「じゃあ、アメリアとリグルスはどれくらいですか?」


「模擬戦ぐらいしか見たことないからはっきりとは言えないが、アメリアは25000程度、リグルスは23000ぐらいだと思う」


「前衛と後衛ですからどちらが強いとは言えませんが」


やっぱり強いんだ。あんまり戦う機会がないせいで曖昧だったけど、凄いなぁ。まあ、亜竜とかよく二人で群れごと落としてたし、そんな気はしてた。


「そうなの。じゃあうちの騎士団って凄いのね。じゃあ王都までは安全ね」


「あの大人数の騎士を襲ってくる盗賊のたぐいはいないだろうしまずそうだろうな」


「私としては公爵派の襲撃が不安なのですが·····」


「大丈夫だ。以前と違って数倍以上の護衛たちがいるし、備えも怠っていないからな」


キュッと手を握りしめるエフィーにヴィルフリートが優しく声をかける。


「それに、今回はわたしもいるから安心してください。絶対に二人だけでも守りきってみせますよ」


わたしの言葉に二人がふふふっと笑う。


「シオリも王なのですからちゃんと守られておかないとだめですわ」


「ふふ、くくくっ。そうだな。だがとても心強い。こういうのは然るべき報酬が必要だがーーー」


「いりませんよ。国を巻き込むようなことならまだしも、友達同士のやり取りでしょう?」


「やはり、シオリらしいな」


三人で笑い合う。

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