第22話 王国への道筋
予定していた一月を過ぎ、城内はようやく日常を取り戻しつつあった。
穂乃香やグラセフたちの補助もありなんとからってこれた感じ。
一人だったら確実にぶっ倒れてたに違いない。
「きたよー」
「いらっしゃい、シオリ。今お茶入れる」
「ありがと、エフィ」
エフィーが手ずからお茶を出してくれた。
実は、エフィーリアは王族の肩書とかが嫌いな、まあ珍しいタイプの王族で、同じようなわたしと何度か息抜きにお茶に訪れるうちに意気投合。
今では愛称で呼ぶ仲になっている。
「!なんかお茶入れるの、上手くなってない?」
「ふふふっ。ありがとう。ここのところシオリの侍女のリリアに教わっていて、筋がいいと褒めてくれるまでになったの」
「え?リリアに褒められるって凄いよ?やばくない?」
基本的にリリアはあまり人を褒めない。人工生命体という弊害でもあるのかもしれないけれど、彼女は常に完璧か、完璧に近い完成度を求め、更にそれを他者にも求めるから。
まあそのおかげで、この短期間で城のメイドや執事たちがヴィルフリートやエフィーたちから認められるほどにまで磨き上がっていた。
まあ、その代わりにわたしにリリアにもう少し訓練の強度を下げるように言ってほしいと、大量の嘆願書が届くことになったけど。
もうなんていうか、すっごい必死さを感じる文だった。わたしがリリアを諌めたときなんて、なんかみんなして泣きながら「一生ついて行きます!!」と言われたのにはビビった。
今までどんな訓練だったのかを思って不憫に思ったぐらいだった。
そんなリリアが褒めるということは、その基準を満たしたということになる。
というわけで、この紅茶、マジうまし。
「ここのところは少しはマシになってきたようね」
「ホントだよ。一時期は完全に修羅場だったからね」
それはもう行政官たちが鬼になるほどに。
あの空気はほんとにやばかった。イチ徹ぐらいは当たり前で最高でサン徹の人もいた。最たる例はグラセフで、下っ端の行政官じゃ近づけないほどのヤヴァイ威圧感を放っていたらしい。
「だ、大丈夫?」
「ーーああ、大丈夫大丈夫。全然大丈夫」
「自分で聞いててなんだけれど、全然大丈夫そうには見えなかったんだけど······」
どこか、乾いた笑みを浮かべるわたしを、エフィーが心配そうに見つめてくる。
·····あの修羅場だけはもう味わいたくないなぁ。
そんな感じでエフィーに愚痴をこぼしていると、隣の部屋からヴィルフリートが出てきた。
「何やら賑やかになってると思ったら、シオリが来てたのか」
「ヴィルフリート。邪魔してますよ」
「いや、賑やかなことはいいことだしね。暗いよりはずっといい」
「見知らぬ土地で私達が笑えるのは、シオリがいてくれるからだもの」
「大袈裟よ。わたしもここじゃ素を出せるしお互い様だと思うよ」
他のところだと私室ぐらいしかないし、執務室じゃ普通の行政官たちが確認のために出入りしているからくつろぐこともできないし。地球でも機密があるから迂闊に愚痴も言えない。ポロッと漏らしたら世界が違うから大惨事にはならないけど、あまりいいこともないだろうし。数少ない泉というかオアシスがここというわけ。
まあ、仮にも他国の王族の部屋だし、入り浸れないところが難点といえば難点かな。
「オアシスとは面白い言い方をするね」
「わかりやすくていいでしょ?砂漠の中の水場」
「言い当て妙ね」
「何事もわかりやすいのが一番だしね」
「シオリは一国の主なのだから·····」
「えー?」
しばらくの会話を楽しんでから、わたしが今日来た本題を話すことになった。
「今日わたしが来たのは、もうすぐ準備が整うってことを知らせに来たの」
「準備って····もしかして」
「うん。ようやく落ち着いてきたところだからね。そろそろファルサス王国に船を出そうと考えてる。だから、二人にも準備してほしい」
わたしがそう言うとエフィーは感極まったように涙目になる。
まあそうなるだろうなぁとは思っていた。エフィーはまだ十四歳だし、突然暗殺から逃れてたどり着いたのがここ。周りには兄と数少ない護衛だけで、連れてこられたところも安全かどうかわからない。
王族として、弱みを見せられない中、一月以上も耐えてきたんだ。これぐらいは見なかったことにしておこうかな。
「ありがとうシオリ。そなたがいなければ、私達は生きて帰れなかったはずだ」
エフィーを抱きしめながらわたしに静かに頭を下げた。
わたしは泣いているエフィーを微笑しながら見て、ゆるりと首を振った。
「友達のためだからね。それに、まだ帰り着いてないんだからその言葉はまだ早いと思うよ?」
まだ出発もしてないのに、と笑うと「それでも、だ」と言って、笑った。
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