第23話 出港
あれからしばらくして泣き止んだエフィーとヴィルフリートに出発は三日後に予定している旨を伝え、しばらく雑談してから部屋を出た。
「出発前に諸々の最終確認をしないと」
執務室に戻ると、出来得る限りの留守中の作業を進めていく。
この国も大きくなっているから、調整は大変になっちゃってる。
まあ、軍部も政治も随分と整ってきてるからある程度までならしばらくは丸投げできる。何なら、<転移>で途中途中に帰ってきてもいいしね。
官僚組織は八割方できていて、衛星都市も安定してきている。増えた二十ほどの都市もある程度は整ってきた。
軍の方は、近衛騎士団六百と皇軍3万、守備軍2万が配備され、各都市に二千ずつ程が振り分けられているから、いきなり大軍で攻められない限り、防御面でもほぼスキはない。それに、皇軍の殆どが皇都に駐在しているから、皇都内で開発している魔導具や、新型農法、魔力を使った開発中の星煌炉、組織はまず安全のはず。
というか、これで皇都を落とされたら何をやっても落とされてしまうだろうし。その時は諦める。
「連れて行く人員はどうしようかな·····」
まず、リリアとアルマはわたしの専属ってことで決定。
アメリアも護衛に必要だから外せない。そうなれば、近衛騎士も必要だし最低二百人。グラセフたちは連れていけない。わたしが抜けた穴を埋めてもらわなくてはならないし、第一グラセフ以上に内政面で頼れるものがいない。
「と、なると、連れていけるのはリグルスぐらいしかいない·····」
人材不足もいいところだと思う。まあ、信頼できる臣下が少ないから仕方ないんだけれどね。
流石に憂鬱になるってものよ。側近以外の外交官でも連れて行こうかな。
口調の方も大分貴族?皇族?ぽいものにできてきていたし、作法の方もフォネアとエフィーから教えてもらっていた。一応及第点はもらっている。
「·····行かなきゃいけないんだけど、少し旅にでも出たい気分だわ」
でも、問題は王国だけじゃなく、設立したわたし直属の隠密部隊“陽炎”から、南方に存在するのが確認されたグオルジス帝国もある。
南方一帯を支配する強国で、侵略国家。更に、帝国の名に恥じない軍事力を持っていて、国力で言えば我がシルトフォード神聖皇国を上回る。
事を構えたくない国なのに、よりにもよって目をすでにつけられているらしい。
ここまで派手に動いてたらそりゃつけられるか。
まだ国境線を接してないから助かっているけれど、それも時間の問題だと思うし。
「とりあえず、守備軍は南側に集中させて、皇軍1万を東西に振っておきましょう」
西側には西部七氏族連合が、東側には中小氏族と大氏族のファルムノ氏族があるため、迂闊に軍を減らせない。帝国と事を構えるにしても、三面同時作戦はなんとかして避けないとどうあがいても勝ち目はない。
「まあ、流石に今回は動かないでしょうけど」
ボソリと呟いた言葉は護衛として控えていた近衛騎士以外には届かなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
三日後。
わたしは白を基調に銀糸金糸などであしらわれた、無駄に重くて布で重ねられていて、豪華な皇服を着せられていて、胸元にはわたしの紋章の刀と桜の花の彫刻がされた金の円盤が下げられていた。
そんなわたしは今、港町ラインスに来ていて、乗船しようとしていた。
「さて、それでは乗りましょうか」
「「「「「「「「·······」」」」」」」」
「どうかしましたか?」
「「「「いやいやいや、おかしい(でしょ)(わ)(だろう)!!??」」」」
「「「「「「「「「「「······」」」」」」」」」」」
「ふぉ、ふぉ。これはまたすごいものを作られましたなぁ」
我に返ったエフィー、ヴィルフリート、アルマが絶叫する。近衛騎士たちも沈黙する中で、リグルスの感心したような声だけが場違いのように響き渡っていた。
·····まあ、正直やりすぎたかなって思ってる。
船名はエリシオン。
星煌炉の劣化版の魔煌炉を搭載していて、最高速度は100ノット。全長1000メートル級で、主砲として電磁加速砲、副砲として魔弾砲、副武装として魔導追尾飛行体ーーいわゆるホーミングミサイルーー、高射炸裂砲、水中破砕砲、高出力魔力障壁、設置型大魔法陣などが搭載されている。
いわゆるオーバーテクノロジーの塊だし、使われている素材も、骨組みにオリハルコン、船体は魔鋼、装甲は物理•魔法の耐性がとてつもなく高いアダマンタイトを使用。勿論中枢部にはミスリルが詰まっている。
これ一隻のために金貨2000万枚(2兆円)をつぎ込んだ。
その分性能は折り紙付きで超快適。内装にも凝っているし、遊戯場などもあって、一種の豪華客船になっている。
「金は使いましたが、それに見合うものですよ?見てみてください」
ひとまず、一人一部屋を与えて、船内を回って見せていく。
「ここがダンスホールで向こうがバイキング形式の食事場。この先が屋内庭園で、向こう側が大浴場ーーーー」
ひとつひとつ丁寧に案内していると、最初は驚愕していたのがだんだん顔色が悪くなっていき、最終的にはリグルスを除く全員が何故か遠くを見るような目をしていた。
「大丈夫ですか?」
「ええ大丈夫ですよ」
「本当に大丈夫ですよ。少し·····私たちの常識が破壊されただけです·····」
「常識·····?」
たしかにこの船は非常識といえば非常識だけどそんなに燃え尽きるほどのものだろうか?
頑張れば作れる程度のもののはずなんだけど······。
リグルスは他と違って嬉々としてあっちこっちに動き回り、この船を解析しようとしているけど、残念。この船には鹵獲された場合に備えて<情報隠蔽>の魔法をかけているからね。
先回りしてこういうのはしておくのが基本だしね。こういうのを忘れていると、後々そういう状況に直面した際に面倒な事になる。
船の海兵がその様子を見て困惑していたので、出港せよと合図を出した。
ほとんど揺れもなく出港するエリシオンに乗りながら、わたしは王国に思いを馳せた。
当事者二人の気持ちを置き去りにしたままに·····。
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